B.LEAGUEの発足までは長い道のりだったが、今バスケに真剣に向き合っている子どもたちが目指せる世界が誕生した意味は大きい(写真:矢木隆一)

世界で最も競技人口が多いスポーツ――それがバスケットボール。FIBA(国際バスケットボール連盟)に登録されている競技者数は、全世界で4億5000万人にものぼる。最大競技人口を誇るのはサッカーだと思われがちだが、サッカー人口は約2億7000万人にすぎない。
ファン待望のバスケの男子プロリーグ・B.LEAGUEがスタートしたのが2016年。9月29日には、2年目シーズンが開幕した。今後、B.LEAGUEはどのような発展を見せていくのか。
B.LEAGUEチェアマンである大河正明氏、さらに千葉ジェッツ(現・千葉ジェッツふなばし)の代表として『千葉ジェッツの奇跡 Bリーグ集客ナンバー1クラブの秘密』を刊行し、今秋、バイスチェアマンにも就任した島田慎二氏に「B.LEAGUEが目指す未来」について語ってもらった。

統一リーグがスタートした意義は大きい

大河正明:2年目となるシーズンが始まりましたけど、1年目の昨シーズンはあっという間に終わりましたね。正直なところ、これまで経験したことのない世界だから、基準のない1年目を評価するのは難しい。

それまで日本には、プロという位置づけの「bjリーグ」と実業団という位置づけの「NBL」がありました。これら2つが紆余曲折を経てやっと統一されて、B.LEAGUEの発足にこぎ着けた。本当、長い道のりだった。

厳しい言い方になるけど、NBLは観客が1000人も入っていないようなチームもあった。観客の顔を見たら、ほとんどが会社の同僚だったり……。bjリーグにしても、人気クラブの秋田(秋田ノーザンハピネッツ)でも3000人も入らない。琉球(琉球ゴールデンキングス)がいちばん多かったのかな。

そんな2つのリーグが1つになってB.LEAGUEが始まったけど、ふたを開けてみて、実際にどれくらいの人たちが見に来てくれるのか、予想がつかなかった。

島田さんのところのジェッツは、来場者数を伸ばしましたね。

島田慎二:そうですね。NBLの最終年の1試合平均が約3600人でしたけど、昨年はリーグ最多を記録することができて、1試合平均の来場者数も4500人に伸びました。

大河:着実に伸びてますよね。来場者数に関してはこれからもっと増やす必要があるけど、B1(1部リーグ)全体の平均でリーグが1つになる前の来場者数から5割くらい増えたわけだから、一定の評価はできるのかな。

島田:昨シーズンは珍しさも手伝ってそれなりに注目されましたけど、これからはまさにB.LEAGUEの真価が問われることになりますね。実力と魅力を高めていかないと、スポンサーに本当の価値を見透かされてしまうかもしれません。

もちろん、よかったこともたくさんあります。たとえば、プロリーグができたことで、今バスケに真剣に向き合っている子どもたちが目指せる世界が誕生した。この意義は本当に大きいと思いますね。

プロでも中学生でも、魅力的なチームは「走っている」

大河:今シーズンの話をすると、ファンが見ていて、「やっぱりプロだなあ」っていうプレーをたくさん見せてほしいですね。今後は東京オリンピックに向けて日本代表による戦いも始まっていくので、B.LEAGUE効果で日本のバスケを強くする必要もある。

千葉ジェッツとか、アルバルク東京とかがそうだけど、非常にアグレッシブに守って、ボールを奪ったら素早く攻め切ってしまうというプレースタイルが理想です。ある意味、これが、長身の選手がそろった外国チームに対抗する日本代表の目指すべきスタイルでしょう。そういうプレーをするクラブをもっと作らないといけない。


