10月12日に東京・港区で開催したDomoのイベントでジャシュ・ジェイムズCEOは、日本語で「日本人は北朝鮮のリトル・ロケット・マンに怯える日々だろうが、そんな中わざわざ私の話を聞きに来てくれてありがとう!」と語りかけ、聴衆からどっと笑いが起きた(写真:Domo)

楽天、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、ローソン、JTB――。名だたる日本の大企業が群がる、米国発ベンチャーがある。社名は「Domo(ドーモ)」。日本語の「どうも」が由来だ。

ドーモが手掛けるのは、ビジネスインテリジェンス(BI)と呼ばれるソフトウエア。顧客企業がBIを用いれば、社内のさまざまなシステムに分散しているデータをまとめ、リアルタイムにグラフなどでわかりやすく可視化したり、分析して改善策を提示したりできる。

親日家CEOが名付けた「どうも」という社名

なぜ「どうも」なのか。同社のジャシュ・ジェイムズCEOは、顧客から「どうもありがとう」と言われる会社になりたいという思いを込めたという。米国ユタ州出身のジェイムズ氏はモルモン教の伝道師として1992年、当時19歳で来日し、2年間生活していたという親日家だ。ドーモの前身「Shacho Inc.」も日本語の「社長」が由来である。


「Domo」という社名は、日本人にもなじみやすいかもしれない(写真:Domo)

国内ネット通販最大手の楽天は、ドーモのデータ分析プラットフォームをすでに全社で導入済み。部分的に導入する日本企業はすでに10数社あったが、全社への導入は楽天が初めてだ。

ジェイムズ氏によれば、楽天の三木谷浩史会長兼社長の下には日々報告書を上げる専門部隊がいる。ドーモの導入で、この部隊はレポート提出のための社内データへの接続やデータ整理という煩雑な仕事から解放されたという。楽天側も「ツールの1つとして活用している」と話す。

ドーモの何がすごいのか。「今までは、経営トップが(社内の)データ分析を指示してから結果が出るまで早くて2週間かかった。ところがドーモなら遅くとも20分間で分析結果が出てくる」と、ジェイムズ氏は説明する。

たとえば全米5位の小売チェーン、ターゲットでは、ドーモで分析したデータを見ていると、フロリダ州で午前9時半に売り上げが急に伸びる日があることに気づいた。だが、その理由を営業担当者は知らなかった。現地スタッフに尋ねると、「ハリケーン警報が出ると買いだめする客が増えるからです」との答え。そこでタイミングを見計らってトラックによる配送量を増やしたところ、フロリダ州での売上高が200万ドル伸びた。

リアルタイムでのデータ把握や計画管理もウリだ。たとえば英国の3月の祝日、聖パトリックデーではキャベツが大量に売れるが、ドーモなら何個のキャベツがどこで売れて、在庫がどこに何個あるかを1分刻みで把握できるという。


Domoのユーザー画面。あらゆるデータを整理・分析し、可視化できる(画像:Domo)

1分単位でデータをつかめるため、1日単位、週単位、月単位、年単位での計画未達幅もリアルタイムでわかり、計画達成に必要な手立てを早く講じることができる。「今までの月ごと、四半期ごとのリポートでは手遅れになりがちだ」(ジェイムズ氏)。

目指すは「ビーチで寝そべりながらの経営」

ドーモはこれまでに6.9億ドル超の資金調達を実施している。そのほとんどをデータ分析プラットフォームの開発に投じたという。「社内外の必要なデータへの接続、整理、見える化、共有、最適化。それぞれの分野を専門とする会社は世界に数百社ずつある。だが1社ですべてできるのはドーモだけだ」と、ジェイムズ氏は自社の優位性を説明する。

ジェイムズ氏が描くのは、ビーチで寝そべりながらでも企業経営ができる将来像だ。「たとえば、ドーモが(工場などの)パイプラインの出力異常をスマートフォンにリアルタイムで知らせてくる。その対策はスマホですぐに指示できる。あるいは、2人の社員が最近会社を辞めたとする。そのことと売上高の減少との関係を即座に分析してくれるので、問題が大きくなることを未然に防ぐことができる」(ジェイムズCEO)。

