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もくじ

ー いま、セナの代わりを選ぶなら
ー もっとも偉大なホットハッチ
ー あくまで「本気のひと」のための
ー シビックのことを忘れそうになる
ー (おまけ)タイプR:栄光の5台と英国の中古車相場

いま、セナの代わりを選ぶなら

この25年間、ホンダにとってのタイプRとは何だったのだろう? その答えを探るべく、ダン・プロッサーは1992年式NSX-Rと2017年製シビック・タイプRのキーをとった。

このビデオを見た事があるだろう。茶色のローファーに残念なほど真っ白い靴下。アイルトン・セナが1990年代初めに鈴鹿でホンダNSX-Rをテストした時のものだ。

セナにとっては単なる宣伝活動であり、わたしのようなマニアが四半世紀経った後もあの日の事を延々と語り続けているなんて、当時の彼は想像もしなかったに違いない。

でも忘れ去ってしまうにはあまりにも惜しいとはお思いにならないだろうか? 歴代最高のF1ドライバーのひとりが、チャンピオンの座が脅かされていたとは言えその頂点にある時に、レース界における伝説のサーキットのひとつで特別なスーパーカーを疾駆させている。まるで外科医のように正確なヒール&トウと縁石に乗り上げながらの4輪ドリフト……。

茶色のローファーに残念なほど真っ白い靴下には首を傾げざるを得ないが、そのドライビング・テクニックにはいささかの影響もない。

2017年7月のイギリスグランプリまで時計の針を進めて、現在のF1ドライバーの顔ぶれで当時を再現してみたらどうだろう。

伝説のF1ドライバーの代わりを務めるのはフェルナンド・アロンソ以外には考えられない。そしてクルマは新たに登場したばかりのシビック・タイプRである(まさにこのページの写真のクルマだ)。

写真撮影の後、地味なトレーニング・シューズと地味な靴下を履いた2度のタイトルを誇るワールド・チャンピオンが、シビック・タイプRを走らせるのは、もうひとつの伝説的なサーキットであるシルバーストンである。

しかし、Q3進出をかけてマゴッツとベケッツのふたつの名物コーナーを攻めるはずが、アロンソは「F1関係者用」と表示された駐車スポットにあっさりとクルマを押し込んでしまうだろう。

なるほど。あの鈴鹿を超える瞬間などないのだ。

シビック・タイプRとあの素晴らしい初代NSX-R(このクルマはセナが運転したチャンピオン・ホワイトではなく、パール・イエローに塗られていた)がわたしの前に並んでいる。キーはポケットにある。まさに今こそこの25年間について語るべき時だろう。

もっとも偉大なホットハッチ

5代目となるシビック・タイプRと究極のNSX-R、あまりに車高が低いのでつまずいてしまいそうだが、両者の間にはタイプRの歴史が存在している。

ホンダの誇るホットハッチが、ハイパフォーマンスを象徴するタイプRブランドの誕生から25年目に登場するとは、まさに相応しいタイミングである。

タイプRの王朝は、1992年に登場したリトラクタブル・ヘッドライトを持つNSX-Rに始まり、象徴として赤のホンダエンブレムが装着されることとなった。

NSX-Rの自然吸気3.0ℓV6エンジンは280psを発生させるが、このモータースポーツ由来の高回転型ユニットが、リッター当り100psにも達しないというのだから驚かされる。むろんシビックのターボ付4気筒エンジンが発する320psには全く届かない。これが25年間の進歩である。

進歩と言えば、これほどまでの改良が施された新型シビック・タイプRと、前モデルとの間にはわずか2年の歳月しか流れていない。

現行モデルではリアが独立懸架になり、コンフォート・モードでは荒れた路面でも卓越した滑らかさとコントロール性が得られる。

ハンドリングは非常にダイレクトで、素晴らしく効果的なLSDに極上のブレーキと、変幻自在のシャシーを併せ持つ。わずかながら過給遅れが見られるものの、エンジンは強力そのもので、シートポジションもほぼ完ぺきに近い。

ソフトなダンパーと、より活発なセッティングのパワートレインを組み合わせる事ができないのには失望させられるし、やる気満々の派手なスタイリングも折角の輝きを失わせているかも知れない(NSX-Rの整然とした佇まいが、シビックの外観の評価に影響している事は認めよう)。

しかし、間違いなくこのクルマは現在最も偉大なホットハッチの1台である。ホンダのタイプRブランドは素晴らしい。

しかし、われわれにタイプRの真の意味を教えてくれたのは、やはり1992年のあの忘れ得ぬ存在だ。

あくまで「本気のひと」のための

当時NSXは既に発売後数年を経過していたが、このクルマの設計者たちは、競合のフェラーリ(当時は不人気な348)を凌ぐドライビング・プレジャーと、ポルシェ911並みの実用性を両立させるべく、必死の努力を続けていた。そのためにモータースポーツ由来の技術が数多く用いられる事となった。

ホンダの技術者たちは可能な限りの軽量化を行うべく、遮音材やスペアタイヤを取り外し、スタンダードのシートをカーボン・ケブラー製のレカロ製バケットシートへと交換した。軽量なエンケイ製ホイールはばね下重量の軽減に貢献した。合計で削減された重量は100kgを超え、NSX-Rの車両重量は1230kgに留まる。

補強材の追加によりシャシーは強化され、スプリングレートとダンパー減衰率も高められたが、この強化幅は大きく、フロントはノーマルの2倍以上、リアも1.5倍へと高められた(当時もNSX-Rは硬すぎると評価されていたが、クルマそのものよりも時代が変わってしまったのかも知れない)。

VTEC V6エンジンは可能な限り公差が小さくなるように計画され、ギア比はショート化されている。1992年11月から1995年9月までの間に、483台のNSX-Rが製造されたが、英国に正規輸入されることはなく、今日では数えるほどの台数しか英国内には存在しない。

