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もくじ

ー 跳ね馬との暮らし いいことある?
ー 証言1:「まだフェラーリ歴8カ月なもので」
ー 証言2:「12気筒の方が丈夫ですよ」
ー 証言3:「900万円の目減りもなんのその」
ー 証言4:「わたしはクラッシュで跳ね馬をやめました」
ー 証言5:「フェラーリはひ弱じゃありません」
ー 証言6:「プロにもひとこと言わせてくれ」
ー 証言7:「あたしはセレブです わっはっは」
ー 証言8:「ポルシェ・フリークですけど何か?」
ー AUTOCARの結論

跳ね馬との暮らし いいことある?

もしフェラーリが手に入るなら、悪魔に魂を売り渡してもいい……かもしれない。

富や成功や贅沢のシンボルとして、見る者の心に羨望と軽蔑が入り混じった独特の感情を呼び起こすのがフェラーリというクルマだ。

しかしその象徴とも言うべきフェラーリのエンブレムも最近はややご威光が落ちた感がある。敷居が下がったというか、普通のクルマ好きが普通に所有するケースが増えているのだ。

そこで今月はフェラーリのオーナーになる夢を現実のものにした男たちにスポットライトを当ててみる。300万円の予算で初めてオーナーになったサラリーマンから、時価1億円のスーパーカーを所有する有名ミュージシャンまで。

実際にフェラーリを走らせているひとたちの生の声を聞けば、きっと跳ね馬生活の現実がわかる。壊れやすいのか。実用性はどうなのか。そしてどれくらいの維持費がかかるのか。

証言1:「まだフェラーリ歴8カ月なもので」

名前

アレッサンドロ・ポリ

所有車

名前からしても、アレッサンドロ・ポリがどこの国籍の人間なのかだいたい見当が付きそうだが、それでわからないひとは彼のガレージを覗いてみればいい。彼のフェラーリの隣にはランチア・イプシロンとピアッジョ・ベスパが並んでいる。

「多少の愛国心は持ち合わせていますからね。たとえそれがフィアットの血が入ったモデルでも、わたしは子供の頃からフェラーリが欲しかったのです」

ポリは当初イタリアで安い328を探すつもりだったらしいが、4万6000km走行の左ハンドル仕様約500万円也を偶然イギリスで見つけてしまった。

「’88年型とは思えないほどとても手入れが行き届いていました。それと、元々イタリアで登録されたクルマでしたから、将来イタリアに持って帰るのに便利かなと思って」

アレッサンドロは購入後8カ月間で5000kmを走ったが、その大半はスコットランドへの旅行で刻まれた距離だ。

「この手のクルマを買ってガレージに飾っておくのはナンセンスですからね。最初は低いコックピットに乗り込むのに苦労しました。もちろんお約束の雨漏りもたっぷり経験させてもらいましたし。でも長距離の旅行用に使うなら、新しいフェラーリよりも328の方が適していると思いますよ。なぜって、まともなトランクがありますからね」

そう言う彼も328の今後の耐久性についてあまり自信がなさそうだった。

「電装系が特に心配かな。スイッチ類がヤワで、パワーウインドウもたまに不調になる。でもわたしが328を選んだ理由のひとつは、これが348などと違って横置きエンジンだからです。エンジンを下ろさなくてもカムベルトが交換できるのでそう大きな負担は強いられないでしょう」

そして今のところ、電装系以外に大きなトラブルの予兆はないという。これまでに発生した唯一の故障らし故障はリトラクタブル式ヘッドランプのモーターだそうだ。

アレッサンドロの328は5000kmを7.4km/ℓというまずまずの燃費で走り、オイルも1ℓしか消費していない。この好調ができる限り長く続かんことを!

証言2:「12気筒の方が丈夫ですよ」

名前

ケビン・ジョンソン

所有車

1999年型456M GT/2004年型360 CS

4シーターのフェラーリというと、純粋主義者の嘆きが聞こえてきそうだが、ケビン・ジョンソンは迷わず456を選んだ。

「わたしにとってフェラーリを所有するということは、自分がクルマ好きであることの表現手段。で、わたしには家族がいますから、家族全員が乗れるモデルが欲しかったと」

その後、456に加えて360モデナを買い、それが去年チャレンジ・ストラダーレに代わった。

「わたしはフェラーリで年間1万2000kmほど走ります。456とチャレストでだいたい半々かな。動かさないでおくと調子が悪くなりますからね。V12のランニングコストが高すぎると言うひともいますけど、少なくとも456はわたしがこれまでに所有したクルマの中でも信頼性が高い部類に入ります。とはいえ、もしリセールバリューの低下までランニングコストに含めるなら、4シーターのフェラーリは最悪です。それを除けば、このクルマのオーナーでいることは本当に幸せですよ」

