シリコンバレーの裏事情 「社内カルチャー」が企業の明暗を分ける

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偉大なCEOの隣にはいつも、偉大な参謀がいる。経営陣による社内カルチャーの醸成に失敗したウーバーと、復活をみせたフェイスブックやマイクロソフト。両者の決定的な違いは、どのようなところにあるのか。

シリコンバレー在住の戦略コンサルタントの2人に、外からでは見えない「シリコンバレーの裏事情」を語ってもらう、ゆるく鋭い新連載の記念すべき第1回!

渡辺:ウーバーのCEOのトラビス、2月に元女性社員が社内セクハラを暴くブログが出て、それからもいろいろあって、6月にほとぼりが冷めるまで3カ月の休暇……と思ったら休暇が始まって1週間で突然辞任。

奥本:そうそう。トラビスが辞める前にカラ・スイッシャー(シリコンバレーテクノロジー業界で最も有名なジャーナリスト)がポッドキャストで「トラビス辞めるかも」と言ってて、その時はちょっと驚いたんだけど。取締役会はトラビス本人と彼の息がかかった人が過半だと聞いていたから、まさか本当に辞めるとは思わなかったな。世論の波に勝てなかったということね。私自身もウーバーからリフトにスイッチしたもの。

渡辺:それまではウーバー一本だったんだ。

奥本:そうね。とにかくウーバーの車の数の方が圧倒的に多かったから便利で。

渡辺:ベイエリアは同じくらいだったりしない?

奥本:両方の運転手をしてる人がかなり多いよね。聞いたところによると75%とか……。ちなみに、先日利用したリフトの運転者は両方のドライバーをしていて、これまではウーバーが80%だったけど、最近は五分五分になってきたと言ってた。

渡辺:私はウーバーとかリフトに乗ると運転手にいろいろ話を聞くんだけど、両方やっててウーバーの方が好き、って言ってる人は皆無なんだよね。まぁリフトの方が運転手への支払い比率が高いというのが大きいみたいだったけど、中には「ウーバーは自分たち運転手に嘘ばかり言うから嫌いだ」と言っている人もいたよ。

ウーバーは、巷の話題になった不祥事の多くはCEO本人ではなく中の社員がやってることだったわけだけど、「そういうカルチャーの素養を作ったのはCEO」ということでトラビスに激しく非難が集まったって感じだよね。それって、アメリカという国家の雰囲気が、大統領が変わると変わるというのと似てるかな、と思った。個々の政策、という以上に心の持ちようというか、倫理観のあり方みたいなのが変わる。


渡辺千賀(左)と奥本直子(右)

奥本:今、カフェで仕事してるのだけど、隣に座った人がウーバーの社員だ……(笑)

渡辺:なぜわかる?

奥本:会社のメールの画面がウーバーだから。

渡辺: ははは……。ウーバーはトラビス辞めてからも最大の投資家のBenchmarkに訴えられたり、辞めたけどまだ大株主のトラビスが新しい社外取締役を2人任命したり、もうソープドラマだよねぇ。

奥本: 普通ベンチャーキャピタルは投資先を訴えたりしないもの。しかもBenchmarkはウーバーの最大の投資家で、シリコンバレーでももっともリスペクトされているベンチャーキャピタルの一つ。そこがリスクをとってまで訴訟を起こすなんて、なにか隠された秘密がまだあるのではないかと勘ぐってしまうわ。

渡辺:だよねぇ。外に出てる話だけでも驚くべきことばかりなのに、それ以上にものすごいネタが隠れてるのかと……。

奥本:ウーバーは時価総額で世界最大なのに、続々と社員が会社を辞め続けていて新規採用も苦労していると耳にする。

渡辺:セクハラ問題で自己監査した時に20人も幹部がクビになったしね。

奥本:アメリカのヤフーに勤めていた間にCEOが6回交代したのだけど、その度にコーポレートカルチャーが変わってめまぐるしかった。アメリカだと、社長が変わるとトップ・マネージメントが総入れ替えになるので、誰がトップ・マネージメントになるかで会社の社内外のイメージがゴロッと変わる。

渡辺:会社の評判やカルチャーって本当に大切だよね。

奥本:ウーバーはカルチャーを立て直すために、ハーバードビジネススクールで教えていた女性をリーダーシップと戦略のトップとして採用したのよね。彼女はカルチャーの変革と組織の変換を専門にして、しかもレズビアンであることを公表している強者。新CEOも採用されたし、これからウーバーが変われるのかどうか、どう変わるのか、目が離せないわ。

渡辺:話は変わるけど、トップとして起業当初と比べてすごい変わったのはマーク・ザッカーバーグじゃないかな。

奥本:映画「ソーシャルメディア」のマークはかなり傲慢でちょっと嫌なやつだったけど、シェリル・サンドバーグを2008年にCOOとして採用して、取締役会にベテランを据えて、社会的なメッセージ性のある素晴らしい会社のCEOに成長したよね。たぶん、今はこの辺で一番うまく経営されてる会社じゃないかな。

渡辺:ちなみにフェイスブックができて数年、マークの名刺の役職は「黙れ、俺がCEOだ」みたいなのだったはず。当時ミーティングした人が驚いていた。

奥本:確かに、今、彼がフェイスブック上で発信している「良きコーポレート・シティズンであれ」的なイメージとはほど遠いものだったよね。フェイスブックが上場するときも、いろいろとスキャンダルがあってちょっと拝金主義的なイメージがあった。いつ頃からかな、彼が社会派になったのは……。

渡辺:結婚したあたりからじゃない?

