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text:Matt Burt (マット・バート)

もくじ

ー クルマの名前 メーカーが決めない?
ー 造語のモデル名が増えてきた理由
ー 「カーブ」 他方では「売春婦」に
ー ロバート・ピラーに聞く 新しい車名を作り出す方法

クルマの名前 メーカーが決めない?

自動車メーカーが車名を決める時、Brandwidth社というクリエイティブ・エージェンシーのブランド戦略部門トップであるロバート・ピラーのようなプロを頼ることが多い。

外部の第三者に、何百万ポンドもする産まれたてのクルマの名付け親になってもらうのは奇妙かもしれないが、名前を付けるというプロセスは法的に複雑でありながら、潜在性を秘めているのでプロに任せた方が良いのだ。

「あらゆる戦略的配慮が求められるんです」とピラーは言う。「モデル名は市場にアピールできて、クルマの本質を捉えたものでなくてはなりません。しかも、その自動車メーカーの製品ラインナップや、それまでのネーミング規則にも沿ったものでなくてはならない。さらに、実際に使える名前なのかどうか、商標権も考慮する必要がありますね」と彼は続ける。

ほとんどのメーカーはこれまでネーミングに一貫性を求めてきた。例えばフォルクスワーゲンはシロッコ、パサート、ジェッタのように、風に因んだ車名が多く、ランボルギーニは闘牛に由来する名前を付けてきた。

ピラーによると、「過去には各ブランドがこぞって製品群を作り出そうとした時期があったが、その後はラインナップを拡大させるようになりました」とのこと。

フォードは長年にわたってフォーカス、フュージョン、フィエスタなど、Fから始まる名前を使用してきた一方、クーガやC-マックスのような名前も付けている。

これは、「Fで始まる、聞き慣れた一般的な言葉の車名は同社の主力製品、造語の車名は違うタイプの製品」だということをわかりやすくアピールするためだ。

ではなぜ、造語や既存の単語を変化させたモデル名が増えてきたのか?

造語のモデル名が増えてきた理由

造語や既存の単語を変化させたモデル名が増えてきたのは、実在する単語で使用できるものが足りなくなってきているから。

「実在する単語を使ったネーミングは、1990年代の半ばに商標登録の件数がピークに達してしまったんです」とピラーは言う。「現実的で情緒的な、楽しい、顕著な単語が徐々になくなってきましたし、自然な響きのする単語を見つけるのが難しくなってきましたね」とのこと。

それに対する自動車業界の対応策は市場にも浸透してきた。

キャシュカイやカロクに使われているQやKといった文字はSUVクラスの耐久性を表現し、アイオニックやボルトに使用されているEやIは、電気自動車やハイブリッド車の科学的な響きがする名前に用いられることが多い。

ピラーによれば、「1社が独特なネーミングで賭けに出ると、他社もそれに倣うようになります」とのこと。「今やほとんどのSUVに技術的な響きの名前が付けられ、KやQのように扱いが難しい文字を使うことも定着してきた。そうやってひねりだした名前は、商標登録しやすいというメリットもあります」

ブランディングのプロは、どの国でもその車名が通用すること、そしてコンピューターが作り出す名前よりも心に響くものにることを請け負う。過去には、ある言語や文字から別の言語にうまく翻訳できない名前もあったからだ。

「カーブ」 他方では「売春婦」に

「何が良くて何が悪いか、わかるようになるんです」とピラーは言う。「例えば、かつて『カーブ』という字面が含まれる名前を検討したことがあったが、それだと言語によっては『売春婦』という意味の単語に似てしまいます。だから使えませんでした」とのこと。

ではこの先はどうだろうか。ライドシェアリングや自動運転車がトレンドになりつつある中で、果たしてひとびとは自分がどのクルマに乗っているかなんて意識するだろうか?

「気になるのはどのブランドかってことだけでしょうね。ブランドといえどもクルマのメーカー名だけでなく、ライドシェアリングのサービスを提供するブランドかもしれませんね」

「だから近頃自動車メーカーが必死にモビリティ事業に手を出しているんです。フォルクスワーゲンがモイアを立ち上げたように。メーカーとエンドユーザーの間に入る仲介者としての立ち位置も手にしておきたいんでしょう」

ピラーはまた、キアがプロ・シード(Pro_cee’d)やシード(Cee’d)など、車名にアポストロフィを付ける画期的な手法を用いたことを称賛している。

ピラーいわく、「常に新しい何かを模索することが大切なんです。マスターブランド体系を採用しているかそうでないかにもよりますが、キアは個性ある車名ブランドを冠して市場シェアを獲得しています。大胆かつ奇抜なブランドであり続け、ライバルがやらないことを敢えてやっていますね」とのこと。

自動車メーカーが自社製品を際立たせるためにどこまで企業ブランドの存在感を消せるか、が大きい。

ピラーはこれまで等号やモールス信号のドットとダッシュを使った名前をあれこれ考えてみたことがあるそうだ。パーティの場で定番のクルマ話しになった時、その場が盛り上がるような名前をね。

具体的に、新しい車名を作り出す方法を聞いてみた。

ロバート・ピラーに聞く 新しい車名を作り出す方法

方法1:常識に囚われない

「ヴォグゾールは最近までメリーバ(Meriva)、モッカ(Mokka)、ベクトラ(Vectra)、インシグニア(Insignia)のように『A』で終わる車名を付けていました」

「ところが、それまでのヴォグゾール車とは全く異なるクルマを投入するにあたって、フィアット500や他の競合車が独占していたニッチ市場のシェアをつかむためにアダム(Adam)という名前にしてみました」

「ネーミングのパターンを変えて、今までとは違うクルマだってことをアピールしました」

方法2:言葉を造る

「僕はヴァーソという名前が本当に好きなんです。トヨタは過去のネーミング様式を踏襲しつつ、さらに幅を持たせることに長けていると思います」

「ヴァーソは造語なのに実在する言葉のようだし、その響きから色んな意味が備わっているような感じがしますね。トヨタはよく考えたもんです」

方法3:具体性を持たせる

「僕は昔のクワトロという名前も大好きで、すごく共感できるんです。この名前のお陰でアウディがミドルマーケットからステップアップできたと言えるぐらい、絶大な効果がありました」

「イタリア語で4を意味するクワトロは、力強さと俊敏性を備えた四輪駆動にちなんで付けられました。音の響きもダイナミックな感じがしますしね」

方法4:伝統を生かす

「ルノーはずっとモデル名に数字を使っていたけれど、ある時からゾエやエスパスのようにフランス語の響きがする単語に変えました」

「多くのライバルが英数字を車名に使っていたから、熾烈な市場争いを勝ち抜くためにルノーはフランス出身ということを巧く活かすことにしたんでしょう」