訊けばガソリン代も含めてジョンソンは年間約60〜80万円を456M GTに費やしている。

「走行距離無制限の保険が20万円、メンテナンスに20万円、そして毎年少なくとも10万円を将来の修理のために積み立てているのです」

彼の456は平均燃費5.0km/ℓで走る。これまでにかかった費用のトータルは約324万円で、そのうちの200万円はメンテナンスと修理に費やされたものだ。

「みんなそれを聞いてぞっとすると思いますけど、世間で言われているほど壊れないし、わたしはラッキーだったと思っていますよ。わたしのクルマは後期型だから、初期型で発生したトラブルがすでに改善されていますしね」

V8とV12、両タイプのフェラーリのオーナーとして、ジョンソンは2台を比較できる立場にいる。

「V8の方が壊れやすい気がします。モデナのときは電装系のトラブルとトリムの劣化に悩まされたし、チャレストはオルタネーターが弱くてすぐにバッテリーが上がってしまう。なんやかんや言って12気筒の方が丈夫ですよ」

証言3:「900万円の目減りもなんのその」

名前

ポール・バチェラー

所有車

1996年型F355ベルリネッタ

多くのオーナーと同様、ポール・バチェラーも子供の頃からフェラーリが大好きだった。

「1960年代の話ですが、わたしはマロリー・パークのパドックで、レーシングドライバーのトニー・ディーンが乗る275GTBの押し掛けを手伝ったことがあります。それ以来、熱烈なファンになってしまったのです」

その体験から40年後、ポールはついに自分自身でフェラーリのステアリングを握る幸運を掴んだ。ただしそのときの周囲の状況は少々現実的すぎた。

「初めてフェラーリを走らせたのがラッシュ時の環状線だったのです。幸い、355はひどい渋滞の中でも簡単に運転できましたが」

彼はわが物にした355の魅力をこう語る。

「誰もが、どのくらい速いのかって聞いてくるのですが、トップスピードはもう1台のアシ車、BMW 528iと大差ありません。でもF355の魅力はとにかくエンジン・レスポンスの良さ。それを味わうために持っているといっても過言ではありません」

ポールは1年あたり平均約25万円をメンテナンスに費やしている。タイヤ代が2本で10万円(1セットで1万2000〜1万6000kmほど持つ)、15万円が走行距離無制限の保険料である。

「誰もが信頼性がないだろうと言いますが、わたしの355はまったく何のトラブルも経験していません。ブレーキ・パッドの減りも遅いですし、オイルもほとんど消費しない。いちばんお金を食うのがカムベルトの交換で、これは3年ごとに16〜20万円かかります」

ランニングコストは比較的安いが、ポールの355はリセールバリューの点で大きな問題を抱えている。走行距離は現在1万8000kmほど(新車時からのトータルで3万6000km)なのに、355の価値は購入後6年で1800万円からおよそ900万円まで下がった。それでも彼はこのフェラーリを愛してやまない。

「わたしはずっとV12に憧れていますから、次は550マラネロを手に入れるつもりです」

証言4:「わたしはクラッシュで跳ね馬をやめました」

名前

スティーブ・クロプリー

所有車

1976年型308GTB

かつてフェラーリを所有し、それをクラッシュさせた経験がある本誌英国版編集総局長のスティーブ・クロプリーに独白してもらおう。

「わたしはあのときのショックと無力感を決して忘れません。事件はお気に入りの試乗コース、ウェールズのカントリーロードを飛ばしていたときに起きました」

「あれは確か1987年のこと、登場後間もない328GTBとわたしの’76年型308GTBを比較試乗しようという話が持ち上がったのです。基本的に同じモデルが11年でどう進化したのかを調べるのは確かに面白そうでしたし、実際328と比べるとわたしの308には『好ましい古さ』みたいなものが感じられてね。308の方がコーナリング限界は低かったですけど、その限界を超えたときの挙動は穏やかで読みやすかった。初期型308の性格はどのV8フェラーリとも違います」

「それはともかく、かなりご満悦でコーナリングの撮影をしていたときのことです。わたしはまず328に乗り込んで、短い坂を下り、ハードにブレーキングし、左に90度曲がるコーナーへと突っ込んでいきました。実にいい感じでね。続いて自分の308に乗り換えた。このクルマもいい感じ……のはずでした」

