右脳型?左脳型? でもそれには科学的な根拠はない!?

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執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ


ヒトの大脳は、中央部にある「大脳縦列」という「シワ」を境目に、右側と左側の大脳半球に分かれています。

自分にとって右側を「右半球;右脳」、左側を「左半球;左脳」と呼んでいます。

そして、利き腕や利き手があるように、脳にも「利き脳」があるとするのが「右脳型・左脳型」の考え方です。

左右どちらが発達しているかで、その人の適性などを判断するのです。

しかしこの考え方、科学的な根拠があるわけではありません。

今回はこの「右脳型・左脳型」について、詳しく解説していきます。

右半球と左半球について

大脳は左右に分かれ、両者は2億本あるとされる「脳梁(のうりょう)」という神経線維の束でつながれています。

右半球と左半球は、形も働きも左右対称ではなく、それぞれが別々の役割を果たしているといわれています。

たとえば、前頭葉・側頭葉・頭頂葉を上下に分ける「外側溝」は左半球の方が深くて長いこと。

また、「側頭平面」と呼ばれる側頭葉上部表面にある部分は、左半球の方が右半球よりも少し広いとされています。

一方、両者の働きは、「交差支配」といって、左半球は身体の右半身を、右半球は左半身を司っています。

たとえば、脳のケガや病気で右半球の働きが損なわれると、左半身に障害が現れ、左半球に障害があると右半身に影響が出ることがわかっています。

言語野は左脳にあるとは限らない

大脳皮質の各部は、感覚や運動、言語や記憶など、場所によって違った役割を担うとされてきました(脳機能局在論)。

なかでも、人間を人間たらしめているといっても過言ではない「言語」について、これを司る「言語野(げんごや)」は、総合的には90%以上の人が「左脳」にあるものの、右利きの人で数%、左利きの人だと30〜50%が「右脳」にあることが、脳科学で明らかになっています。

つまり、次に述べる「右脳型・左脳型」の根拠となる「言語野は左脳にある」は、必ずしも正しくないことが証明されているのです。

右脳型・左脳型が俗説とされる理由

右脳型・左脳型は、利き脳という見方を想定し、「右脳=感性の脳」、「左脳=論理や言語の脳」と分け、どちらが発達しているかにより自分の適性を判断しようとする考え方です。

ABO式の血液型性格診断を連想させますね。

たとえば、右脳型は感性を重んじクリエイティブで「芸術家肌」であるとか、左脳型は論理を重んじ理性的で「理屈っぽい」などと、「見立て」をするわけです。

専門家はこれについて、

「脳の解剖学的・生理学的所見を、いわば強引に人の特徴にまで押し広げた俗説」

と言っています。

これが「俗説」なのは、その根拠が言語野は左脳にあるという偏見からです。

先に述べた脳科学の知見も示しているとおり、多くの人は左脳にありますが、すべての人に当てはまるわけではないのです。

分離脳のケースから分かった重要な事実

左半球と右半球とをつないでいる「脳梁」を、手術などによって切断し、左右の脳が切り離された状態が「分離脳」です。

もともと、病気の発作を軽減するための手術法でしたが、別の深刻な影響を与えてしまいました。

それは、分離された脳がおのおの独立したふるまいを始めたことです。

たとえば、一方の手がズボンを下げようとしているのに、もう一方は上げようとする、といった具合です。

あるいは、左目に絵を見せても見えるだけで、それが何かと認識できないこともわかりました。

これにより、

左右の脳はそれぞれ分化された機能は持ってはいるものの、別々に働いているのではない、

そして、

両方が統合されてはじめて、物事を理解するという役割を果たす、

ということが明らかになってきました。

すなわち、複雑な絵の鑑賞や、微妙な音色の聞き分けなどは、左右の脳の相互連携により理解にいたるということです。

脳神話への注意喚起:OECDの活動

人間の身体については、まだ未解明で謎の部分が少なくありません。

とりわけ、脳については画像診断による脳科学の飛躍的発展で、さまざまなことが解明されてきてはいますが、まだまだ今後の発展に大きな期待が寄せられる領域です。

それだけに、脳を利用した「俗説」も生まれやすい分野なのです。

OECD(経済協力開発機構)は、2007年「脳の理解:教育科学の誕生」と銘打った報告書に、「神経神話の一掃」という章を設けました。

その中で、神経神話の事例のひとつとして「右脳人間・左脳人間が存在する」という説も取り上げられています。

脳科学への関心が高まってきている一方で、巷には「○○で脳が活性化する」「○○を食べれば脳にいい」といった、消費者の興味をそそるようなキャッチフレーズが溢れ、脳科学が乱用されています。

このままでは脳科学全体の信頼を損ない、学術の健全な発展に支障をきたす、という危機感から、「神経神話の一掃」を掲げました。

脳を巡る怪しい研究成果や根拠の乏しい説、つまり、「神経神話」を撲滅していこう、という運動のひとつがOECDの活動です。

右脳型・左脳型も「酒のつまみ」に楽しむ程度ならよいかもしれません。

しかしながら、人間が適切に正しく理解することに対しては、誤解を招く俗説だということも踏まえておきましょう。


【参考】
・池谷裕二監修『大人のための図鑑 脳と心のしくみ』(新星出版社 2015)
・Newton別冊『脳と心』(ニュートンプレス 2010)


<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供