表計算ソフトの巨大なスプレッドシートを前にして、経営者が頭を抱える時代は過ぎ去りつつあるということだろう。ジェイムズ氏は、大量のデータを分析し、データに基づいて判断・行動するデータドリブン時代の申し子、いわば「データドリブン王子」ともいえる存在なのかもしれない。

3月には新製品「Mr. Roboto(ミスターロボット)」の提供を始めた。ジェイムズ氏が生まれる1年前の1972年に結成された米国のロックバンド、スティックスのヒット曲「Mr. Roboto」から名付けられた。曲中では「どうもありがとう、ミスターロボット。どうも、どうも。どうも、どうも」と、「どうも」を連呼。当時、日本の若者の間でヒットした。これが社名にもつながっている。

ミスターロボットはクラウドと接続したうえで、機械学習や人工知能、予測分析の機能を活用し、高度なビジネス・インサイト(顧客側からのより深い視点・気づき)やレコメンデーション(価値があると思われるコンテンツの個別提示)などを提供するプラットフォームだ。究極的には、データ分析のために多くのデータサイエンティストを確保する必要がなくなるという。

ただ、ミスターロボットは過去の開発の集大成とはほど遠く、「5年後を見据えたプロジェクトであり、まだ始めたばかり」(ジェイムズCEO)。これから育てていくものだという。

30社以上立ち上げた根っからの起業家


ジャシュ・ジェイムズCEOは起業に関しては百戦錬磨だ(撮影:尾形文繁)

ジェイムズ氏は根っからの起業家だ。これまで立ち上げたベンチャーは30社以上。学生時代は米ブリガム・ヤング大学で経営学やアントレプレナーシップ(起業家精神)を学んでいたが、1996年、起業に没頭するために自主退学している。

そこまでして立ち上げたのが、ジェイムズ氏が「米セールスフォースよりも先に成功したクラウドベースのオンライン・マーケティング・ソフトウェア会社」と自負するオムニチュア。設立から10年後の2006年に米ナスダックへ上場。当時33歳で「最年少の上場企業CEO」として全米でもてはやされた。上場から3年後、オムニチュアは米アドビシステムズにTOB(株式公開買い付け)により買収された。

オムニチュアの売却で得た巨額資金を元手に、翌2010年に設立したのがドーモだ。最初の海外進出先に日本を選び、創業まもない2011年には早々と日本オフィスを設置した。だが「日本の顧客の要求品質は驚くほど高い」として体制作りを慎重に進めてきた結果、本格展開は今年10月からようやく始まった。「今後は倍々ゲームで売り上げを伸ばせる局面に来た」(ジェイムズ氏)。

ジェイムズ氏は投資家の顔も併せ持つ。個人資産をこれまでに約50社に投資。米配車サービス大手、ウーバー・テクノロジーズにも早い段階で出資していた。ただ、すでにウーバー株は持っていない。ウーバーでパワハラやセクハラの社内問題が表面化する前に、ジェイムズCEOは保有していた全株を高値で売り抜けたのだ。

「日本はつねにインスピレーション」


ジャシュ・ジェイムズCEOは茶目っ気たっぷりに、日本への思いを語った(撮影:尾形文繁)

「日本はイノベーションの国だ。たとえばイチゴ大福。大福の中にイチゴを入れるなんて発想は、欧米からは出てこない。ビーチサンダルもハイブリッドカーも日本企業の発明だ。”ビーチサンダルはブラジルの発明”と信じて疑わなかったブラジル人の妻が悔しがるほどだ。日本はつねにインスピレーションを与えてくれる」(ジェイムズ氏)。

実の娘は日本に住み始めて1年半になるという。日本で娘にまず教えたのは博多ラーメンのおいしい食べ方だった。豚骨ラーメン専門店「一蘭」に連れて行き、替え玉を頼むタイミングなどを自ら伝授したというのだから、ジェイムズ氏の日本好きは筋金入りといえる。

ユーモアたっぷりに話すジェイムズ氏と、ハイテクに彩られたドーモとのギャップの大きさに、米ベンチャー界の懐の深さを垣間見たような気がした。