「似たようなサウンドを発し、ドライビングポジションもコントロール類もほぼ同じ。わたしは308をスタートさせて気楽な気持ちで--何かほかのことを考えながら--ひとつ大事なことを忘れていたのです。308のブレーキが328ほど優秀ではないという事実を」

「結果、わたしは同じコーナーにかなりのオーバースピードで進入し、慌ててブレーキをかけてフロントホイールをロックさせてしまったのです」

「幸いなことに、そのコーナーの付近だけ道路脇が深い谷ではなく、ランオフ・エリアのようになっていました。クルマは50〜60km/hの速度で道路から飛び出し、少し跳ねて、しばらく滑ってから止まりました。わたしはFRPのカケラを拾いながら、修理代の額を想像してひとり涙したものです」

証言5:「フェラーリはひ弱じゃありません」

名前

クリス・タイラー

所有車

1984年型308GTS QV

たいていのフェラーリは甘やかされて大事にされているはずだが、この308は違う。「ミスリル・レーシング」はスーパーカーやレーシングカーを用意して、顧客にサーキット走行の体験の機会を提供する会社である。そしてここにご紹介する308はグッドウッド・サーキットで、6年間に5000人の顧客を乗せ、6万kmもの距離を走った個体だ。

サーキットでフェラーリを酷使するには、相当な維持費がかかると思うだろう。だが、ミスリル社のディレクター、クリス・タイラーによれば「そうではない」という。

「顧客の多くは大衆向けのサルーンしか乗ったことがないひとたちです。言うまでもなく、しょっちゅうギアを入れ間違います。それでも一度も壊れていません」

この308は約500万円でミスリル社に身請けされて以降、年1回のメンテナンス(10〜20万円)を受けながら、4セットのタイヤ(80万円)と6セットのブレーキパッド(10万円)で生き長らえてきた。

これまでに受けた修理はブレーキディスクとキャリパー、カムベルトの交換、電装系のマイナートラブルだけである。そしてつい最近120万円相当のオールペイントが奢られて輝きが復活した。この先どこまで酷使に耐え得るか、興味は尽きない。

証言6:「プロにもひとこと言わせてくれ」

名前

フェラーリ専門店「ヴェルディ」のカール・ヴェルディ

所有車

なし

フェラーリの専門ショップ、ヴェルディは1987年設立の老舗。オーナーのカール・ヴェルディ自身は1978年からフェラーリに関わってきた猛者だ。

「355はフェラーリの世界のラブラドールです。きちんとメンテナンスすれば、ポルシェ911と同じくらい信頼性が高い。わたしは走行20万kmで新車同様のクルマを何台も見ています」

「V8モデルに比べるとV12は割高です。販売価格からするとリセールバリューは低く、維持費もなにかと高くつきます」

ちなみに456GTAの交換用ATユニットの値段は約420万円で、ATフルードとフィルターを替えるだけも5時間分の工賃=約14万円がかかる。

カールは一般的な年間予算として、V8モデルは約60万円、V12モデルなら100万円は見てほしいという。

「クルマは定期的に走らせた方が調子が保てますし、その上で然るべきメンテナンスをすればさらに状態が良くなります。年間数1000km走って維持費が10万円以下という顧客が何人かいますよ」

悪名高きカムベルトの交換について、カールは360で約9万3000円、348/355、V12モデルでは18万7000円という見積もりを出してくれた。

さらに手に入れたあとで幻滅しないために、彼はどんなモデルでも後期型を買うことを強く勧める。後期型なら初期トラブルはたいてい改善されているからだ。

「家を買う時は必ず不動産鑑定士に見てもらいますよね。クルマも同じです。1000万円以上のクルマを買うのに、専門家に見てもらうわずかな費用を惜しむひとが多すぎます」

彼はまた「常識を働かせなさい」ともアドバイスする。

「整備歴や修理歴の確認も重要ですし、車体の各部も詳細に点検してください。1981年以前のクルマで青い煙や黒い煙を吐いているのは言語道断です。またオイル漏れも高くつきます。もしなにかおかしいなと感じたらら、それは実際になにかおかしいクルマなのです」

証言7:「あたしはセレブです わっはっは」

名前

ニック・メイソン

所有車

2004年型エンツォ

「F50にはイマイチその気になれませんでしたが、エンツォは最初からぴたりときました」と語るのは、ピンクフロイドのドラマーでフェラーリ・エンスージァストとして知られるニック・メイソンだ。

