【ライターコラムfrom仙台】縁の下の力持ち…清水コーチが語る「敵チーム分析」のススメとは?

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 あるときはピッチレベルや櫓の上からチームを撮影し、またあるときはボードやタブレットを片手に選手たちへ情報を送る。ベガルタ仙台の練習場では、清水智士分析担当コーチのそのような姿がお馴染みとなった。

 清水コーチは、2014年にサガン鳥栖のテクニカルコーチとして明治安田生命Jリーグでのキャリアをスタートさせた。当時のユン・ジョンファン監督が2015年からKリーグの蔚山現代で指揮を執るようになると、清水コーチも同チームで分析担当コーチを務めることに。Kリーグの中でもデータの活用方法について先進的だったユン監督のもとで多くの経験を積み、今季からは仙台で分析担当として多忙な日々を過ごしている。

 一週間に一試合というペースの場合、清水コーチの仕事を大まかにまとめるとこうなる。

 まずチームが試合をしている頃、次の対戦相手の試合を視察する。公式戦の翌日には、早速コーチングスタッフに報告。オフが明けた頃には、最初に伝えるべき相手チームの情報を、選手の目に見えるところに掲示するなどして提供する。「相手チームの現状や、前節での戦い方などを、いくつかの基礎情報として整理し、並べて示します」。情報を詰め込みすぎず、また押しつけず、選手自ら次の試合のポイントを考える材料とする意図もあるという。

 一週間の練習では、自チームの映像を撮影するとともに、相手チームの様々な映像を編集。試合前日の練習前には相手チームについて映像ミーティングを行うが、その時も「チーム状態によって選手の情報の受け取り方も変わってきます。勢いがあるとき、思うように結果が出せていないとき、それぞれで、自信を持って試合に臨めるように」と、映像の編集と説明には気を使う。

 普段はこのような形で進むが、10月の前半は仙台にとっても清水コーチにとっても、初めてのケースがあった。10月4日と8日に2017JリーグYBCルヴァンカップ準決勝で、そしてその一週間後の14日に明治安田J1第29節で、それぞれ川崎フロンターレと戦うことになる。2週間で同じ相手と3度戦う日程に、分析担当コーチもまた心技体をフル稼働させた。

「最もやるべきことが多く、密度が濃かった」と清水コーチが振り返ったのが、4日のルヴァンカップ準決勝第1戦の前だった。相手がどういう先発を編成するか、予想が難しかったのだ。まず、直前のリーグ戦から仙台は中2日だったが、川崎は中3日。川崎の方には日本代表に招集されている選手がいて、仙台には移籍規定により出場できない選手がいる。そして、この大会独自のルールとして、21歳以下の選手を先発させる必要があるのだ。清水コーチは、川崎で21歳以下の誰が先発するかで、フォーメーションも大きく変わると踏んでいた。また、川崎がその時点で仙台と近いシステムの相手と対戦していなかったために、少なくとも3バックの相手に対して川崎がどう戦うのかという参考になる映像を、かなり遡って見つけなければいけなかった。これらの作業を、中2日で完遂している。

 果たして第1戦は、相手が3−4−2−1でスタートし、仙台はそこにうまく攻守のポジショニングをはめ込んで3−2で勝利することができた。後半から相手が4−4−2に変えて、味方が退場する苦しい展開になったが、「相手は次もこのシステムで来るはず。そうなると、どういう選手の配置になるか、どういう出方になるか…ということも、分析しやすかった」。渡邉晋監督らコーチングスタッフと短い準備期間で確認。相手の出方など分析通りのところも多かったが、この試合は残念ながら1−3で敗れた。

 それを受けた一週間後のリーグ戦については、「もう互いに手の内を知り尽くしている状況なので、戻ってくる選手はいても大きくは変えてくることはないはず」と考え、それに対して自分たちがどうするか、ということで過去2戦でできていたことを中心に整理したという。その結果、2点をリードし、相手が退場者を出して数的優位に立つこともできた。しかし攻めあぐねていた終盤に3失点し、まさかの逆転負けを喫している。

「この3戦を通し、チームも自分も、本当に『積み上げた』といえるような手応えを得ることができました…。でも、その手応えがあったからこそ、結果を出したかった。それでこそ『やり切った』と言えたと思います」

 勝つために様々な分析をして、練習に落としこむ作業をしても、勝てる保証はない。だが「自分自身は、プレーすることも指揮を執ることもできません。大きなことができるわけではないのですが、それでも、1パーセントでも勝つ確率を高めることに力を注ぎたい」

 清水コーチは、不確定要素だらけの勝負をモノにするために、つねにベストを尽くす。

文=板垣晴朗