神戸製鋼所の品質データ改ざんをはじめ日本の大手製造企業の不祥事が相次いでいる。世界を席巻するといわれた日本の製造業の本質に、何か異変が起きているのは間違いない。

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神戸製鋼所の品質データ改ざんをはじめ日本の大手製造企業の不祥事が相次いでいる。世界を席巻するといわれた日本の製造業の本質に、何か異変が起きているのは間違いない。

かつて日本の工場では、どこでも安全旗を掲げ、「品質第一」をモットーに、不良品ゼロ、世界最高品質を誇ってきた。各製造現場では、操業前には毎朝ミーティングが開かれ、当日の注意事項や達成目標の確認が行われ、また、たとえ操業中でも、もし問題があれば工程を止めてでも徹底的に原因と対策を追求し、絶対的な品質づくりを貫徹してきた。そして、企業名、ブランド、製品には、確固たる自信と誇りをもって製品を送り出してきた。そうした製造業としての使命感と誇りが、いま急速に失われつつあるのではないか。

その背景に、海外生産の加速、国際的なコスト競争激化、海外からのローコスト製品の参入、デフレ進行によるコスト優先主義の波及などにより、メーカーも市場の変化が激しく、かつて経験したことのないほど多様化が進む中で、企業として何か売れるのかを常に模索し、次々と新商品を出さざるを得なくなっているため、結果的に開発リードタイムが短縮化し、品質の作り込みが犠牲になってきたのではないか。企業が収益の拡大と株価の上昇を最大の使命とする(もちろん、それは当然のことであるが)一方で、製造業の本来のモノづくりに対する使命感と誇りが置き去りになっては、その存在意義はない。

グローバリゼーションによる国際的な競争激化とIT革命の進展によるスピード経営、国際的に通用する経営へと改革を進めるのは、現在の経営では必須要件である。しかし、製造業として製品品質なくしては、その存続はあり得ない。むしろ問題は、収益やいち早い新商品開発にこだわるあまり、品質は当たり前のこととして、現場を軽視してきた経営者にこそ責任があるのではないか。

確かに経営者の責務は急拡大した上に、局面で正しい状況判断と即断即決のスピード経営が求められている。そうした中で経営トップが、いちいち現場にかかずらっていられない状況も分からないではない。しかし、製造業のトップは常に、自社製品とその製造現場に最大の関心を示し、社長自ら忙しい中にあっても時間をつくり現場の人たちと意見交換することによって、現場はその期待に応えようとするものである。

最近、コアコンピタンス、ブランド戦略、新企業価値などの新しい経営戦略が言われているが、製造業は自社製品に最大の関心と誇りとこだわりを持ち、世界ナンバーワンの製品を提供してこそ、国際競争に勝つ最大の戦略であることを再認識したいものである。

今やあの大国中国が特に新技術分野で既に我が国を追い越し、その他の分野でも日本に迫っていることに留意すべきである。
<直言篇26>

■立石信雄(たていし・のぶお)
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。