この車両は約9万7000kmの距離を刻んでいるが、現在考え得る完ぺきなNSX-Rと言えるだろう。

エクステリアも素晴らしく、長く延びたリアセクションは空母の甲板を思わせ、対照的に黒く塗られたルーフは戦闘機のコックピット・キャノピーのようだ。このクルマには究極の目的を達成する意思が感じられる。

キャビンはより運転に集中できるよう、ダッシュボードにはスウェードが張られ、リムの細いモモ製ステアリングにはエアバッグなど装着されない。

ステアリング・リムを越えて目に飛び込んでくるのは計器類だが、これまでに運転したクルマの中で最も視認性に優れたものだ。盤面は黒で、見やすい白のレタリングの上に明るい黄色の針が設置されている。

キャビンからの視界も良好だ。矢のように細いAピラーと、極端に低く構えたダッシュボード、後方視界の良さは、シビックよりも広い視野を確保してくれる。

一旦動きだせば、フロントタイヤを通じてアスファルトの粒のひとつひとつをまるで直接見ているかのように感じられる。前方視界も素晴らしく、NSX-Rを運転してみれば、なぜ現代のスーパーカーが路上であれほど大きく感じられるかと思うだろう。ほとんど何も見えないのだから。

最初のロールでNSX-Rがどれほど硬く締めあげられているかに気づく。

シビックのことを忘れそうになる

1992年の基準でなくとも、ほとんどのハイ・パフォーマンスカーがその大径ホイールに合わせてストロークの長いサスペンションを装着するようになった現在では尚更そう感じる。当時の評価は間違っていない。

25年前、NSX-Rの硬い乗り心地は、病院のストレッチャーにのってスペイン階段を駆け下りるかのように感じられたことだろう。

ありがたいことに、少しペースをあげると乗り心地は改善され、路面不整のひどいセクションにおいてもNSX-Rのボディを落ち着かせるのに十分なダンピング能力を発揮し始めた。運転中は騒々しいが、路面から飛びだすような事はない。

岩のように硬められたボディは、滑らかなセクションでのコントロール性と、コーナーでのボディ安定性との交換条件だ。

ノン・アシストのステアリングは最高に素晴らしい。低速コーナーではステアリングを保持するために若干の力を必要とするが、ステアリングの微妙な操舵を通じて、フロントタイヤからはわずかなスリップの兆候や、アスファルトの粒立ちまでが感じられる。

より高い速度域では、ステアリングの動きを指先で抑えつつ、ほんのわずかゆっくりとステアリングを切ってやる事で、クルマを次のコーナーへと導くことができる。こんなステアリングの感覚は現代のスーパーカーからは完全に失われてしまったものだ。

ブレーキは強力であり、トラクションも十分。それでもハンドリングやドライブトレインが主役とは言えない。

数値だけ見ればエンジンのパワーとトルクは十分とは言い兼ねるが、公道上ではNSX-Rはスーパーカーにふさわしい速さを見せてくれる。

V6エンジンは低回転域ではそれほどでもないが、およそ6000rpmあたりでカムが切り替わると、そのフィーリングは非常に刺激的なものに変わる。

リミッターが近づいても、V6エンジンは回転の上昇をやめようとはせず、8000rpmを越えて更に延びようとする。エンジンバルブが軋むほどにNSX-Rは速さを増していき、エグゾーストは増々その迫力あるサウンドを響かせる。

しかし、真の主役はそのマニュアル・ギアボックスである。その素晴らしさは驚くべきもので、ストレス解消用にこのギアボックスをそっくりそのままオフィスに持ち込みたいくらいだ。シビックのギアボックスも素晴らしいできではあるが、NSX-Rほどの中毒性はない。

結局のところ、このホンダの新しいホットハッチの魅力はNSX-Rの半分にも満たないかも知れないが、それでも重要な事実を示している。

つまり、25年前にNSX-Rを作りだす事になった閃きがどのようなものであったにせよ、ホンダにはまだその閃きが残っているという事だ。

(おまけ)タイプR:栄光の5台と英国の中古車相場

インテグラ(DC2)

しばしばこれまでで最高の前輪駆動車と呼ばれることのあるDC2型インテグラ・タイプRには、夢中にさせるドライブトレインに、機敏で柔軟なシャシーと素晴らしいハンドリングが組み合わされている。

相場は£6,000(89万円)だが、6桁の走行距離も覚悟しなければならない。

インテグラ(DC5)

後継たるDC5型インテグラ・タイプRは先代DC2型よりも速く、よりパワフルなモデルだったが、運転の楽しさでは残念ながら先代ほどの評価を得る事はできていない。

英国には正規輸入されなかったため、見付けるのは困難である。発見できたのは£8,000(119万円)の1台のみだ。

アコード(CH1)

ホンダは正統派セダンに実用性の高いタイプRというコンセプトを用いて素晴らしい効果を生み出した。

高回転型エンジンと固められたシャシーはDC2型インテグラ・タイプR同等の運転する楽しみと、更なる実用性を提供する。今ならわずか£2,000(30万円)から探す事ができる。

シビック(EK9)

初代シビック・タイプRは英国へ正規導入されることは無かったものの、登場以来、数多くの熱心なファンによって英国の地へと迎え入れられた。その名高い1.6ℓエンジンは186psを発する。コンディションの良い車両を購入するには£9,000(133万円)が必要だ。

シビック(FK2)

先代シビック(2015〜2017)は、新しいタイプRが発表されるまでは、ほぼ間違いなく最も過激なホットハッチだった。エンジン出力310ps、最高速度270km/hを誇り、その乗り心地は強烈である。購入するには£24,000(356万円)が必要になるだろう。