パソコンソフトの保存ボタンのマークのルーツになっている「フロッピー」。かつてはこのディスクにファイルを保存していた。同様にビジネスで使われなくなった「20世紀言葉」は多い (写真:ARTS / PIXTA)

上司や先輩、年配の取引先がふと発したカタカナ言葉や業界用語。その意味がわからず、思わず口ごもったり、「ですよね〜」などと知ったかぶりをしてしまった――。

若手社員の方なら一度や二度はそうした経験があるはずだ。もっとも仕事をするうえで必要な言葉は、キャリアを積めば自然と覚えていく。だから、さほど問題にはならない。

むしろ対処に困るのが、諸先輩方が一般的なビジネス用語や業界用語とはまた違う角度から、「意味の通じない言葉」を発することだろう。

“オフィス死語”である。

“オフィス死語”の意味を知れば上手に聞き流せる


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オフィス死語とは、かつてのオフィス内では、よく耳にした言葉だが、今はほとんど使われなくなった言葉。ここ最近めっきり聞かなくなったレガシーな表現、あるいはジョークのことだ。

「はたして、その発言をスルーしていいのか、どうか……」「意味がわからない。だけど、聞き流したら、失礼ではないのか?」。そんなことでムダに時間と脳の領域を消費するのは、避けたいはず。

そこで今回、30代後半から50代前半までの先輩社員たちに「若手社員に通じなかった言葉」をリサーチ。覚えなくても問題にはならないが、なんとなく意味を知っておいたほうが、より無難に聞き流せることになる“オフィス死語の世界”を紹介していきたい。

オフィス死語1:追憶の彼方にある「懐かしビジネスツールことば」

20年ほど前のドラマの再放送を見ると驚くのが、オフィスのシーンなのに「机にPCが置かれていない」ことだ。IT化が進み、世の中のオフィスの風景は様変わりした。それだけに、少し前のビジネス環境やツールに関する言葉は、あっという間に死語となる。

「『このホワイトボードの内容、議事録代わりに“写メ”して送っておいてくれる?』と部下に頼んだら、一瞬の間とともに『?』マークが頭に浮かんでいた。もう『写メ』って言わないのかと、最近気づきました」(建築・39歳)

出た。これぞ、オフィス死語の典型例だ。若手社員はご存じないだろうが、2000年前後にソフトバンク(当時はJ-PHONE)がカメラ付き携帯電話を発売。このとき、ケータイで撮った画像をメールで送るサービスを、「写メール」と名付けた。

これが爆発的にヒットし、写メールも「写メ」と略され、ほかのキャリアまでケータイで撮った画像を送ることを「写メ」と呼んでいたのだ。そんな時代に携帯電話を使っていた先輩世代は普通にこの言葉を発する。「写メで送れ」と言われたら、「スマホで撮った画像をくれ」ということなので、速やかに撮影して、指示どおり添付してメールしよう。

添付ファイルといえば、こういう声もあった。

「ファイルを解凍」は展開と同じ意味

「取引先からきた圧縮ファイルを転送して。『そのファイル、解凍して見ておいて!』と後輩に伝えたら『解凍…? あ、“展開“していいですか?』と返されました」(商社・42歳)

まいった。これもオフィス死語なのか。

今でも画像や動画などの重めのデータは、ZIPファイルなどに「圧縮」してファイルを送っている。しかし、若手世代はピンとこないだろうが、ファイルを受け取ったほうは、圧縮したファイルを元に戻す「解凍ソフト」を使って中身を見ていた。しかし、今はウィンドウズのデフォルトだと「展開」という指示でファイルやデータが開ける。

ようするに「解凍して」と言われたら「展開して開け」と同じこと。ビデオデッキを使っていた世代が、もはや「巻く」ものがないのに、いまだに「巻き戻し」という言葉を使うのと似ている。「解凍せよ」と言われたら、思考を一時停止させずに、しっかりと展開させていただきたい。

また、メールに関連して、こんな意見も聞こえた。

「今年の新入社員に『この書類、帰りに“ポスト“に入れておいて?』と頼んだら『あ、あの駅前にある赤いやつですね』と間を置いて返された。LINEやメールが当たり前で、年賀状も出さない若手世代には、郵便ポストすら『なんだっけ?』となるのかと、ショックを受けました」(印刷・51歳)

むむ。さすがにポストはオフィス死語ではないのではないか。これは、相手の若手社員が知らなすぎのような気もする。

オフィス死語2:使うほどわかりづらくなる「ビンテージな修飾語」

本来、言葉をよりわかりやすく伝えるために「比喩」や「修飾語」はある。にもかかわらず、オフィス死語の使い手たちは、むしろわかりにくくしたいのかな、と思えるような昔懐かしい比喩や修飾語を多用している。

「進捗の遅い部下に対して『そんなペースじゃドッグイヤーの時代を生き残れないよ!』と諭したのですが、まったくピンときてない顔をされました」(IT・38歳)

