標高2229mのメキシコシティに位置する第18戦・メキシコGPの舞台「アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス」は、その気圧の低さがチームやドライバーにさまざまなチャレンジを要求する。


他チームのマシンと比べて冷却性能に難を抱えているMCL32

 平地に比べて20%も空気が薄く、マシンが生み出すダウンフォースは小さくなる。モナコと同じ最大空力パッケージで走っても、極薄のウイングで走るモンツァと同じくらいのダウンフォースしか生み出すことができないのだ。いわば、モンツァ仕様のクルマで低速から高速までさまざまなコーナーを走らなければならない。これはドライバーにとって、容易なことではない。

「ここではマキシマムダウンフォースのクルマで走るけど、ダウンフォース量はモンツァくらいしか出ない。それなのにコーナーはいくつもある。それもいろんな特性のコーナーがあるんだ」(セバスチャン・ベッテル/フェラーリ)

「気圧が低くダウンフォースを失うから、クルマが軽い感覚になりスライドしやすくなるんだ。そのうえ、シンプルに見えて実際にはすごくテクニカルで、トリッキーなコーナーの組み合わせも多いし、1周をうまくまとめ上げるのは簡単じゃないよ」(ニコ・ヒュルケンベルグ/ルノー)

 ダウンフォースが少ないためにマシンはスライドしがちで、タイヤを痛めやすい。空力効率のいいマシンは低い空気圧でもダウンフォースの減少が少なく、高いパフォーマンスを発揮しやすくなる。昨年レッドブルがここでフェラーリを上回り、メルセデスAMGに0.3秒差まで迫ったのはそのためだ。

 また、ダウンフォースだけでなく、空気抵抗も減る。そのため最高速も伸びて、昨年はウイリアムズが372.5km/hを記録している。これが余計にブレーキングを難しくする。

「マシンをブレーキングで止めるのにはかなり苦労する。モンツァを走っているような感覚なんだ」(セルジオ・ペレス/フォースインディア)

 さらに空気の密度が低いために、サイドポッドなどから取り込める空気の容量も少なくなり、したがって冷却も厳しくなる。

 メインストレートは1314mと極めて長いが、その見た目に反してサーキット全体での全開率は40〜47%程度と低い。これは惰性で走る低速コーナーやパーシャルスロットル(※)の中高速コーナーが多く、距離は長くても時間的にはあっという間に走り抜けるストレートに比べ、こうしたコーナーで過ごす時間が圧倒的に長くなるからだ。そのため、1分20秒弱のラップタイムのなかで、スロットル全開の時間は半分にも満たないという結果になる。

※パーシャルスロットル=スロットルの開け方を加速も減速もしない状態に保つこと。

「レイアウト的には低速セクションが重要になる。こうしたセクションで速く走ることのできるセットアップに仕上げることが重要なんだ」(トム・マクロウ/フォースインディア・チーフレースエンジニア)

 マクラーレン・ホンダは今週末のメキシコGPでの苦戦を予想し、すでに2台ともに新品パワーユニットを投入してここでペナルティを消化して、残り2戦に万全の態勢で勝負を挑むことを選んだ。それはなぜか?

 ひとつには、前述のとおり空力効率が問われる環境ゆえに、常にウイングを立てダウンフォースをつけなければ好走できないマクラーレンの車体は不利だということがある。加えてMCL32はもともと冷却性能が厳しく、空力性能を犠牲にして大きなエアアウトレットを開け、より多くの冷却風を取り込まざるを得ない。

 そしてもうひとつは、ホンダのパワー不足だ。

 空気が20%薄いため、自然吸気エンジンならばそのまま20%パワーが落ちる。だが、現在のF1で使用されているターボエンジンならば、ターボでより多くの空気を圧縮してエンジンの燃焼室に取り込めば、理論上は平地と同じパワーが出せる。そのためにどのメーカーもターボのタービンの回転数を上げ、ルノーの場合でいえば約8%も高く回すという。

 しかしホンダの場合、今季型ターボチャージャーそのものが持つ特性がこの高い回転数に合わず、ターボ効率が落ちてしまうという。そのため、回転を上げても出力を挽回することができず、ライバルに比べて苦戦を強いられることが予想される。

 エンジンの点火時期など燃焼セッティングを攻めることで挽回し、パワー低下を最小限に抑えるというが、それでもライバルとの差が開くことは避けられない。空気が薄いことで、いつも苦労させられている空気抵抗の大きさは幾分マシにはなるが、パワー差が長いストレートでどれだけ影響するかは未知数だ。

 こうした事柄を踏まえて、マクラーレン・ホンダはメキシコGPを犠牲にして残り2戦に賭けることを決めたわけだ。

 2015年にF1開催が復活したメキシコでは、国民的スポーツ選手となったセルジオ・ペレスの活躍もあって空前のF1ブームだ。自由席でも3万円からで、メイングランドスタンドともなれば10万円を超えるような高額チケットだが、3年連続の完売。野球のスタジアム跡を使ったすり鉢状にそびえる観戦スタンドなどは、超満員で大いに盛り上がる。

 そんななかでルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)のドライバーズタイトル獲得は濃厚で、今週末に彼の4度目の戴冠が決まる可能性は極めて高い。

「そのことはあまり考えていないよ。アメリカGPではすばらしい走りで、このうえなくレースを楽しむことができたし、今週末も同じように楽しみたい。もしタイトルが獲れればうれしいけど、それに対して強い思いは持たないようにしている。期待が大きければ失望も大きくなるからね。先週と同じように、全力で最高の走りをすることだけを考えているよ」

 ランキング2位のベッテルが優勝しても自分が5位以上、ベッテル2位なら9位以上、ベッテルが3位以下なら即決定と、ハルミトンは圧倒的優位に立っている。

「5位でタイトルを決めることなんて考えていない。目の前のレースで勝つことだけを考えているし、トップに立ち、優勝してタイトルを勝ち獲りたいね」

 標高2200mを超える高地でどのような戦いが繰り広げられるのか。いつもとは違うレース週末がメキシコシティで始まる。

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