島田慎二(しまだ しんじ)/1970年11月5日、新潟県生まれ。92年、日本大学法学部卒業後、マップインターナショナル(現・エイチアイエス)入社。95年、ウエストシップ設立。2001年、ハルインターナショナル設立。10年、全株式を売却。同年、リカオン設立。12年、ASPE(千葉ジェッツ運営会社)代表取締役就任。15年、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ理事就任。2015-16シーズンにおいて、1試合の観客動員がNBL最多の6835人を記録、年間観客動員も初めて10万人を突破する。B.LEAGUE初年度の16-17シーズンでは、天皇杯で日本一を達成。1試合の観客動員が7327人、年間観客動員が13万5000人とともに日本一を更新し、人気・実力ともにトップチームに押し上げる。17年9月、B.LEAGUEバイスチェアマン(副理事長)就任(写真:矢木隆一)

島田:ジェッツは、とにかく走ることが鉄則。アグレッシブに守り、攻めるときはアップテンポにいくスタイルです。富樫(勇樹)を中心に、そういうバスケをすることを徹底してますね。実際、富樫がうまく動けるように、彼に合う外国人選手を取ってきています。

かといって、富樫が将来いなくなったとしても、基本スタイルは変えません。チーム理念の中に「アグレッシブなディフェンスから走る」とあって、それがジェッツのアイデンティティになっていますから。

大河:B.LEAGUEの中でも、クラブによってはローポスト(ゴール下周辺)の選手にボールを入れて、セットオフェンスで攻めたりするところがある。でも、このスタイルのバスケでは、日本のクラブは強くならないと思う。どこも徐々にそれに気がついてきて、最近では「走るスタイル」を取り入れる流れがB.LEAGUEの中に広がりつつある。今年は、両クラブの間で攻守が素早く変わり、3ポイントを打つというシーンが多く見られるんじゃないかな。こういうプレーが日本のバスケットそのものの質を高めていくでしょうね。

要は、リーグ戦でやっていないことを「やれっ」と言っても難しい。普段あまり走っていない選手に、「代表になったんだから速く走れ」と指示しても無理ですよ。基本は「走る」。その一生懸命さが大事です。

島田:そうですね。人間って単純で、一生懸命走っているところに感情移入しやすいというか。高校バスケとか、全中(全国中学)バスケとか見ているとよくわかる。うまいとか下手じゃなくて、必死になって走っている姿を見ていると、自然に元気が出てくるというか。プロだって基本姿勢は中高のバスケと同じ。この姿勢に、プロならではの技を加えていけば、絶対に面白いし、見ている人たちだって感動してくれますよ。

島田:お客さんの入りがチームの勝ち負けだけに左右されていたら、クラブ経営は成り立ちません。勝っても負けても、お客さんがまた見たいと思ってくれないとダメ。それで、どういうバスケで魅せればいいか考えたんです。エンターテインメント性やホスピタリティも大切ですけど、競技という本質的な部分では、やはりアップテンポなバスケにかなうものはないだろうと思いました。

うちにはスピードが売りの富樫もいるので、必然的に今のスタイルが出来上がったんです。勝つという視点、魅せるという視点、お客さんが喜ぶという視点、すべて合わせて考えて、今のスタイルがいいだろうと思ってやっています。

「アリーナスポーツ」としての圧倒的な潜在力


大河正明(おおかわ まさあき)/1958年5月31日、京都府生まれ。81年、京都大学卒業後、三菱(現・三菱東京UFJ)銀行入行。95年から2年間、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に出向。その後、銀行に戻り支店長などを務めた後、2010年に銀行を退行。2012年、社団法人日本サッカーリーグ理事に就任。14年、公益社団法人日本プロサッカーリーグ常務理事に就任。15年、公益財団法人日本バスケットボール協会専務理事、一般社団法人(現・公益社団法人)ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)チェアマン(理事長)就任(写真:矢木隆一)

大河:バスケットボールは、現在あるプロスポーツの中で、唯一のアリーナスポーツです。このアリーナをうまく運営できれば、今後とてつもない可能性があると考えています。

今は残念ながら体育館を借りて試合をしていますけど、アリーナ自体を事業としてとらえていくと、ものすごい規模のビジネスができるはず。日本ではアリーナ運営をビジネスにしているところはないけど、水面下では何かが動きそうな感じはある。