「ドッグイヤー」もオフィス死語になってきている。ITの世界では新技術品がスピーディに生まれ、進化して、消える。その拙速さを表現した言葉が「ドッグイヤー」だ。犬の1年が、人間でいうと7年分に相当するため、「犬の寿命並みに進化が進む」という比喩だ。ITが普及した2000年前後によく使われたが、今やさっぱり聞くことがなくなった。

オフィス言葉もドッグなイヤーで進んでいるのだ。いまだドッグイヤーと口走る先輩は「時の移り変わり実に早いのだよ」と身をもって諭してくれている優しい人だと考えよう。

先輩・上司は当時から使っている言葉を捨てられない

「うちの部署に入った新人と帰宅の電車が同じに。『週末なのに、直帰するの? せっかくの“花金“なのに』と声をかけたら、『ハナキン!? 本当に“花金”って言うんですね!』と珍しい動物でも見られるかのように指摘されました」(商社・47歳)

“花金”はジ・オフィス死語だろう。かつて企業も官公庁も、週休1日で、日曜日のみ休みというところがほとんどだった。しかし、80年代から土日休みの週休2日制を採る企業が増え、官公庁も1992年には週休2日を採りはじめた。そこで金曜夜の価値が急浮上。「翌日を気にせず、華々しく夜遊びできる曜日」として“花金”と呼ばれるようになったわけだ。ちょうどバブル景気の頃と重なり、週末の金曜日に遊ぶ会社員が増え、花金は一気にポピュラーな言葉になった。

もっとも、バブル終焉とともに、世の中に余裕もなくなり、“花金”の言葉も散ることに。これを使う先輩がいたら、きっとかつて花金を謳歌した人に違いない。「先輩たちの頃って、花金で、どんなお店で遊んでいたんですか?」「え、カフェ&バー? それってカフェなんですか、バーなんですか?」などと少し突っ込んでみるのもいいだろう。それにしても近い将来、“プレミアムフライデー“が同じ憂き目に遭いそうだ。

「若い同僚に『俺、小遣い少ないんだよ。うちの“大蔵大臣“が厳しいから』と当たり前のように話したのですが、これいま財務大臣ですよね」(44歳・広告)

これまた、オフィス死語である。2001年の中央省庁再編によって大蔵省は財務省と金融庁に変わった。そして大蔵大臣という名は、もはや会計ソフトでしか見られなくなった。過去のポストで、若手にしてみたら日本史に出てくる役職で、「勘定奉行」とそう変わらなそうだ。これも会計ソフトがあるからややこしいのだが。

オフィス死語3:青春時代のカルチャーを、会話に差し込んでくる

ヒトは、若い頃に接して影響を受けたカルチャーを、生涯引きずって生きていくものだ。だから、カラオケなどに行くと、団塊ジュニア世代は「渋谷系歌合戦」や「BOØWY選曲縛り」をついつい始めてしまう。バイク乗りが50代に多いのも、彼らが若い頃にバイクブームがあったからだ。同じ現象が、オフィス死語でも見られる。

「ミーティング中、納得のいく意見が出てきたので『なるほど……“なるほどザ・ワールド“だな!』と愛川欽也ばりに力強く言ったのに、完全に無視されたことがあります」(金融・45歳)

「ちょっとしたミスをした社員に対して『おお。ゆうしゃよ。しんでしまうとはなさけない』と初代ドラクエのセリフをもじって冗談めかしてみたのですが、『すいません』とただ謝られるだけ。心の中でベホイミを唱えました」(広告・40歳)

ムリに迎合せず「古いですね」と対応

「部下の提案があまりに浅はかだったので『それはないね。ないない。“NAI・NAI16”』と口走ってしまいましたが、反応がゼロだったので『シブがき隊だよ! ふっくん、もっくん、やっくん!』と追い打ちをかけたのですが、なおダメでした」(出版・43歳)

「社の忘年会のビンゴ大会で数字が出るたび『お、8が出た! 原辰徳!』『15番。山倉かあ……』『お、4番。新田恵利!』などと口走っていたのですが、明らかに同世代しか反応がなかった」(サービス・45歳)

オフィス死語というより、「そりゃ若手社員にはわからないよ!」と突っ込まざるをえないノスタルジー用語の連続である。ネタなんじゃないかという気すらするが、実のところ、半分は自分の若かりし頃の思い出のネタを話したくてウズウズしている面もあるだろう。

若手社員が、こうした死語にムリして「そのへん、僕ら世代はギリギリ、わかるかわからないくらいですね」などと口走ると、「あ、ギリギリガールズ派? 俺はシェイプアップガールズ派」などと応酬され、面倒な昔話に誘い込まれるリスクがある。カジュアルに「古いですねえ」「原辰徳って、88番じゃなかったんですね」などと笑って返せば、ローリスク・ローリターンで済みそうだ。

かように、オフィス死語は、先輩社員の日常にひそかにしみ込んでいるものだ。

慌てず騒がず適当に渡り歩くために、適度にいじりつつ、適度にスルーする術を身に付けていただきたい。なるはやで(これもオフィス死語っぽい)。