この空間だけ時の流れが異なるようなしっとりとした雰囲気が漂い、それだけでも充分酔えてしまいそう

とにかく人目を忍びたい……大人の夜には〈訳あり〉がつきものである。

そんな夜にこそ訪れたいのが目黒の隠れ家ワイン酒場『リーの厨房』だ。目黒の路地の、細い階段を下りた中腹にぽつんと出現する。

もちろん料理も食通たちが認める絶品揃い。本当は教えたくない大人の隠れ家の魅力をお伝えしよう。



目印は階段脇に出る『リーの厨房』の看板のみ。階段下に灯るわずかな灯りを頼りに降りていこう
目黒駅から徒歩数分。権之助坂の下にある石階段が入り口

夜な夜なにぎわう権之助坂商店街。一見ならば必ず素通りしてしまうほどの薄暗がりに、小さな石階段があるのをご存じだろうか。

すでにさまざまな名店へと足を運び、多少のことではサプライズを感じて貰えなくなってしまった女性を連れて行くにもうってつけ。石段を下る時に感じる「本当にここにお店があるの?」感は目黒一と言っても過言ではない。

この細い石段の先にあるのが、『リーの厨房』なのだ。この店、どんな店だろうと思っても、入口は小窓だけ。



実際、小窓から除く雰囲気は老舗のオーセンティックバーのよう
小窓からのぞく大人の雰囲気がそそる

階段を降りていくと『リーの厨房』と書かれた控えめな看板と、小窓が付いた木製の扉が出迎える。

この小窓から漂う雰囲気に「私たちにはまだ早すぎる……」と恐れをなして、若者たちは寄りつかない。

だからこそ、いい店に通い慣れた大人たちだけが集うのだ。



店主の井上氏との会話も楽しめるカウンター席は常連客や1名で訪れた人の特等席
扉を開ければ期待以上の空間。一瞬にして空気が変化する

石段まで感じていた権之助坂の賑わいも、扉の中に入ると嘘のように消えてしまう。一瞬、静寂に包まれたかと思うと、品のいいBGMが耳に入り、一気にアダルトな雰囲気へと変化する。

目の前に広がるカウンター席では、この場に通い慣れた紳士淑女がグラスを傾け、料理も全て店主の井上さんにお任せしつつ、しっぽりと自分の時間を楽しんでいる。


料理もワインにピッタリな絶品メニューぞろい!



「本日の鮮魚のカルパッチョ」。チコリ、ディル、マッシュルームなどと合わせて、その日の鮮魚が彩りを添え、甘くまろやかに仕上げた自家製ドレッシングが箸を進ませる。この日は北海道産の真ダコと真鯛
気の利いた料理の数々にワインもどんどん開いていく

いくら雰囲気がよくても料理がイマイチでは興ざめだ。『リーの厨房』はその心配も無用。料理は全てワインが進む絶品揃いだ。

店主の井上氏は、都内各地で修業を積んだ後、ワインとパスタをメインに、賑わいのある店作りを目指し8年前に同店をオープン。彼の作り出す料理は、優しさに満ち、もう満腹だと思ってもなぜか、箸が止まらない。



「岩中豚の肩ロースのソテー」は赤ワインとの相性も抜群

メインには「岩中豚の肩ロースのソテー」をセレクト。岩中豚の肩ロースを使用し、頬張った瞬間に溢れ出すジューシーな肉汁が堪らない。

このジューシーで柔らかな食感は、まずフライパンで表面のみを焼き上げ、しばらく寝かせて余熱で火を通した後、ゆっくりと低温で火を入れ行く工程から生み出されている。甘みのある自家製のフレンチドレッシングをベースに、ポン酢や砂糖を加えたソースもいい仕事ぶりだ。レモンや自家製ソースなど、味を変えつつ楽しみたい。



「牡蠣のスパゲティ」。牡蠣を出汁につけて軽くボイル。旨みを詰めた牡蠣をペペロンチーノのベースに入れた後、隠し味でわさびと醤油、バターをプラス

パスタは日替わりで提供。この日は「牡蠣のスパゲティ」を用意いただいた。大粒の牡蠣がごろごろ入っており、食べ応えも充分。目葱やルッコラなどの食感も楽しい。

料理については、お客様の要望も聞きながら「こんなものもできますよ?」と井上さんのさじ加減でその日限定の料理も提供。通っていけばいくほど、新しい料理に出会えるのだ。



テーブル席がメインの2階席。ゆったりとしたソファー席も備える

1階のカウンター席を横目に、メインの客席である2階席へとあがっていけば、ここもまた雰囲気のいい大人の空間。

『リーの厨房』を訪れるお客が皆一様に口にするのは「人に教えたいけど、教えたくない」というもどかしい悩み。おすすめしたい気持ちと、自分だけの秘密の場にしておきたいという気持ちが競り合って、後者の気持ちが勝ってしまうのだ。



カウンター奥の厨房で腕を振るう店主の井上さん

「みんな秘密にしたいと言って、なかなか口コミでは広がらないんですよ」と苦笑いする店主・井上さんのトークも楽しい。

そんな隠れ家酒場で、しっとりと夜を過ごし大人の階段をのぼってみてはいかがだろう。