「エンツォは『完全にロード・ユース』というコンセプトがいいですね」

メイソンにとって13台目のフェラーリとなるエンツォは、昨年7月に納車されてから2500kmを走っているが、すでにクラッチの交換で約60万円の出費を強いられている。

「わたしはほかのオーナーより使い方が荒いかもしれません。でも最新のレーシングテクノロジーを導入したハイエンドモデルのクラッチが『消耗品』で、保証外というのは腹立たしいですね」

併せて所有するF40の場合、5万kmを過ぎても大きなトラブルは出ていないというのだから、確かに彼が怒る気持ちもわかる。もっとも、エンツォほどのスーパーカーのクラッチ交換にかかる費用としてはそう極端に高いわけではない。

「わたしの知る限り、マクラーレンF1をサービスセンターに預けたひとで、請求書の金額が200万円を切ったひとはいませんね」とメイソン。

エンツォはスパルタンなF40よりもロードカーとしての適合性は高いが、問題が皆無というわけではない。

「斜め後方の視界がまったく死角になってしまうのです。わたしはマクラーレンF1にモニターカメラを取り付けましたが、エンツォにもその必要がありそうです。また、エグゾーストノートは素晴らしいのですが、イギリスのサーキットで走らせるにはうるさすぎて、サーキット走行会に参加できません。F40は大丈夫なのですが……」

「でも視界の悪さを除けば、とても運転しやすいクルマです。フェラーリが投資目的ではなく、それを実際に使いたいと思うひとにエンツォを販売した点も評価しています」

うーん、やはりフェラーリ・セレブは視点が違う。

証言8:「ポルシェ・フリークですけど何か?」

名前

ロブ・ヤング

所有車

2001年型360モデナ

ポルシェ好きとフェラーリ好きは水と油の仲。しかし、911ターボを所有するロブ・ヤングは3カ月前、360モデナを手に入れた。彼の評価はどうだろう?

「まずぞっとしたね。ウェットでの走りと、お金の面で。濡れた路面では危なっかしくて扱い切れないよ。でもドライなら、ロータス・エクシージをもっと大きく、もっと速くしたようなクルマだね。純然たる速さではポルシェの勝ちだけど、フェラーリの方が速く感じるし、ドライバーを鼓舞してくれる」

フェラーリのオーナーは、ドライビング以外の部分でも特別な体験をするとヤングは付け加えた。

「とても注目を浴びるクルマだね。ポルシェも目立つけどフェラーリほどではない。誰もが赤いフェラーリには興味があるみたいだ。わたしもそれで二度ほど面倒な目に遭ったよ。近所の警察に目を付けられたことと、別な女の子を誘ってドライブにでかけたところをガールフレンドに見つかってしまったこと。どちらもかなり厄介だったよ」

ヤングが買った360は走行距離8000kmの個体。すでにその時点で3回のメンテナンスを受け、カムベルトが交換されていた。

「定期メンテナンスは本当に必要なのかと疑問に思ってしまうね。それもフェラーリのオーナーにとっては当然のことなのかな?」

だが、手に入れてから間もないのに、彼の銀行口座の残高は確実に減っていた。まずはエアコンのフィルターを交換しなければならなかった。フィルター自体の代金は7000円でも、エアコン不調の原因を突き止めるまでの工賃が約8万6000円もかかっていた。

そしてタイロッド・エンドとロワー・ボールジョイントの交換に20万円である。それ以来、彼は28万円を払ってメーカー保証を延長した。さらに30歳のヤングの場合、保険料が年間45万円必要で、月々のローンの支払いが40万円だ。まったく高価なオモチャである。

彼はヴァイザッハを見捨てて、マラネロに鞍替えできるのだろうか?

「ポルシェの代わりにフェラーリというのは無理だね。フェラーリは使えるシチュエーションが限られている。わたしは普段は911を使い、フェラーリは愉しみにとっておくつもりだ。走行距離が伸びるとリセールバリューも下がるし、フェラーリに毎日乗るなんてマゾヒストのやることだよ」

AUTOCARの結論

BMW並みの維持費でフェラーリに乗れるかと思っていたひとはガッカリだろう。

けれど少なくとも、世界で最も有名で、最もひとびとから崇められるクルマを手に入れて、比較的普通の予算で維持するのは不可能ではないことはわかった。だが用心しなければならない。

現実的に考えて、自分が「維持できる」モデルを買うのが重要なポイントなのだ。夢のクルマを買うときは、できるだけ冷静になること。最初に見たクルマに勢いで飛びついてはいけない。

そしてお金を払う前に必ずフェラーリに詳しい専門家にチェックしてもらうべきである。

2005年9月号