奥本:だよね。プリシラ・チャンは素敵だと思う。彼女のインタビューをたくさん観たり読んだりしたけど、どれもすごく共感を覚えた。マークはプリシラの家族とコミュケーションするために中国語を学び始めたとか。お互いへの尊敬と愛が感じられるね。夫婦関係が対等な感じがするのが好感が持てる。

渡辺:シェリルもいろいろと尊敬に値する人だよね。禍福は糾える縄の如しって感じの運勢だけど。

奥本: 彼女は最愛のパートナーを亡くしてからがすごい。これまでは、才能や運に恵まれたピカピカのエリート女性というイメージだったけど、デイブが亡くなった後の哀しみや苦しみをパブリックな場で表現するようになって、いろいろと苦悩しながら頑張っている女性という面が垣間見られて、身近に感じられるようになった。


フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(Photo by Jerod Harris/Getty Images)

渡辺: フェイスブックの人事系の人が「トップ2人がすごすぎて、社員が『あの2人ほどにはなれないからほどほどで』的に思いがち。よりハイレベルなやる気を持ってもらうにはどうしたらいいかが悩み」と言ってたけど、いろいろ出来過ぎでも問題があるもんなんだね。

ちょっとまた話が飛ぶけど、スティーブ・ジョブズも晩年はかなり丸い人になっていたらしい。アップルの人が、会議でジョブズにダメ出しされて、でも会議の後にジョブズが彼のところにきて「さっきは一方的に言って悪かったね」みたいに謝られたと驚いてた。昔はそんなことは絶対に言わない人だったようだ。うっかりエレベーターで乗り合わせて、ジョブズの逆鱗に触れてクビになった気の毒な社員もいたみたいだし。しかも理由が「とっくに終わった昔のことを顔を見たら思い出した」とか……。

奥本: 老舗のマイクロソフトも、創業メンバーのスティーブ・バルマーからサティア・ナデラにトップが交代してから、カルチャーがずいぶん変わったと言われているよね。

渡辺: サティアになって出てきた結果はスティーブ・バルマーが仕込んでた案件も多い、ということもあるんじゃない?

奥本: スティーブ・バルマーも実際会うとすごくいい人なんだよね。体育会系のコーチっぽい感じ。サティアはムードメーカー的な人みたいね。インドの中高時代からサティアと幼馴染という知人が言うには、彼は勉強では天才型ではなかったけれど、いつもまわりに人が集まっていたと言っていた。敵をつくらずに、クラス全体をまとめていくタイプのリーダだったらしい。

渡辺: 確かにマイクロソフト、外向きにはかなり変わった感じがするよね。

奥本: そう。これまではウィンドウズとオフィス製品で市場を独占して事業拡大してきたけど、オープンイノベーションの波が押し寄せて、外部とのコラボレーションを奨励するカルチャーにシフトした。基幹ビジネス以外の部分でマイクロソフトがあまり得意としていない分野はスタートアップなんかともコラボレーションしながらイノベーションを推進していくというアプローチに変わったみたいよ。AndroidやiOS向けのアプリもリリースしてるしね。

渡辺: 社内の雰囲気もかなり変わったのかな?

奥本: 戦略もカルチャーもCEOの性格が反映されると思うの。オープンイノベーションを標榜して他の会社とコラボレーションをしていくためには、まず社内のコラボレーションを推進しなければ。

マイクロソフトほど大きな会社になると、会社にとっては素晴らしいアイディアであっても、幹部同士の利益相反でつぶされたり、社内政治に負けた人がバジェットをつけてもらえずに実現しなかったりということが多発しがちだよね。特に、メジャーな製品ラインごとに独立した会社組織のようになっているとタコツボ化しがちで横連携することは少ない。実は、スティーブ・バルマーもその問題点には気づいていて、改善に着手しようとしていたらしいけど……。

サティアが指揮をとるようになってから、まず幹部レベルでオープンなコミュニケーションをするようにして、それでビジネスが前進する事例を社内に示し、コラボレティブなカルチャーを下に降ろしていったらしいよ。

”Organizational culture eats strategy for breakfast, lunch and dinner(戦略が伸るか反るかは、社内カルチャーで全てが決まる)”はドラッカーの言葉だけど、これまで米国大企業に勤めた経験からこれは名言だと心から思うよ。