実際に具体的な動きが出れば、それはB.LEAGUEの誕生が1つのきっかけづくりになったと言えますね。それだけじゃなく、政府にはスポーツ庁が出来たし、2020年には東京オリンピックも開催される。確実に風は吹いています。この追い風を最大限利用して、2〜3年の間に「アリーナビジネス」のスタイルを確立できれば、そこでプレーが行われるバスケットも大きく発展して、サッカーや野球とは異なる独自のプロスポーツの形をつくれるかもしれませんよね。

島田:ビジネスとして見ても、バスケにはチャンスはいくらでもあると思います。日本の至るところにアリーナが出来れば、間違いなく注目されるでしょうね。コンサートや各種イベント、卓球などもできるようにして、B.LEAGUEのクラブがそこを本拠地にする。その中で、クラブはホームタウンの街づくりにも参加して、地域の発展を支えていけばいい。アリーナを中心とした地域マーケットが生まれたら、すごい状況になるでしょうね。

もちろん簡単な話ではないですけど。来場者数がB.LEAGUEトップで、しかも船橋の行政とがっちり手を携えているジェッツでも、アリーナ建設というレベルには至っていませんから。時期尚早というか、まだまだハードルは高い。ただし、将来的にはそういう形を目指すべきでしょうね。

大河:野球のドームは、建設に500〜1000億円くらいはかかる。バスケのアリーナはどうかな。Jリーグのスタジアムの例だと、ガンバ大阪の市立吹田サッカースタジアムは総工費が140億円。収容人数で見ると4万人というサイズです。単純には比べられないけど、収容人数1万人規模のアリーナなら、100億円もかからないんじゃないかな。

大河:新国立競技場みたいに公共事業で建てようとするとべらぼうに高くなるから、自分たちで出資を募って建てればいい。要するに、街づくりですよ。市街地のどこかに建てられれば、周辺も商業地として開発できるし。こういう総合的な計画を立てられるところがチームを持つ。壮大な夢ですけど、こういう流れが出てくれば、B.LEAGUEはとてつもなく大きくなれる気はします。ビジネスサイズが1ケタ、2ケタ変わってくるでしょうね。そういうのにチャレンジしたいと思っている。

B.LEAGUEの今後の課題とは?


島田:Jリーグは「地域密着」という言葉をスローガンにしてクラブ運営を進めてきましたけど、これを私なりにアレンジして、ジェッツでは「地域愛着」を目指しているんです。「応援するクラブが好きでたまらず、気がついたら本拠地のある自治体に引っ越してた」というファンを1人でも増やしたい。

スポーツって人生を変えてしまうほどのパワーがあるし、人々を幸せにするだけの要素もいっぱいありますよね。実際、少数ですけど「ジェッツがあるから船橋に住みたい」と口にする人もいます。これからは、ジェッツの試合を見るために本当に引っ越してきてくれる人たちを増やしていきたいですね。

大河:B.LEAGUEに所属するクラブは、34都道府県に45(B3含む)もあって、国内のあちこちで年間1314試合(B3含む)も行われている。こんなプロリーグはありませんよ。Jリーグよりも多い。

NBAに視察に訪れたときにね、こんなことを言われたのを覚えています。

「私たちは北米のバスケットリーグを取りまとめる組織だけど、実はメディアカンパニーなんですよ」

つまり、自前のアリーナを持ち、そこで行われているメディアコンテンツを売るっていうビジネスモデルを確立させているんだよね。こうなると、世の中に対する影響力も強くなるし、事業規模も一気に拡大する。それぐらいしないとスポーツは産業化しないってことがよくわかりました。

NBAとはやり方は違っても、島田さんのような能力の高い経営者が1人でも増えて、ジェッツのようなクラブが20チームぐらいに増えてきたら、B.LEAGUEも相当なパワーを発揮できるようになると思う。

島田:B.LEAGUEという1つのリーグが出来ても、現場のクラブの状況がよくならないと全体を盛り上げることはできません。今後は、リーグ側とクラブ側が協力しながら各クラブの力を底上げしていくことだと思います。それがB.LEAGUEの今後の課題ですね。

(後編に続く)

(構成:野口 孝行)