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 国が進める「仕事と家庭の両立支援」。政府は2017年10月から育児休業期間を2年に延長するなど取り組みを進めている。一方、支援制度が先行していた大企業などでは、制度を「悪用」したケースも聞こえてきた。なかには「10年連続で育休をとった」という女性社員もいたという。問題はどこにあるのだろうか――。

■仕事・育児の両立支援制度を“悪用”する女性社員

女性の活躍推進に積極的に取り組む企業が増えている。

政府も、2017年10月から育児休業期間を従来の1年から2年に延長するなど仕事と家庭の両立支援を後押ししている。今の働く女性は昔の女性に比べれば恵まれた環境にあるといえるかもしれない。

だが、そうした制度を「悪用」する残念な女性社員もいるようなのだ。人事部が最も警戒するのは、「両立支援制度」の悪用だ。

制度があることを理由に、周囲の迷惑を顧みず権利ばかり主張するケースがある。大企業の中には法定以上の優遇制度を設けているところも多く、子供が3歳になるまでの育休や育児短時間勤務を小学3年まで認める企業もある。

会社が認めた制度なので使うこと自体は問題ないのだが、こんな事例がある。ネット広告業の人事担当者はこう語る。

「総合職で入社し、育休後に短時間勤務に変わって3年目の女性がいます。いつも4時に帰るのですが、仕事が終わらないのに10分前から帰り支度をして『時間になったので帰ります』と言ってさっさと帰る。仕事はやりっ放しで、結局残った同僚が引き受けることになります。後はお願いしますと言って、気遣ってくれてもよさそうなのに、ときには何も言わないで帰ってしまうことさえある。同僚からも『何、あの人』と嫌われている。その女性の上司から、私たち人事部に対し、『どう対応すればよいか』という相談がしょっちゅうあります」

決して仕事をしないわけではないが、彼女の存在が職場の雰囲気をギクシャクさせている。彼女の軸足は、どちらかと言えば仕事よりも家庭にあり、フルタイムに戻ることなく限度期間ギリギリまで両立支援制度を利用するかもしれない。

▼期限(復帰)直前になって「延長させてください」

育休でも用意された制度を目いっぱい使おうとする女性社員がいるそうだ。大手電機メーカーの人事担当者はこう語る。

「育休に入る前にいつ復帰するかを上司と話し合って決めるのですが、期限(復帰)直前になって『延長させてください』と言ってくる社員もいます。保育園に入れなかったからという理由が多いのですが、本当かどうかはわかりません。中には家庭の事情などさまざまな理由をつけて延長する人もいます。それでも復帰してくれるといいのですが、3年間の産休・育休に入って、育休終了間際に退職届を出してくる社員もいました。もともと復帰するつもりはなく、制度だけ使ってそのまま辞めるというのが一番困ります」

制度を使うのは当然の権利だろう。だが、行き過ぎた利用が増えれば、制度そのものを考え直すということにもなりかねない。

■3人の子供を続けて出産で「10年育休」

じつはもっとすごい女性社員もいる。

あるゲームメーカーでは3年間の育休期間があるが、その間に第2子、第3子と子供を産んで、計9年間も休職したという。同社の人事部長はこう語る。

「彼女が休んでいる約10年の間に会社の合併もあり、組織も大きく変わりました。ビジネスのやり方も変化し、何回かのリストラも実施されました。会社が大変な状況だと知ると、あわてて早く復帰するものですが、彼女は規定通り、きっちりと休みを取っていました。休みが終われば復帰せずに退職するのではないかと思っていたのですが、10年ぶりに戻ってきたのには驚きました。復帰といっても元の職場はありません。しかたなく人事部に所属してもらいましたが、10年間のブランクがあったせいか、仕事も遅いし、PCスキルも若い人についていけない。結局、1年もたたずに辞めました」

産休育休制度を利用する女性社員に多いのは、出産後1年で復職してしばらく働き、必要があればまた休職するというパターンだ。これならばブランクは少なく、職場復帰もスムーズだ。

だが、10年連続の育休となると、さすがに眉をひそめる人もいるだろう。その彼女にとっても自身のキャリアを台なしにしたも同然で、働くことが難しい状況に自ら追い込んだともいえる。

 

