強みを持つ人は最初から「勝てる相手としか戦わない」と言います。では、強みが何もないという「弱者」はどうしたら良いのでしょうか。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、ビジネス書ではあまり目にしない「弱者の戦略」について、カリスマ経営者の名言などをひきながら解説しています。

勝つための知恵

幕末の剣豪で江戸城無血開城の立役者である山岡鉄舟が、海道一の大親分と言われた清水の次郎長に「けんか出入りで、負けない秘訣」はと訊ねたところ、修羅場の極め人らしい神妙な答を返しています。

「まずは相手の強さをはかります。刀を抜いて相手と切っ先を合わせたときに、ちょっと押してみるんです。そのときすぐに押し返してくるのは弱い奴です。冷静さを失っているから、即座にぶった切ってしまいます。けれど、押してやると押されるままに引っ込んでいく奴がいる。こんな奴は強い。だから、なりふりかまわず逃げちまいます」と言うのです。

この話で面白いなぁと思ったのは「20世紀最高の経営者」と言われるジャック・ウェルチが、同様に「競争優位を持ち合わせていないのなら、競争するな」と言っていることで、至って当然の真理です。

ウェルチはGEの創業事業であった「家電」でさえ、日本の家電メーカーの切っ先の鋭さを見てこれを売却しています。逆に、自社の資金調達力や組織力から考えて「No.1、No.2」になれると判断して「ファイナンス」事業には積極的に参入して行きました(但し、利益ベースでは半分近くを稼いでいた「ファイナンス」事業を、ジェフリー・イメルト前CEOは将来を考えて撤退させてはいますが)。

「勝つ人」は「勝つため」の場所、情況についてクールな判断をします。「勝てないところ」「勝てない状況」では勝負をせず、勝たなければならないので「勝てるところ」「勝てる状況」でのみ果敢に勝負をかけます。

企業の戦略は、自身の「強み」と「機会」に焦点を絞って経営資源を集中させて、顧客の望む「最大の効用」を実現させ続けることだと言えます。これが「競争戦略」の基本スタンスであり、勝つためにとらなければならない、当然な方策「選択と集中」です。

弱者の戦略

ところで、ここで「私には『強み』がないから、どうしたらいいのでしょうか」と言う声が聞こえてきそうです。ここから少し、趣向を変えて「弱者の戦略」について考えてみます。この戦略は「弱者の戦略」とは言え「強者」がその地位を「陳腐化させない」ための基本戦略でもあります。

答えとしてごく一般的に言えることで、それは「未だ知られていない」か「知られていても困難であると判断されている」、かつ「顧客が、時代が待ちわびている効用」づくりに果敢にチャレンジするこというのがその「始め」です。

「未知である」が故に既存企業は気付いていないか、「困難である」が故にその場所には踏み込まない、そのため「強み」を持つ競合相手はいません。この場所では誰しもが「強み」など持っていないので、先に飛び込むことで「強み」の源泉である「知識」「ノウハウ」「ネットワーク(人脈)」などの「情報的経営資源」を獲得できるはずです(但し、一度それが社会の目に触れかつそれが顧客が喜ぶものであると、次々と新規参入者が現れます。そこでは自身の「強み」を読み切りながら、改善と新たに弱者の戦略を続けることが必要になります。「独楽」と同じで、回り続けなければ倒れます)。

そうしたら「そこは、どこにありますか」「どうしたら、うまく行きますか」と真顔で聞く人が少なからずいます。そこでは、先生はいまだおらず、また教科書(テキスト)もありません。それだからこそ「新人」であっても「弱者」であっても「機会」があり、これこそが「イノベーション(革新)」と呼ばれる「マーケティング」と双璧をなすマネジメント(経営)の基本機能です。さらに言うならば「イノベーション(革新)」が、経済活力の源泉です。

また一般的にという言葉で続けますが、先端的な事業で中堅企業に成長した企業としては、トヨタに始まりホンダ、パナソニック、ソニー、シャープ、京セラ、日本電産、キーエンスやさらに任天堂、ソフトバンク、楽天またさらにヤクルト、日清食品、セブンイレブン、クロネコヤマト、ユニクロに至るまで数限りなく多くあり「弱者」は時代を先取りすることで興隆してきました。これらの企業すべてが「時代の兆し」を嗅ぎ分けて、他にすがることなく自力で「強み」を構築して「無人の野」に基盤をつくり上げました。

続けます。「それは『才能』があってのことでしょう」という声も聞こえそうです。かの天才と称された本田宗一郎さんの事例をあげます。

本田さんが「ピストンリング」に目を付けて製作しようとした時に、技術の壁にぶち当たりどうしても完成させることができませんでした。そこでどうしたか。浜松高等工業学校(現在の静岡大学工学部)の聴講生として入り3年間金属工学の研究に費やしてやっと壁を破りました。

ここには王道などはなく、あるのは「サントリー」の創業者・鳥井信治郎さんの言う「やってみなはれ」より方法はなく、京セラの稲盛さんでも日本電産の永守さんでも3K(きつい、汚い、危険)の作業現場で人材を育てながら長時間働き抜いて「強者」に変身して行きました。この二人を代表としてあげましたが、永守さんは「経営のコツ」について「やり始める。やり続ける。やり通す」と言われているのです。

ここにあるのは「困難」なるが故に、チャンスがあるということです。困難大歓迎でもあるので勇気をもって「市場、社会」が求めている、まさにそのことを「やり始める。やり続ける。やり通す」にこそ大いなる黎明が訪れるというものなのでしょう。

カッコ良くやる方法なんてありはしないので、たまたまカッコ良く幸運にできたとしても、カッコ悪く知恵と汗とをふり絞って「やり通した者」の「知恵と力」にはやがては敗れるでしょう。だれにでもいつでも機会があるので、容易くなく茨の道において「やり始める。やり続ける。やり通す」人のみが「知識と力」を得るでしょう。

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