電波を区画整理すると、誰も損せずに数兆円のビジネスが生み出せる(写真はイメージ)


 総選挙では自民・公明が圧勝したが、安倍政権の弱点は経済政策である。日銀の量的緩和は何の成果も出せず、規制改革も目立った前進がない。そんな中で、内閣府の規制改革推進会議では電波オークション(競売)の検討が始まり、私も参考人として説明した。

 9月15日の本欄(「テレビ局はなぜ『電波オークション』を恐れるのか」)では、既存業者の持っている電波を買い上げる方式を提案したが、もっと簡単な方法がある。割り当てられたまま使われていない電波を区画整理することだ。これによって誰も損しないで、数兆円のビジネスが生み出せるのだ。

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2兆円の新しいビジネスチャンス

 オークションの課題は技術でも法律でもない。それはすでに日本以外のOECD諸国では実施され、民主党政権で電波法の改正案ができ、閣議決定までされたが、国会に提出されないで棚ざらしになっている。残った問題は、それに抵抗する人々を説得することだけだ。

 ところがオークションを積極的に進めようという企業は少ない。オークションで売却する帯域がほとんど残っていないように見えるからだ。いま話題になっている5G(第5世代無線)は4ギガヘルツ以上のきわめて高い周波数を使うので、電波の届く距離が短く、膨大な無線局を配置しないと公衆無線には使えない。

 この帯域だけに無線局を設置しても採算は取れないので、既存キャリア3社以外の新規参入はない。オークションしても、既存業者以外の応札者がないと意味がない。その目的は国庫収入を上げることではなく、競争を促進することだからである。

 しかし割り当てが終わったように見えるが、空いている帯域がある。特にUHF帯(470〜710メガヘルツ)では多くのチャンネルがテレビ局に割り当てられたまま使われていない。世界的にもこの用途は無線通信に変更され、アメリカでは今年6月に600メガヘルツ帯がオークションによって198億ドルで売却された。

 それに先立って昨年、アメリカでは帯域をテレビ局から買い上げる「逆オークション」が行われたが、日本ではこれは必要ない。今テレビ局の使っているUHF帯の電波を区画整理するだけでチャンネルが空くからだ。

 その価値はざっと2兆円。ここに新しい通信業者が参入すれば、モバイル通信の分野で競争やイノベーションが起こり、その何倍ものビジネスが生まれるだろう。しかもこのオークションは、テレビ局の既得権をまったく侵害しないで実施できるのだ。

電波は大幅に余っている

 具体的に見てみよう。地上デジタル放送の免許は県域単位になっているので、たとえば茨城県で中継局の使っているチャンネルを赤く塗りつぶすと、下の図のようになっている(GはNHK総合、Eは教育、Nは日本テレビ、TはTBS、Fはフジ、Aはテレ朝、Vはテレ東)。

茨城県における地デジの周波数割当


 全体としては13〜52の40チャンネルを使っているように見えるが、たとえば水戸では13〜15と16〜20の7チャンネルしか使っていない。隣の高萩では35〜47チャンネルを使っているが、それ以外のチャンネルは空いている。ところが各局でバラバラのチャンネルを使っているため、まとまって使うことができない。

 これがテレビ局に割り当てられているが使われていないホワイトスペースである。土地でいうと、都心の一等地が虫食い状に使われているような状態である。これを区画整理し、茨城県内の中継局をすべて13〜19チャンネルに集約すると、次の図のように20チャンネル以上の33チャンネル(約200メガヘルツ)は完全に空けることができる。

区画整理したチャンネル


 首都圏(スカイツリー)では12チャンネル使っているが、状況は全国どこでもほぼ同じだ。つまり電波は任意の地点で200メガヘルツも空くのだ。これは現在の4Gで通信キャリア3社が使っている700メガヘルツ帯より大きな帯域である。

 このように同じ周波数を隣同士の中継局で使うと干渉が起こると思う人がいるだろうが、それはアナログ時代の話だ。地デジの変調方式(OFDM)では、1つの受像機で複数の電波を受けたとき強いほうを選ぶSFN(Single Frequency Network)という技術を使っているので、同一エリアは同じチャンネルで放送できる。これは日本政府が南米に売り込んだ技術で、ブラジルの地デジはSFNで運用されている。

 技術的には、SFNに切り替えるのは簡単である。チャンネル変更は中継局のソフトウエア変更だけででき、中継は光ファイバーでやればよい。今でもエリア間の伝送は光ファイバーでやっているので、それをエリア内でも使うだけだ。受像機側ではリセットして初期スキャンをやり直せば、チャンネルは自動的に変更できる。

 テレビ技術者も「SFNのほうが周波数が1つなので運用は楽だ」という。今は放送波で中継も行うので、中継と放送に同じチャンネルを使うと干渉が起こる可能性もあるが、中継を(携帯電話と同じく)有線のインターネットでやれば干渉は起こらない。現実にRKB毎日放送などではSFNの運用が行われている。

「電波社会主義」から自由なイノベーションへ

 以上の区画整理は中継局を変更するだけなので、テレビ局は今までとまったく同じように放送を続けることができる。整理して空いた帯域を総務省が裁量的に割り当てることも可能だが、総額2兆円にも及ぶ(事実上の)国有財産を無料で払い下げることはありえない。電波利用料は、資源の効率的配分には役立たない。

 実は2003年に地デジが放送開始する前には、電波を節約できるSFNで放送する予定で、今の地デジの中継局はすべてSFNで放送できるように設計されている。しかしチャンネルが空くと新規参入が出てくることを恐れたテレビ局が、電波をふさぐためにアナログ時代と同じようにまばらに中継局を配置したのだ。

 これは逆である。ホワイトスペースを裁量的に(無料で)割り当てるとテレビ局が入ってくる可能性があるが、オークションで1スロット数千億円で落札できるのは通信キャリアしかない。UHF帯は効率が高いので、格安SIM業者(MVNO)も応札するかもしれないが、衰退産業であるテレビ局が彼らに競り勝つことは不可能である。

 UHF帯に置く基地局の数は5Gよりはるかに少なくてすむので、数千億円で落札しても十分もとが取れる。エリアごとに使えるチャンネルが違うが、携帯電話は今でも地域ごとに違う周波数の基地局をスイッチして通信しているので同じことだ。

 区画整理には(光ファイバーの設置など)多少のコストはかかるが、これはオークションの落札者がすべて負担することを条件とすればよい。そのコストは、UHF帯で上げられる巨額の利益に比べれば微々たるものだ。

 何よりも大事なことは、中国や北朝鮮と同じく政府が電波を管理してきた電波社会主義を卒業し、電波を市場メカニズムで配分することだ。それが自由なイノベーションの最大の源泉である。

筆者:池田 信夫