クワガタ相撲“世界チャンピオン決定戦”に本誌記者が石垣島でスカウトした平田君(左)も参戦!

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プロレスさながらのロックアップから、ギシギシと不穏な音を立てて相手の顎(あご)を挟み込み、時に豪快に投げ飛ばす!

そんな、見ているだけで男の本能が刺激されること必至のクワガタ相撲の祭典に、週プレ記者がエントリーしてきました! 前編に続き、レポート!

■総合格闘技も真っ青の緊迫感と臨場感

9月18日。「大森スーパーアリーナ」(会場は小学校を改修した区民施設だが、バトラーたちはこう呼ぶ)には、全国から約20名のオーナーが集結。全員、男で下は小学生から上は60代までと幅広い。が、顔がマジなのは、断然、30代後半より上の男たち。まるで自分たちが戦うかのような闘争心に満ちた表情をしている。

出場クワガタは、下の階級からそれぞれ16匹、20匹、31匹、28匹。狭い会場内には、えりすぐりの猛者が100匹近くも集結していた。

昨年、無差別級を制したKさんは、今年は全階級にエントリーしていた。

「クワガタは生まれた時点である程度、強さが決まっているので、そのポテンシャルをいかに引き出すかが大事。体が冷えると動きが鈍ってしまうので、試合前、最も大事なのは体を温めることです」



見渡すと、確かにバトラーたちはヒーターマットを敷いたボックスの中に飼育ケースを入れていたり、そのケースにカイロを貼ったりしていた。



さらには、各オーナーとも、ウオーミングアップに余念がない。段ボール製の「猫用爪とぎ」の上に出場選手を乗せ、スパーリング用クワガタと「噛ませ合い」をしている。「噛ませ合い」とは、一方のクワガタを、もう一方のクワガタの顎の間にねじ込み、半ば強引に闘争本能を刺激する行為だ。すると互いに触覚をビンビンさせ、ギシギシと音を立てて挟み合う。その様子の凶暴なことといったら……。

それに比べ、われらが平田君とジョーのおとなしいこと。完全に借りてきた猫状態(苦笑)。これで戦えるの!?

10時30分、いよいよ決戦の火ぶたが切られた。まずは、ジョーと平田君が出場する80mm以下級から。

ルールは2本先取制。土俵を模した木製板の上で行なわれ、土俵の外へ押し出したり、放り投げて背中をつけさせたら一本となる。試合時間は5分。勝負がつかない場合は仕切り直しだ。

「神保町ジム」の先陣を切ったのは、ジョーだった。

初戦の相手は、この階級で幅を利かせているダイオウヒラタクワガタ(以下、ダイオウ)。ジャワ島出身のダイオウは顎が短く、幅が広い。ジョーと比べると、体の厚みが全然違うのだ。同じ80mmクラスでも、体重が約13gのダイオウに対して、ジョーは8.3g。その差は歴然。たとえるならミニマム級のボクサーが、ミドル級に挑むようなものだ。

両選手が、土俵中央で仕切り板を隔てて向かい合い、「はっけよい、のこった!」のかけ声と同時に板が上がった。

開始早々、ダイオウが顎を上下させ、ジョーを土俵際に追い詰める。だが、ジョーも負けていない。後ろ足が徳俵にかかるや否や、左顎を差し込み、押し返す。さらには、二度、三度と相手の体の下に自分の体を滑り込ませ、一時は、中央付近まで戻した。

す、すげーな、おまえ……。

自分の倍もあろうかという敵に敢然と立ち向かうジョーの姿に、思わず胸が熱くなる。ハッキリ言って、へたな総合格闘技よりもはるかにエキサイティングだ。

ところが、これでダイオウのスイッチが入ったのか、左顎を深く入れ返され、ジョーは完全にロックされてしまう。

まずい……。

「立て! 立つんだ、ジョー!」。この名ゼリフを言いたいがために「ジョー」と命名したので、叫んでみる。これぞ“人虫一体”の戦いだ。

その後、ギリギリと挟まれること約10秒――。ジョーは突然、組むことを放棄し、後退して、自ら土俵を割ってしまった……。

すっかり戦意喪失したジョーは、2本目も試合開始と同時に背を向け、再び、自ら土俵を降りてしまった。弱者と呼ぶなかれ。かなわぬ相手だと悟ったのだ。これが自然界のおきてなのだ。

■負けても戦い続ける“戦闘マシーン”

「神保町ジム」の命運は、残された平田君に託された。

初戦の相手は、東南アジアに生息するセアカフタマタクワガタ。この階級では、われらが2選手と、このセアカ以外はすべてダイオウだ。

このセアカも平田君より大きいが、ダイオウほどの体重差はない。ただ、セアカは交尾させるとき、オスがメスを殺してしまわないようオスの顎をヒモで縛らなければならないほど狂暴な種だという。

向かい合うと、すでにいきり立っているセアカに対して、平田君は、やけに落ち着き払っている。大丈夫か。

試合開始と同時に体を起こし、まるでプロレスのロックアップのように力比べを始めた両者。その後、セアカは大きな顎で、平田君の顎を外からぐわっと挟み込む。まさに、上手から両手でまわしをがっちり取られた状態。そのまま土俵中央で、にらみ合いが続いた。



膠着(こうちゃく)状態に入ったかに見えた次の瞬間。平田君は、顎をぐわっと開き、セアカの顎を振りほどくと、すかさず右顎を差し込んだ。すると、その迫力に気おされたのか、セアカはくるりと方向転換し、土俵の外に逃走。



うぉぉぉぉぉぉぉー!

これぞ、野生育ちの勝負根性。ワイルドだろぉ〜。

これでセアカは戦意喪失。2本目も平田君の完勝だった。関係者によれば、国産クワガタでドルクスチャンプ杯に挑むのは、「竹やりで戦車に突っ込むようなもの」らしい(苦笑)。それだけに、実に珍しい国産クワガタでの一勝に、場内からは歓声が上がった。平田君が重い歴史の扉を開いたのである。

だが、喜びもつかの間、続く2回戦はまた巨大なダイオウが立ちはだかる。重戦車のように突進してくる相手に、平田君はなすすべなく押し込まれ、最後はフロントスープレックスのような格好で軽々と場外に投げられてしまった。

格が違いすぎる……。

外国産クワガタの強さは、俺の想像をはるかに超えていた。ダイオウ以外でも、特にフィリピン・パラワン島のパラワンオオヒラタクワガタは衝撃的だった。大きいものだと110mmを超える世界最大級のヒラタクワガタで、現在、世界最強の呼び声も高い。実際、100mm以下級と無差別級の出場選手は、ほとんどがこのパラワン。ほかのクワガタは一度負けると、たいてい、戦意を失ったが、このパラワンだけは負けてもひたすら戦い続ける“戦闘マシーン”。まさに狂犬ならぬ狂クワだ。

生きるために戦うことを宿命づけられたクワガタの試合に「塩試合」はない。少なくとも、戦う前からビビってる選手は一匹もいなかった。

俺の魂は、常に平田君とジョーとともにあった。だから、自分が負けたようにうなだれたし、一方で自分が戦いきったかのような充実感もあった。こんなにも男の闘争本能を刺激する世界があったとは。

ジョー、平田君、感動をありがとう――。そして、クワガタバトルよ、永遠に。

(取材・文/中村 計 撮影/下城英悟)