シアタス調布の目玉スクリーンのひとつ、「グランシアタ―」。本革シートに、リクライニングシステムを導入し、座り心地を追求 (撮影:尾形文繁)

「シアタス調布は、イオンシネマのフラッグシップシアターになる」。同館を運営するイオンエンターテイメントの小金澤剛康取締役は、力強く語った。

9月29日に京王線・相模原線(調布駅付近)再開発事業の一環として開業した複合施設「トリエ京王調布」。その中にシネマコンプレックス「イオンシネマ シアタス調布」がオープンした。A〜C館の3棟で構成されているが、そのうちのC館は、1階のショッピングゾーンを除き劇場フロアとなっており、文字どおり映画“館”といえるだろう。

調布駅前の商業施設内に開業

「シアタス調布」は、映画館(シアター)に新たな付加価値を“足す”という意味を込めて命名された。11スクリーン、総座席数1672席と、1900〜2000席クラスが珍しくない郊外のシネコンと比べて、取り立てて大規模というわけではないが、特筆すべきなのは、劇場の設備だ。

空間を縦横無尽に動き回るような臨場感を実現する立体音響テクノロジー「dts-X」と、床から天井、壁まで上下左右いっぱいに広がる大型スクリーン、イオンシネマ独自の4ウェー立体音響システムが楽しめる音響・映像システム「ULTIRA」を導入したスクリーンが1つ。さらに、震動や煙や風、ミスト、においなどがシーンに合わせて出てくる「体感型アトラクションシアター4DX」も1スクリーン設置しており、こちらは国内最大となる128席を有する。

目玉は、飛行機のファーストクラス級のゆったりとしたスペースに最新電動リクライニングシステムを導入した最高級シートで映画を観賞できるプレミアムスクリーン「グランシアタ―」だ。あまりの座り心地のよさに、リラクセーションルームと勘違いしてしまいそうだ。


シアタス調布はトリエ京王調布のC館にある (撮影:尾形文繁)

「設備的にも、人材のリソースとしても、建設時点で取り入れられるものはすべて取り入れました。わたしたちにできることをすべて投入し、気合を入れて作ったことは間違いない」と、小金澤取締役は自負する。

最新シネコンに最新設備を導入するということはよくある話だが、業界1位のスクリーン数を誇るイオンシネマが、この調布の劇場をフラッグシップ館と位置づけているのには、もうひとつ理由がある。それは、調布市が「映画のまち」を標榜しているということだ。そして、そこにふさわしい映画館を作りたかったという理由が背景にある。

調布は、新宿から京王線の特急に乗れば、15分でたどり着くことのできる東京南西部のベッドタウンだが、そもそも多くの映画スタジオがあり、昭和30年代には「東洋のハリウッド」と呼ばれていた地域だ。現在も日活調布撮影所や角川大映スタジオ、そして40近い映画関連会社が軒を連ねている。市内には俳優の手形モニュメントや映画俳優之碑、調布映画発祥の碑なども建てられている。

「映画のまち」に映画館が存在しなかった


調布の駅前は「映画のまち調布」をアピールする看板やタペストリーなどの存在が目立つ(撮影:尾形文繁)

そんなこともあり、調布市は「映画のまち」を宣言。毎年3月には、「調布映画祭」を開催し、高校生の作品をプロの映画関係者が審査する「高校生フィルムコンテスト in 調布」など、映画に関連する施策を多く打ち出している。10月28日に開催する花火大会も、「映画のまち調布“秋”花火2017」と、シアタス調布の開業に合わせて、名称に「映画のまち」を加えている。

実は、駅前の調布パルコ内で営業していた「パルコ調布キネマ」が2011年に閉館して以来、長らく市内に映画館がない状態が続いていた。それだけに「シアタス調布」がオープンしたことは調布にとっても悲願であった。これにより、撮影所・現像所、そして劇場という、名実共に「映画のまち」調布を復権することになる。

再開発が進む調布駅の周辺も、映画フィルムを模した行き先案内板や、「映画のまち調布」と書かれた看板など、「映画のまち」一色で彩られている。調布市の映画に懸ける思いは格別だ。

9月29日に行われた同館のオープンセレモニーで、長友貴樹調布市長は「武者震いに似た感動を覚えた。東京でも屈指の設備を備えたシアターを作っていただき、感謝に堪えません」とコメント。そして、「調布は映画関連企業が40以上ある日本一の映画の街なのになぜ映画館がないのかと、市内外の皆さまから意見をいただきました。そういった不満もようやく解消される。行政でできることはなんでも応援したい」と調布市の全面バックアップを約束した。

その言葉を裏付けるとおり、調布市では「シネマでお出かけサポート」という施策を年内いっぱいで実施する。これは中学生以下の子ども、75歳以上のシニア、そして障害者に「500円映画鑑賞補助券」を付与し、500円引きで映画を観賞できるというもの。これをきっかけにシニア層などに対して外出を促すほか、中学生以下の子どもたちに対して豊かな感受性を育んでもらい、将来、調布の映画関連企業で活躍する未来のクリエーターを育てたいという思いもあるという。

映画を軸にした地域発展の取り組みも進む。調布市商工会商業部会との協力により、映画の半券を提示すると飲食などの割引サービスが受けられる「半券サービス」を始めた。全国の「イオンシネマ」で同種のサービスを行う際は、入居する商業施設内のテナント内でのサービスが行われるケースがほとんどだったが、今回は調布駅周辺の商店街の中の190近い店舗が参加している。

地域連携のモデルケースを目指したい


オープニングセレモニーの様子。中央の男性が長友貴樹調布市長、右隣は「映画のまち調布」応援キャラクター・ガチョラ (筆者撮影)

地域住民とも良好な関係を保っているようで、長友市長は「やはり市民が待ち望んでいたということだと思う。東京でも屈指のシネコンができるということで、街の再生にもつながる。それとうれしかったのは、調布パルコが“祝開業!トリエ様、ようこそ調布へ”と懸垂幕をたててくれたこと。あれだけの施設ができるわけですから、周辺地域にも間違いなく来客があるのは間違いない。従来の店と、新しい店がパイを奪い合うのではなく、共存してやっていただけるのは本当にうれしいことです」と、街全体の盛り上がりに期待を寄せる。

イオンシネマも地域との連携には積極的だ。小金澤取締役は、「僕たちがずっと言っていたのは、地域の皆さんと一緒になって進めていきたいということ。トリエだけでなく、街全体でいろいろなことをやっていきたい。地域密着というのは、言うだけなら誰でもできる。本当の密着とは何か。市が抱えている課題と、われわれが抱える課題を一緒になって解決することは意外にできないことなので、ちゃんとやりましょうと議論を交わしてきた。ローカルが疲弊している中で、地方活性化の一翼を映画館が担えないか。そのモデルケースを調布でつくっていく」と、その思いを語る。

イオンシネマ シアタス調布は、設備だけでなく、劇場と地域とのかかわり方という点でも、フラッグシップとしての役割を果たしているといえるだろう。