インドでも進むEVシフト。ハイブリッド車を普及させようとしていた日本車メーカーは対応を迫られている(写真:AP/アフロ、9月14日、インドで高速鉄道の起工式に出席する安倍首相とインドのモディ首相)

2020年代半ばには人口で中国を抜き、世界トップになる見込みのインド。自動車市場としても世界から熱い視線が注がれている。トヨタやスズキなど日本メーカーはハイブリッド車(HV)を投入しようとしていたが、インドでも電気自動車(EV)シフトが進み、雲行きが怪しくなっている。日本車メーカーは日本政府を巻き込んでHVへの理解をインド政府に求めているが、その成算はあるのだろうか。

HVを飛び越えEV普及に邁進するインド

インドがEVに大きく舵を切り始めたのは今年5月末のこと。「2030年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止し、EVのみにする」という方針をインド政府の関係機関「NITI Aayog」が明らかにしたのだ。日本の経済産業省は「政府の関係機関がEVに限るという方針を示したもので、必ずしも政府が決定したわけではない」と受け止めているが、HVを飛び越して、EVへシフトする可能性が出てきた。

それまでは2013年に発表された「国家電気自動車ミッション計画2020」(NEMMP)に基づき、2020年までにEVとHVの合計で年間販売台数を600万〜700万台規模に拡大する計画だった。それが今年に入ってEVとHVを両にらみで普及させる方針に変化が生じつつあるのだ。

そうした動きに追い打ちをかけたのがインド国内の税制改革だ。インド政府は2017年7月、物品やサービスにかかる税制を統一・簡素化し、物品・サービス税(GST)を導入した。自動車の場合、標準税率は28%となった。ところがプリウスやアコードハイブリッドなどの税率は43%(プリウスなどはインド国内では大型車に分類され、GST導入前は30%)となった。

一方、EVは12%(GST導入前は23.3%)に低く抑えられた。HVにかかるGSTはEVの税率に比べ30ポイント以上上回ることになった。税込み価格でみると、本体価格が同じでもHVがEVよりも3割ほど高くなる。インド政府はEV購入に税制上のインセンティブを与え、EV普及に弾みをつけようとしているのだ。


インドで人気のスズキ「バレーノ」(撮影:梅谷秀司)

それに冷や汗をかいているのが日本の自動車メーカーだ。2016年にトヨタ自動車がHVの新型プリウスを、ホンダがアコードハイブリッドをそれぞれ投入。スズキも鉛蓄電池を搭載したマイルドHV(モーターだけでは走行できないハイブリッド車)をすでに販売しており、20年をメドにリチウムイオン電池を使ったHVを市場投入する計画だ。今のところ日本勢はインド市場ではHVを優先させる戦略だったにもかかわらず、インド政府の急な方針転換に泡を食っているのだ。

トヨタ・キルロスカ・モーター(インドにおけるトヨタ車の製造・販売子会社)のシェーカル・ビシュワナタン副会長は地元経済紙(エコノミック・タイムズ)で「政府はEVを推進しているが、HVも環境にとって重要だ」と政策を批判した。インドのナレンドラ・モディ首相の出身州に工場を建て、2020年からHVを生産しようしているスズキの困惑は大きい。


インド市場で50%近いシェアを握るスズキだが、急激なEVシフトに困惑している(写真は2017年5月、決算会見に臨む鈴木修会長。撮影:尾形文繁)

9月14日、インド北西部のグジャラート州でスズキの新工場の開所式とスズキ・東芝・デンソーの合弁によるリチウムイオン電池工場の定礎式が行われた。式には訪印中の安倍晋三首相とインドのモディ首相も列席した。安倍首相の参加は、日本政府としてこのプロジェクトを全面的に支援していることをインド側に伝える狙いもあった。

グジャラート工場はスズキ100%出資の4輪車の生産工場。2017年2月から生産を始め、年産25万台を目指している。1983年にインドに進出したスズキは現地のマルチ社との合弁で事業を拡大し、インドにおけるシェアは現在50%に迫る。今回、単独で工場を建設し、競争が激化するインド市場で競争力を高めようという戦略だ。

リチウムイオン電池工場は、この工場に隣接する工場用地に建設される。2020年の稼働を目指し、グジャラート工場で生産予定のマイルドHV向けの電池をつくる予定だ。

高シェアがEVシフトの足かせに

HVにこだわる理由について、スズキ幹部は「インドでは電力インフラがまだ十分整備されておらず停電も多い。石炭火力発電のシェアは約6割だ。石炭火力で発電した電気をEVに充電すれば、炭酸ガスの排出量は減らない。いずれEVを投入するが、現状ではHVのほうがインドでは環境に優しい」と説明する。

また、インド国内ですでに部品を含めたサプライチェーンを構築していることや、所得が低いインドでは高価なEVはまだ普及段階ではないこともEVシフトを踏みとどまる理由になっているのだろう。

ただ中国同様に、急速なモータリゼーションが進むインドでは大気汚染が深刻になりつつある。エコカーを普及させる必要性が高まっているのも事実だ。

国内自動車メーカーの幹部は「フォルクスワーゲンなど欧州勢がインド政府にEVシフトを水面下で進めたのだと思う。彼らは日本勢のようにHVに積極的でないので、有望市場のインドでHVが売れるのをなんとか防ぎたいにちがいない。日本勢もインド政府にHVの有効性を理解してもらえるよう働きかけなくてはならない」と漏らす。


10月25日、東京モーターショーでスズキが発表したEVのコンセプトカー(筆者撮影)

加えて、インドの現地自動車メーカーを育てるという意味でも、EVシフトは有効だ。中国政府が一気にEVシフトを進めているのは、日本勢が優位なHVではなく、横一線でスタートしているEV開発で中国メーカーを優位に立たせようという政策上の思惑がある。これと同じ思惑をインド政府が持っていたとしても不思議ではない。

インド訪問で安倍首相も日本メーカーを支援?

自動車業界関係者によると、9月の訪印中に安倍首相はモディ首相との会談でHVについて触れたという。9月14日に発表された日印共同声明では、「両首脳は、ハイブリッドや電気自動車を含む環境に配慮した自動車の製造とともに、省エネルギー、エネルギー効率およびエネルギー貯蔵の分野における協力をさらに加速させることへの期待を表明した」という文言が明記されている。

共同声明にHVへの言及を滑り込ませ、EVシフトに傾くインド政府をなんとか引き戻そうと働きかけたのだ。だが、市場の行方を決めるのは消費者だ。インド市場でEV、HVのどちらが使い勝手がよく、買い求めやすい価格を実現できるのかがカギとなる。EVに力を入れようとしている欧米勢やタタ自動車などの地元勢とHV派の日本メーカーによる、インド市場をめぐる競争は激しくなるばかりだ。