21世紀に必要とされる人材像とは?(写真:ixus / PIXTA)

松下電器産業(現パナソニック)の松下幸之助氏やソニーの盛田昭夫氏、中曽根康弘元首相、マレーシアのマハティール・ビン・モハマド元首相など、世界の政財界トップに対して長年コンサルティングとアドバイスを行ってきた大前研一氏。
10月20日配信の「大前研一『20世紀の人材観が会社を滅ぼす』」に続いて、新著『大前研一 デジタルネイティブ人材の育て方』から21世紀に必要とされる人材について、大前氏が大胆に予測、提言する。

重要度を増してくるのは、イノベーター

自社に必要な人材のスペックを作り、それに適合する人材を世界中から集めてくるのが21世紀の企業の人材戦略の基本となる。


どこを事業領域とするか。自社のコアスキルは何か。コア事業は何か。何をアウトソースすべきか。こういった経営戦略を考えるのはトップの役割だ。そして、その経営戦略を実現するのに必要な人材像を想定し、スペックを設定するのもまたトップの仕事なのである。

人事担当者はこのスペックをトップと共有し、適合する人材をサイバー空間も含めた世界中から集めてくる。日本国内や日本人にこだわる必要はまったくない。ヨーロッパ人にいい人材がいたから、彼を採用してスペインを担当させようというような考え方ではうまくいかない。

その場合はスペインの事情がわかっていて、そこで力を発揮できる人間を選ぶべきである。東南アジアの場合はヨーロッパよりも、国による違いがかなり際立っているので、必要な人材は国別に調達しなければならない。

グローバル人材と共にこれから重要度を増してくるのがイノベーターである。こういう尖った人間は、従来はなかなか会社で活躍ができなかった。アフリカのナイロビや北海道の留萌(るもい)といった辺境の地に異動させられるか、辞めていくしかすべがなかったのである。


しかし、これから破壊的イノベーションや産業の突然死に対応していくためには、企業はそういう人間をうまく発掘し、使いこなしていかなければならない。

リーダーの育成法のプロは、リクルート

21世紀のような答えのない時代には、自ら考えて方向性を示すことができるリーダーも必要だ。日本企業でリーダーの育成がうまいのは、なんといってもリクルートである。

彼らは、インターンシップなどで学生にプロジェクトを任せ、それを見てリーダーの資質があるかどうかを判断した後に採用を決めるのだ。また、リクルートの実質的な定年は38歳。そのあとは自分でやってくれと、1000万円の退職金と共に会社から放り出される。

そうして元社員が立ち上げた事業が有望であると判断した場合は、リクルートが資本の一部を担うこともある。リクルートに膨大な数の子会社が存在するのはそのためだ。

採用に関しては、マッキンゼーもリクルートと似たようなシステムで行っていた。日給を払って学生を集め、たとえば「東京都23区のごみ処理は、各区でやるのか、それとも全体をまとめてやったほうがいいか」といった課題を出し、それについてグループワークをやらせ、結果をリポートにまとめて発表してもらうのだ。そうすると、この人間はリーダーシップがあって戦略的思考ができるといったことが見えてくるのである。

そうやって採用した人間の入社後のトラッキングも行う。5年経ってもまったく活躍できなかった人がいた場合は、採用時にその人物に対し高評価を与えたのは誰なのかをきちんと追跡調査するのである。なぜなら、そういう人間に採用担当をやらせていたら、会社は無駄な費用を払うことになるからだ。

JT参加の加ト吉では、留学生が活躍

グローバル人材の採用や育成に関しては、アメリカ企業は非常に恵まれているといえる。アメリカには世界中から留学生が集まり、しかも、その大半は卒業後も帰国せずに、アメリカの企業に就職することを希望するからだ。つまり、アメリカ企業は、自国にいながらグローバル人材を採用できる。

では、日本はどうだろう。日本に来る留学生の85%は中国人だ。彼らは優秀なうえに中国語はもちろん、通常、母国語に加えて日本語と英語の3カ国語を使いこなす。だから、採用してきちんと教育すれば、中国での仕事を任せられるグローバル人材に育つはずなのである。

ところが、その価値に気づいていないのか、肝心の企業が留学生を積極的に採ろうとしていないのだ。私が知っている限りでは、これを唯一上手に行っていたのが、今はJT傘下の加ト吉(現テーブルマーク)だ。

