奈良は日本の原型ともいうべき古代文化が発展した地である。「まほろば」と呼ばれた豊かさが今も息づき、奈良を歩くことで心の安寧を得る。華やいだ桜の季節もいいが、秋の奈良には静かな落ち着きがある。さあ大和路へ。

【暮秋の大和路散歩2】「日本最古の道」を歩きながら卑弥呼に想いを馳せ歴史遺産を学ぶ

奈良県桜井市の纒向遺跡は近年発掘調査が進み、古代(3世紀頃)ここに大規模な集落があったことが確認された。そこで俄然注目を浴びたのが、纒向遺跡内にある箸墓(はしはか)である。『魏志倭人伝』によると、卑弥呼が女王として君臨したのは3世紀半ば、纒向集落の存在期と重なるのだ。はたして箸墓は卑弥呼の墓だろうか。

今回は、そんな謎めいた箸墓(古墳)から歩き始めよう。

JR巻向駅から大きな杜を目指して歩くと、大池越しに巨大な古墳が見えてくる。これが箸墓だ。『日本書紀』によるとこれはヤマトトトヒモモソヒメの墓。この女性は崇神天皇の巫女と伝えられ、卑弥呼の呪術性に通じる。水面からそそり立つ古墳の迫力から埋葬された人物の影響力が判る。水面からの風が心地よい。

箸墓古墳は前方後円墳の中でも最古級のもの。3世紀半ばに造営されたと考えられる。隣の大池はため池百選に選ばれている。桜井市箸中

箸墓から国道169号に向かい、国道を渡れば、いたる所に〈東海自然歩道〉への道標がある。道標に従って畑道を歩けば東海自然歩道、即ち「山辺の道」に行きつく。

山辺の道は大和盆地の東に連なる山々の麓を縫うように繋ぐ道で、平城京から三輪を結ぶ古道だ。日本最古の道と称される。今回歩くのはほんの一部だが、古墳も多く、日本の原風景の中にいるような興趣に充ちている。

石畳の山辺の道。古道らしく石畳以外にも踏み固められた土道、畑道、草道など様々な形態の道が古墳の間を細々と通っている。渋谷町付近にて

山辺の道は天理方面を目指す。やがて左側に見えてくる杜が景行天皇陵だ。ヤマトタケルの父と伝えられる景行天皇の陵は全長300m、4世紀最大の墳墓だ。

景行天皇陵の拝所。この拝所は国道169号に面しており、山辺の道はこの拝所奥の杜の裏側にあたる。天理市渋谷町

古道らしい砂利道、石畳道、畑道など足の裏で道の違いを感じているうちに周濠を従えた見目麗しい古墳に出逢う。大和朝廷を開いた実在の人物といわれる、崇神天皇の陵墓である。

周濠に囲まれた崇神天皇陵。大和盆地を一望に見渡す絶景の地にある。この陵の東側の櫛山古墳にも寄ってみたい。天理市柳本町

崇神天皇陵を過ぎてしばらく行くと小さな集落にたどり着く。ここから少し山に入れば名刹・長岳寺。釜口のお大師さんと地元では呼ぶ。紅葉が美しい寺だ。天長元年(824)、淳和天皇の勅願で弘法大師空海が創建したと伝わる。

またこの寺の庫裡では土地の名物温かいにゅうめんを食べることができる(夏季は冷やそうめん)。大きな竃が据えられた、寛永7年(1630)の建造物の中で啜るにゅうめんの味はまたひとしおだ。

温かいそうめんであるにゅうめん700円。麺は地元三輪産のそうめんを使用。山への参詣者へのもてなしから始まった寺の振る舞いだ。

長岳寺から再び山辺の道に戻り、中山大塚古墳を目指す。このあたりは細い道が枝分かれをしているので、山辺の道を踏み外さないよう道標には注意して歩く。

程なく何気ない田舎道の前に現れるのが中山大塚古墳だ。この古墳の杜を背景に万葉歌碑と休憩テラスがある。碑に刻まれているのは柿本人麻呂の泣血哀慟歌の中の短歌である。中山大塚古墳は墳丘に登ることができ、南側には大和神社の末社が祀られている。

中山大塚古墳そばの万葉歌碑。柿本人麻呂の歌〈衾道を引手の山に妹を置きて山路を行けば生けりともなし〉が刻まれている。天理市中山町大塚

中山大塚古墳からは、山辺の道を離れて南西に向かおう。国道を渡ればすぐに黒塚古墳に行きつく。

黒塚古墳は平成9年の発掘調査で33面もの三角縁神獣鏡がほとんど埋葬時のままの状態で現れ話題となった。三角縁神獣鏡は「卑弥呼の鏡」と呼ばれていた幻の鏡で、この発掘で邪馬台国論争が再燃したことは記憶に新しい。

黒塚古墳は現在史跡公園として保存され、公園の一角に天理市立黒塚古墳展示館がある。ここでは竪穴式石室が復元され、複製品ながら三角縁神獣鏡を見ることができる。鏡を眺めながら古代からの時の歩みを想うのもいい。

現在、黒塚古墳は公園として整備され、墳丘には小道が通じている。古墳の大きさを実感しながら頂上からの景色を楽しみたい。

天理市立黒塚古墳展示館。入口床に航空写真があり、この地にいかに古墳が多いか一目瞭然。天理市柳本町1118-2 電話:0743・67・3210 開館時間:9時〜17時 休館日:月曜 料金:無料

以上、今回は卑弥呼ゆかりの箸墓古墳から、「日本最古の道」山辺の道を歩いて古墳群を巡るコースを歩いた。上古の日本に思いを馳せながら、秋の奈良路を味わっていただきたい。

※この記事は『サライ』本誌2016年11月号より転載しました。(取材・文/北吉洋一 撮影/小林禎弘)