【ライターコラムfrom名古屋】信頼を掴んだ“優秀な劣等生”…愛される助っ人・ワシントンが生み出す好循環

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 ここ1カ月ほどというもの、練習のたびに風間八宏監督の指導を受ける選手がいる。特にDFラインの個別練習や、ゲーム形式になると決まって1回は指揮官が叫ぶ。「ワシ!」と。“劣等生”の名はワシントン。今季加入のブラジル人MFであり、ここ5試合連続でセンターバックとして起用されている。ブラジル時代にもセンターバック経験はあるというのだが、それも「チーム事情でセンターバックがいない時だけ」という助っ人的な使われ方で、彼自身が自負するように、身体の強さを生かしたディフェンスが持ち味のボランチというのが彼本来の姿だ。

 当然、本腰を入れて継続的にDFラインでプレーするのは初めてで、だからこそ事あるごとに風間監督の指導が入る。内容は主にポジショニングで、やはり本職のDFには自然な動きでも、ボランチの選手にはなかなか実践するのは感覚的にも難しいようだ。楢崎正剛は「ワシは自分の感覚に自信を持っているから、そこでも少しナーバスになっている」と、その心境を慮る。ボランチとして積み重ねてきた経験を活かすというよりは、まずはセンターバックとしての原理原則を求められる毎日には、「オレはボランチだよ……」と苦笑することもあった。

 それでもチームが彼をセンターバックで起用するのは、その能力に信頼が置かれているからでもある。本職のボランチでは小林裕紀と田口泰士が鉄板の働きを見せており、DFラインでは新井一耀が長期離脱中というチーム事情もあるが、チーム随一の空中戦の強さとフィジカルを生かした対人守備、そしてボランチならではのパス能力の高さはこと今季の名古屋にとってはDFラインに欲しい要素でもある。コンビを組む櫛引一紀も「ワシの良いところをどんどん出してもらって、自分もカバーしていきたい」と全面サポートを約束しており、GKの武田洋平もそれは同様だ。ピッチ外では陽気なことこの上ないブラジル人で、チームメイトとの仲の良さも抜群。風間監督に指導された後には、決まって誰かがフォローに行くあたり、実に愛されている選手でもある。

 近頃では余裕が出てきたのか、櫛引との連係にもバリエーションが出てきたという。「長崎戦では『コンパクトに守ろう』とずっと言ってました。そういうテーマを持ってやっていたみたいです」とは櫛引の証言。より自分が守りやすくということを考えてのことだろうが、以来、今週のトレーニングの中でも要求はさらに増えてきたとか。「僕の要求も聞いてもらえるようになるといいな」とこれまた櫛引は笑うが、一方で「良い関係を築けていますよ」と手応えも。それはワシントンが常々見せる、リスペクトの精神も強く影響しているだろう。センターバックとしての起用が始まって以降、彼は事あるごとにこう言うのだ。「ウチには酒井(隆介)やクシ、イム(スンギョム)など素晴らしいセンターバックがいるけど……」。本職の選手たちを気遣いつつ、「自分は要求に応えるだけ」と全力を尽くす。彼の素晴らしい人柄は、仲間からの信望も厚い。

 今日もワシントンは監督から呼び止められ、何かしらの指導を受けているだろう。だが、めげずに頑張る背番号8の姿はチームメイトに良い影響を与えてもいる。出場機会に恵まれなかった時期には進んで居残りでフィジカルトレーニングに励み、プロ意識の高さを見せつけた。自身も厳しい時期を乗り越えた櫛引は、「ワシとの連係を考えるうえで、ワシがすごく考えているなというのはわかりますし、自分も負けないようにしないと」と大いに刺激を受ける。信頼される“劣等生”はポジティブな空気をピッチに作り出す。それはデッドヒートの様相を呈してきたラスト4試合のリーグ戦に向けて、実に心強いものなのである。

文=今井雄一朗