善甫啓一氏

写真拡大

 「異なる部局の研究者グループ」という応募条件で、今春始まった筑波大学の学際融合の研究支援事業。システム情報系の善甫(ぜんぽ)啓一助教は、4テーマいずれも自身のアイデアで、別グループをつくって応募した。これには新事業を企画した国際産学連携本部の幹部が「こんな教員、ほかにいない」と驚いた。

 「研究は広く浅く。投げるのは変化球のみ」がモットーだという善甫助教は、幼少時からの茨城県の筑波地域育ち。学内外の人的ネットワークを活用し「軽いノリで、一緒にやらない?」と声をかけるとか。大学院時代には複数教員によるオムニバス授業を思いつき、学長への直訴から大御所教員を巻き込んだ経験もある。

 採択案件は、視覚障害者や外国人に対する地図情報の“可聴化”プロジェクトだ。周囲を煩わせず、ユーザーの耳元にだけ音を伝える「超指向性スピーカー」や、音源が別のところにあると感じる立体音響の技術を活用する。メンバーには同大障害支援室長や、視覚障害のある南スーダン出身の研究者を集めた。

 ビジネスに近いところでは、耳に付ける小型発信器のビーコンを使い、店舗や倉庫の人の動きを把握する屋内測位技術を研究する。

 「電子機器などのガジェットが大好き。機能の違うパーツを変換プラグでつなげれば、コンパクトで誰でも使える機器に変わるから、グッとくる」。研究でも小物でも、ヒトの感覚とモノの機械信号をつなぎ、変換を介して情報をボーダーレス化することが喜びだ。

 筑波大の学部生時代の研究は電波天文学。修士課程の学位は経営学修士(MBA)、博士号は音響信号処理でそれぞれ取得した。サービス工学で産業技術総合研究所の博士研究員(ポスドク)をしていた時、人の知能や機能を広げる学際分野「人間拡張工学」でポストを見つけた。正規教員の公募は競争率100倍といわれる中、「携わった研究分野の広さで採用になった」と推測する。

 ビジュアル系ミュージシャンのような装いには自己表現とともに、自らを覚えてもらえるメリットがある。「専門性で提案を受ける研究者でなく、新たなことを周囲に提案して仕掛けていくタイプ」には有効な手段かもしれない。
(文=山本佳世子)