▼男性部下をうつ病にした女性管理職候補

一方、女性社員の活用・登用に関してもひとつ間違うと“犠牲者”を生み出す危険性もある。最近、女性管理職比率を上げるために積極的に登用する企業が多いが、中には管理職不適格者が紛れ込む場合もある。

ある人材サービス会社では部門ごとに女性の昇格候補者をリストアップさせ、1年後の昇進に備えて特別指導することにしている。ある女性候補者の担当になった課長の男性はこう語る。

「部門で半ば無理やりに候補を探しだしたのですが、正直言って、力不足です。上昇志向が強いのですが、管理職としてのリーダーシップなどスキルがあまりない。部下指導を学ばせるために試験的に20代の男性社員の教育係を担当させました。ところが、部下がちょっとでもミスをすると怒鳴りつける。彼女のしかる声がこっちの耳にも入るので、部下のいない前で何度か注意したことがありますが、結局、その部下は遅刻を繰り返すようになりました。仕事中もぼーっとしていることが多く、最後は体調を崩し、うつ病で休職しました。貴重な戦力を失わせたのです。これだけでも管理職の適性はないのですが、上の推薦で“部下なし管理職”に昇進しました」

■「あなた男でしょ!負けて悔しくないの!」

こうした事例は女性に限ったことではないが、もっと凶暴なパワハラまがいの言動で部下を“殺して”しまう女性上司もいる。建設関連企業の人事担当者はこんな事例を紹介する。

「ひとりのプレイヤーとしては優秀でも、自分の価値観だけでマネジメントしてしまう女性もいます。ある女性課長は男性との競争で勝ち残ってきた猛者ですが、性格的にも勝負好きです。部下の企画が社内コンペで選ばれないと『あなたは負けて悔しくないの』としかる。たぶん言われた本人はそんなに悔しいとは思っていない。しまいには『私だって男の中で乗り越えてきたんだから。甘いわよ。あなた男でしょう。しっかりしなさいよ』と執拗に責め立てるのです。彼女の下にいた男性部下の中には、うつになった人や会社を辞めた人もいます」

男だからしっかりしなさい、と言うのは明らかにセクハラ発言であるが、自分の感覚だけでセクハラ、パワハラ混じりで叱責されれば部下も疲弊してしまうだろう。

▼人事部員がほれた「尊敬できる年下の女性上司」

もちろんこんな女性社員ばかりではない。

ある建設関連企業の人事担当者は、女性には勝負好きの人もいれば、相手に感謝してもらうのが好きという人もいると、こう語る。

「有能な女性は組織のメンバーに対する愛情とか、細やかな気配りができる人が多いですね。チーム一丸でがんばろうというときに最も大事なのは、やはりチームの和ですが、メンバーの一人ひとりに細かい心遣いをしてくれるし、堅い雰囲気を和らげてくれます。とくに母親の経験がある管理職は子育てに悩んでいる後輩の女性に『夫が手伝ってくれなかったから私も苦労したけど、こうやってがんばってみたら』と言って励まし、男性では手の届かないところまで配慮してくれます」(人事担当者)

小売業の人事担当者は、かつて年下の女性上司に仕えたことがあるが、「とても尊敬できる人だった」と語る。

「当時、その女性上司は子育て中で仕事時間に制約がありました。子供の保育園のお迎えなどで早く帰ることもあり、私がその分を助けることもありました。でも、彼女はこちらがサポートすると、私が先送りしていた仕事を『これ、やっといたから』と別の方法でお返ししてくれました。彼女は『借りは作りたくない』と言ってしました。また『時間が限られている以上、頭を使うしかないでしょ』と言うのが口癖で、常に毅然としていて効率的に働く人でした」

■人事部が本当に求めている女性社員とは?

仕事と家庭をどのように両立させるか。共働き家庭が一般的になるなかで、女性の負担だけが増えることがあってはいけないだろう。

一方で、大企業などは「両立支援」のために手厚い制度を設けていることがある。あくまで「性善説」にたっていることが多く、「制度を利用しつくしてやろう」とすれば、周囲だけでなく本人にも悪影響が出る恐れがある。

「多様性を受け入れる」とは、“10年連続育休”に代表されるような働き方を許容することではない。育休を取り続けなくても済むような態勢を、会社と働き手の双方がつくっていく必要があるのではないだろうか。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)