当時、香川県に本社があった加ト吉は、四国にある大学や大学院の、農学部や化学部を卒業した中国人留学生を積極的に採用すると、10年かけて業務を教えこみ、その後、中国に13ある工場に、彼らを工場長として派遣するというシステムをつくり、非常にうまくいっていた。

最初から多くを期待せず、日本人と同じように採用し、10年間にわたって日本国内で仕事をさせてから、中国に戻ってマネジメントをするという長期のキャリアパスをつくったのが、成功要因だといっていいだろう。JTもそれがわかっていたので、買収後もこのシステムを崩さなかった。

アメリカ企業のように、新卒で入社してくる留学生が社内にたくさんいる利点は大きい。たとえば、今度インドに拠点をつくるから、現地の言語や文化に通じたマネジャーが必要だとなったときも、社内を見渡せば、あるいは社内で公募すれば、すぐになり手が見つかる。

GEやIBMでも、東欧に進出するとなったら、社内にロシアから逃れてきた人や、奥さんがルーマニア出身というような東欧に縁が深い人がいくらでもいるから、グローバル化が簡単にできるのだ。

アメリカはもともと移民国家なので、社内にいろいろな国の人がいても、誰も違和感を覚えない。その点、ダイバーシティの遅れている日本企業は、グローバル人材の確保に関しては、圧倒的に不利だと言わざるを得ない。

インド工科大学(IIT)は、MITをモデルにつくられた

インド工科大学(IIT)は、世界的に評価の高いインド理系大学の中でもナンバーワンに位置付けられており、卒業生には世界の大手IT企業から高額のオファーが殺到することでも知られている。


インドは1947年にイギリスから独立すると、初代首相となったネルーは「技術教育」を国家目標として掲げた。それを実現するためのエリート人材育成機関として1951年に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)をモデルにつくられたのがIITである。

現在は、インド各地で16校が運営されており、入試の点数の上位者から希望の学校を選べるようになっている。ちなみに、最も人気のあるのは首都にある「デリー校」だ。

2013年度の入学試験の倍率は約140倍とかなりの狭き門となっていて、IITを落ちた学生がMITに行くともいわれるくらいレベルは非常に高い。

卒業生は即戦力となるため、IITの就職フェアには、欧米のグローバル企業の本社から採用担当者がこぞって学生の獲得にやってくる。2013年にオラクルがIITの学生に提示した初任給はなんと2200万円(1300万ルピー)。日本企業としては、新卒の年俸がせいぜい240万円程度しか提示できないようでは、まず1人も採用できないだろう。

唯一、神戸に本社があるシスメックスが、インターンを通じ2013年度にIITから3人採用しているが、これは、170カ国に輸出実績があってグローバルに非常に強いのと、成長性の高い医療機器分野で強みを発揮している点が、学生に評価されたと思われる。

世界のトップ企業のCEOは、インド出身が多い

インドのエンジニア系高等教育機関は、ティア1からティア4まで大きく4つのランクに分けられる。IITやNIT(国立工科大学)なども含まれるティア1には30〜50校が属し、卒業生の大部分は欧米系インドトップ企業に就職する。



ティア2に属するのは100〜150校。成績がトップクラスの学生はティア1の学生と比べても実力的に遜色ないため、あえてティア1を外してティア2のトップクラスに狙いを定めた採用戦略をとる企業もある。ティア2の大半の学生の就職先はインド現地トップ企業である。ティア3から下は、あまり学生の質がよくないため就職できない人も少なくないようだ。

ソフトウェア会社の採用意欲は大きく、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、インフォシス、コグニザントといった大手は、1校から1000人以上も採用する。インドのローカル企業に就職した学生も、そこで実績を積んだ後、グローバル企業にステップアップすることを考えている。

そんなインド出身者が、いまや世界のトップ企業のCEOを務めている。主だったところでは、米グーグルCEOスンダル・ピチャイ。米マイクロソフトCEOサトヤ・ナデラ。米アドビシステムズCEOシャンタヌ・ナラヤン。米ペプシコCEOインドラ・ヌーイ。米マスターカードCEOアジェイ・バンガ。フィンランドのノキアCEOラジーブ・スーリ。ソフトバンクグループ副社長を務めたニケシュ・アローラもインド出身だ。