ALSの患者を救う日は近い?(写真はイメージです)

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脳からの筋肉を動かす指令を伝える運動神経が損傷し、だんだん筋肉が衰えていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)。根治する治療法がなかったが、光が見えてきた。

東京大学の研究チームが、ヒトiPS細胞(人工多機能性幹細胞)を使って運動神経の束を作り出すことに成功した。損傷した運動神経の再生や、原因がわからなかった発症のメカニズム解明につながる可能性がある。研究成果は医学誌「Stem Cell Reports」(電子版)の2017年10月26日号に発表された。

「クイズダービー」篠沢秀夫氏や「徳洲会」徳田虎雄氏

難病情報センターのウェブサイトによると、ALSは手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気だ。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経だけが細胞死して障害をうける。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらず、使われない筋肉が弱ってやせていく。

その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能はすべて保たれる。1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり1〜2.5人。全国の患者数は約9200人。原因はわからず、根治する治療方法は見つかっていない。

2017年10月26日、テレビ番組「クイズダービー」の名回答者として一世を風靡したフランス文学者・篠沢秀夫さん(享年85)がALSで亡くなった。英俳優デヴィット・ニーブン氏(享年74)、作家・加藤則芳氏(享年64)らが死去、また元医師・政治家の徳田虎雄氏(79)や、元JリーグFC岐阜社長の恩田聖敬氏(39)らがALSであることを公表、闘病生活を続けている。

ヒトのiPS細胞を使ってALSの治療法を見つけようとする挑戦では、2017年5月、京都大学の研究チームが患者由来のiPS細胞から運動神経細胞を作製。1000種類を超える化合物を試した結果、白血病の治療薬に病気の進行を遅らせる効果があることを突き止めた。

この技術でベンチャーが創薬支援や再生医療を開始

今回、東京大学の発表資料によると、研究チームはヒトiPS細胞から作製した運動神経を、独自に開発した親指ほどのマイクロデバイス(微小装置)内で培養し、運動神経の神経線維に構造が似た束状の組織を人工的に作り出すことに成功した。生理的な電気を通すなどの実験の結果、この組織が生体内の運動神経と同じ性質を示すことがわかった。

今回の結果について研究チームは発表資料の中でこうコメントしている。

「ALSは、酸化ストレスなどによって運動神経が激しく損傷をすることで発症すると考えられています。この技術で作り出した束状組織を用いれば、運動神経の損傷程度を評価できることを確認しました。運動神経をむしばむALSの発症のメカニズの解明や、治療薬の発見が促進されると期待されます。実際、すでにこの技術を用いてベンチャー企業がALSの創薬支援や再生医療に取組んでいます」