26日は朝から出棺の様子が放映された。(画像はタイのテレビ放映から)

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 2017年10月26日、昨年10月に88歳で死去したタイのプーミポンアドゥンヤデート前国王の葬儀が行われ、ほぼすべてのタイ国民が現地で、あるいはテレビ、あるいはタイ国内各地の寺院で前国王に別れを告げた。

 翌日27日からタイは新たな歴史を刻んでいくことになる。

◆タイ国民に愛された前国王

 前国王が崩御されたのは昨年10月13日のことだ。19時前後に全国放送で正式に崩御が伝えられた。昭和50年代以前に生まれたタイ在住日本人の多くが昭和天皇の崩御と重ねたに違いない。ところが翌日は黒い服を着用する人が多かったものの、一般企業は普通に営業していたし、街中に大きな変化はなかった。

 あれから1年が経った10月13日。多くの一般企業は休みになったが、サービス業は崩御翌日同様に何事もなかったかのように営業していた。ちょうど金曜日だったこともあり3連休になったため、その休みを利用して郊外あるいは海外に旅行をするタイ人会社員も多かった。前国王はタイ国民に、現代日本人には理解できないくらいに尊敬され、愛されてきた。そのわりにはタイ人たちのドライな反応に違和感さえ感じた。

 しかし、今日の葬儀の様子をテレビで観ていると、やはりプーミポンアドゥンヤデート前国王の偉大さがわかるような気がした。葬儀は盛大という言葉がこれほど似合うことはないというほどの規模だ。一般市民の参列者こそ喪服を着るが、葬儀の一隊は南国らしく明るい色の民族衣装を着ていたり、ワチラロンコーン国王を始め英国の近衛兵のような軍服姿もあり、美しい隊列を組んで行進していた。伝統楽器で音が奏でられ、時折楽隊による国王賛歌などが聴こえる。使用されている仏具もすべてが芸術品で、一糸乱れぬ動きは荘厳だった。

 タイは一般的には10月いっぱいまでは雨期だ。しかし、数日前から肌で感じる分には乾期の空気になっており、葬儀は晴天の下で執り行われている。この歴史の節目にこういった天気に恵まれるのもまた前国王の王としての資質なのではないかとさえ思えた。

◆タイ全土で行われた献花

 バンコク都内を始め、タイ78県の各地では葬儀の時間に合わせて献花などの模擬的な葬儀が行われた。タイ中央部の端にあるサラブリ県プラプッタバート寺院では近隣の県を合わせて数万人規模の献花が朝から続き、現地の救急隊のボランティアを始め、多くの人々が協力し合い、参列者に無料で食事を振る舞っている。

 サラブリ県でボランティアとして働く湧上和彦さんの話によると、「国王の火葬の時間22時に合わせてこちらでも献花された花を燃やします。ですが、一気に燃やすのではなく、1本1本火にくべていくので、数十万本になると思われる花を全部入れ終わるのは明け方になるかもしれません」ということだった。こうした儀式はタイ全土で行われた。

 タイらしく日本の葬儀よりは明るさはあるものの、「参列するタイ人は心の底から前国王を惜しんでいる様子が窺える」と湧上さんは付け加えた。意外にも巨大モニターなどを設置してバンコクと連動しているのかと思いきや、サラブリ県の会場では個別に葬儀は進行しているという。

 数週間前にタイ政府から葬儀当日に反政府組織によるテロが懸念されることが発表された。しかし、火葬が始まっているとされる執筆時点(26日23時。火葬の様子はテレビ放映されていない)では大きな事件は発生していない。

 ただ、テレビ放映はないが、救急隊の報道関係者グループラインでは炎天下の参列で倒れ込んでしまう人も少なくない様子が映像と画像で報告されている。混乱といえばそれくらいで、少なくともバンコク都内は大きな事件はまだ聞かれない。

 観光客などへの影響としては、大手商業施設、銀行、郵便局、映画館の多くが26日の終日、あるいは午後から休業とするなどが見られた。コンビニエンスストアも午後から休みとなるなどがあるが、飲食店は営業しているところも少なくなく、アルコール販売はないものの食事は問題ない。26日中はタイ人のほとんどが喪服姿で過ごし、営業している飲食店は黒い人で埋め尽くされている。夜間はバーなどはすべて休業で、繁華街周辺はだいぶ静まりかえっていた。

 逆に特待的なこともあり、例えばBTSスカイトレインや地下鉄MRTが終日全線で無料、通常深夜0時までのところ、2時まで運行する。ほかにもバスなどの交通機関が無料で、一部のバイクタクシーが自主的に無料でサービス提供をしていた。通りは葬儀会場が一部通行止めになっているが、それ以外はいつも通りで、むしろ交通量が少ないため、移動はしやすかった。

 27日午前6時に遺骨を取り出す儀式があり、本来はこの日をもって服喪期間を終了する予定だったが、10月10日の閣議決定で10月29日まで喪に服すことになった。ただ、タイ政府はあくまでも一般企業などに対しては強制という形を採ってはいない。あくまでも節度ある対応を求めるに留まり、外国人観光客も基本的には特別なことをする必要はなく、いつものような旅行を楽しめる。

 26日は早朝からどのチャンネルでもすべて同じ映像とアナウンスが流れた。各局がそれぞれ似た角度で撮っているのではなく、まったく同じ映像が流れた。しかし、衛星放送ではいつも通り映画やアニメも放映されていた。また、火葬が始まった時間は葬儀会場の特設ステージで行われる古典人形劇や音楽演奏などが放映され、昼間の出棺の様子とは一転するというタイらしさもあった。

 26日中でも一般的な生活に特に大きな影響はなく、昭和が終わったあの日を知る者としては意外に普通にタイの歴史が変わっていく様を見た気がした。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>