嵐が示した“アルバム”というフォーマットの可能性 宗像明将の『「untitled」』評

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 嵐がデビュー18年目にしてなお未完であることを高らかに宣言するアルバムが『「untitled」』。驚いたのは、意図的に混沌とさせたであろう部分が随所にあり、嵐にとっての『ホワイト・アルバム』(ビートルズの『The Beatles』)のようなアルバムだからでした。

 私が『「untitled」』で一番驚いたのは、2曲目の「つなぐ」、3曲目の「『未完』」、4曲目の「Sugar」の流れです。シングルでもリリースされた「つなぐ」は、チャート連載(参考:嵐、シングル『つなぐ』は“手練れの仕事”だ 大胆な和洋折衷サウンドを読み解く)でも紹介したように、スライドギターが聴く者をアメリカ南部へと誘うサウンド。「Sugar」は、ボーカルワークも美しい洗練されたダンスナンバーです。

 では、その「つなぐ」と「Sugar」の間に置かれた「『未完』」はどうなのか? 聴いてみると、EDM、ジャズ、和風、クラシック、ヒップホップとめまぐるしく展開していくのです。わずか約3分半の間に。「つなぐ」と「Sugar」の間に「『未完』」を置く大胆さ。しかも、この楽曲がリード曲として位置づけられている点に『「untitled」』というアルバムの性格は凝縮されています。

 一方で、冒頭を飾る「Green Light」は、アーティストとしての嵐の姿勢をよく表している楽曲です。生々しいほどメンバーのボーカルの個性が際立つ、ボーカル・オリエンテッドな楽曲。ジャニーズ歌謡の美学すら感じさせます。

 シングルでもあった「Power of the Paradise」は、ラテンを意識したリズムに壮大なストリングが響く洗練されたサウンド。続く「ありのままで」は、1970年代のモータウンを連想させるソウルナンバーです。サウンドを比較的シンプルにして、メンバーのボーカルをいきいきと伝えているのも意図的なものでしょう。やはりシングルだった「I’ll be there」はスウィングジャズ。「光」はゴスペルコーラスとともに始まり、ボーカルグループとしての嵐の魅力を体感させます。こうしたサウンドのミクスチャーを日本のメインストリームで堂々と行っているグループが嵐なのです。

 さらに、キャッチーなギターロックの「風雲」、R&Bナンバーの「抱擁」、バラードの「Pray」、壮大さとスピード感をあわせもつ「彼方へ」もあり、全方位的にJ-POPにアプローチしているかのようです。

 ところが、『「untitled」』の最後に登場する「Song for you」は、なんと11分以上にも及ぶ一大シンフォニー。その極端さと情報量の多さは、「『未完』」とセットになっているかのようで、『「untitled」』というアルバムの性格を如実に表していると感じました。

 通常盤にのみ収録されているDisc 2は、嵐というグループの楽曲のバラエティを補強しているかのようです。相葉雅紀・大野智・櫻井翔による「バズりNIGHT」は、1990年代ヴェルファーレのパラパラを髣髴とさせます。松本潤・二宮和也・大野智による「夜の影」は艶やかなR&Bナンバー。相葉雅紀・二宮和也による「UB」はアコースティック感覚が強いサウンド。松本潤・櫻井翔による「Come Back」はヒップホップ。そして、ボーナストラックの「カンパイ・ソング」はパーティーチューンです。

 『「untitled」』というアルバムが真に衝撃的なのは、嵐ほどのアーティストが「アルバム」というフォーマットを駆使してここまで攻めてくるのかという点です。すでに古いものとされているCDというメディアの可能性さえ提示しています。しかし、それは間違っても懐古的ではなく、2017年のJ-POPとして高い強度を誇るサウンド。だからこそ『「untitled」』という冒険作は成立しているのです。なにしろ、ほぼ実験作なのですから。(宗像明将)