小売の味方スクエアが、社内に「街」を作った理由

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モバイル決済サービス大手、米国フィンテック企業の雄スクエア。2009年、ツイッター社のファウンダーの1人であるジャック・ドーシー氏により創業されると、業績は急伸。2015年には上場を果たしている。

主なサービスは、スマホやタブレットのジャックに小さなカードリーダーを差し込むだけで、専用アプリを通じていつでもどこでもカード決済を受け付けられるというもの。ユーザーは、商品やサービスを提供する側の企業や個人だ。だがフィンテック市場の競争は過熱するばかり。これまで通りの勢いを維持するのは容易なことではない。

スクエアの命運は、いかに販売者に愛される製品とサービスを作り出していくかにかかっている。ならばどうするか。スクエアが採ったソリューションは、街にいる生活者の感覚をオフィスに植え付けること。それをインスピレーションの種の1つとするためだ。

社内にはローカルの小売店がおかれカフェやデリ、サラダバー、ジュースバーなど、どの店でも同社の製品でモバイル決済ができる。「支払いをして自分たちの製品をテストしたいので、無料にはしません。もっとも会社が援助しているので、コーヒーも1杯1ドルくらいです」と同社のクリス・ゴーマン氏。


オフィス内に地元の小売店を誘致。コーヒーショップは「Andytown SF」の2号店。街にある1号店のデザインをそのままに。

社内を彩るアート作品もローカリティ重視。サンフランシスコMOMAとパートナーシップを結び、地元アーティストの作品を借りている。

販売者の視点を忘れないため、オフィスを「街」に見立てる

空間構成は、ずばり「街」がコンセプト。オフィス中央を貫く通りは「ブルバード」と名付けられ、人が行き交い賑わうメインストリートを思わせる。そのブルバードから一歩脇にそれると、チームがまとまる”街区”になるというレイアウト。

基本的にオープンな執務環境だが、複数人が集まる「ネイバーフッド」や、個人がこもって仕事に集中できる「カバナ」などの小空間が、様々用意されていた。


セミクローズドのスペース「カバナ」は防音室のような構造。プライベートな会話や少人数でのミーティングに使用される。

とはいえ、ブルバード上をアクティブに移動する社員たちは自然、他チームとリソースを共有することになる。また完全にクローズドな場所は1つもなく、会議室もガラス張りにすることで、オフィス全域に透明性を確保した。

「ここではすべての会話が”見える”のです」(ゴーマン氏)。人が簡単にコネクトできる空間をつくり、予期せぬ出会いを生み出す。その点で、コラボレーションに最適化されたオフィスだと言えるだろう。


ライブラリは会話厳禁。「ときに気が散るオープンオフィスでは、集中できる空間も大切」とゴーマン氏。

社員のヘルス&ウェルネスも重視

ヘルス&ウェルネスのプライオリティも高い。ヨガ、ピラティス、睡眠、ストレスマネジメントなどのクラスを提供している。食の選択肢がまた豊富だ。スナック類やコーヒー、ジュースを置いたマイクロキッチンは7つ。

無理にヘルシーな食品を押し付けようとはしないが、そのかわり陳列のしかたが工夫されている。「冷蔵庫を開けると、カロリーの高いソーダ類は一番下の棚に。水やお茶などは、取りやすい高さの棚に置いてあります」(ゴーマン氏)

9階にあるメインの食堂はフルサービスのレストランだ。月曜から金曜まで朝食、昼食、夕食を提供、ビーガン、ベジタリアンにも応じる。スペースは多目的に利用され、ミーティングやイベントの会場にも。タウンスクエアと呼ばれるオールハンズミーティング(全社員会議)は、ここで行われるという。


9階レストラン。隔週金曜日には「タウンスクエア」と呼ばれるミーティングを開催。食事の時間以外はここで仕事をする社員も。

地域コミュニティとの触れ合いが新商品開発につながる

ここまで、オフィスに街を取り込む工夫を紹介したが、逆のベクトルもある。オフィスのあるサンフランシスコのサウス・オブ・マーケット(SoMA)は、古びた街並みとテック企業が混在するエリア。

当地のコミュニティに貢献しようと、定期的に社員を街に送りこむのもスクエアの習わしなのである。隔週金曜日は前述のレストランを敢えてクローズする。社員が街にランチに出てコミュニティに混ざり、さらに新しいアイデアを得てもらいたいという思いからだ。

以前は、毎週金曜日に11時半から12時まで街頭でゴミ拾いをしていたことも。現在、会社全体としてさらに街に貢献していくために、多様でフレキシブルなボランティア・プログラムの準備に取り組んでいる。また5〜10人の小さなグループに分かれ、地元のお店やフードトラック、バーなどを巡るプログラムもあるとのこと。

「スクエアはコミュニティのセラー(小売店)をサポートしていますし、コミュニティのためのツールを作り、経済を強化するという使命にインスパイアされている企業です。ですから街に出ることに何の抵抗もありませんし、街でこそ触れるもの、見えるものがあるのです。スクエア製品が使われている様子を見たければ、すぐそこの角にあるコーヒーショップに行き、オーナーと話せばいい。社員たちは情熱を持ってやっていますよ」(ゴーマン氏)


社内にあるデリカテッセンバー「Wise Sons」もサンフランシスコの人気店。

スクエアのビジネスは、ローカルのスモールビジネスに寄り添うもの。社内外で彼らと接点を増やし、生活者の肌感覚を養うことが新製品開発につながるというわけ。それはリアルの街とオフィスのコラボレーションのようでもある。