ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスのベーシスト、田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く目・鼻・舌をもって、注目するラーメン店の味や店主に「Rock」を見出していくのが本稿だ。

 

初回に選んだのは、女性店主が腕を振るう「麺家うえだ」。そのオリジナリティーあふれる味作りやインパクトあるキャラクターは、“ラーメン界のパティ・スミス”。これは初回にふさわしい! さっそく足を運んだ。

 

【プロフィール】

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては2016年8月にリリースした通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』に続き、2017年6月にはニューアルバム『Popcorn Ballads』を配信限定でリリース。Apple Music J-POPチャート第1位を獲得するなど話題となっているが、12月25日にCDとアナログ盤でリリースすることも決定。しかも同日には、今夏行われた日比谷野外大音楽堂公演の模様を収めたライブDVD「サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ」も発売。また12月18日には東京・LIQUIDROOM、12月21日には大阪・梅田CLUB QUATTROでワンマンライブが開催される。

 

「焦がし」「超濃厚」とトガった味に人情味も注入

店主の上田みさえさんは、なんと御年74歳。だがその年齢がウソのように、極めてパワフル。日夜若いラーメン職人以上に厨房を動き回り、長時間の煮込み作業をはじめとする仕込みにもしっかりと携わる。この点からすでに「Rock」じゃないか!

 

「みさえちゃんに初めて会ったのは、ラーメンイベントでした。とにかく、一番元気(笑)! 人一倍声を出して動くし、誰よりも遅くまで残って次の日の仕込みをしていましたね。僕はビックリでしたけど、知人のラーメン店主は『毎回こう。もう見慣れた光景だよ』と。さらには『みさえちゃんがこんなに頑張ってるんだから、俺らも休んでなんかいられないね』なんて声も。重い荷物を積んだ台車をひとりで運んでて、手伝おうとしたら『いいから、どいてどいて!』ってみさえちゃん。年齢的には僕らのお母さん世代ですけど、この出で立ちはアネゴ肌っていうんですかね。ボスのようでもあり、ムードメーカーでもある。もちろんラーメン界にとっては偉大な存在ですよ」(田中さん)

 

そんなみさえさんのパワフルさを表現したかのようなラーメンが、同店名物のひとつである「焦がし醤油らーめん」だ。みたらし団子の香ばしさにヒントを得たというこのメニューは、味だけでなく調理シーンも個性的。いざ作り始めると、みさえさんは黒い丼を重ねてセット。そして両手にバーナーを持ち、油を直接熱し始めた。ゴォーッと音を立てて燃え上がる炎は、なんともダイナミック! 丼を重ねた理由は、バーナーの熱で持てなくなるからだった。

↑これが「麺家うえだ」の代名詞といえる、“焦がし”のラーメン。牛脂のミンチをベースにした甘味のあるオイルにニンニクなどを効かせ、炎上するほど豪快に炙る。演出だけではなく、香ばしい風味付けとしてもこの所作は欠かせない。スモーキーで、なんとも「Rock」な味わいが生まれる

 

鶏は薩摩シャモのひな鳥のガラを使用。この力強い旨味のスープに、地元産の弓削田醤油のタレを合わせている。麺は有名店が数多く愛用する三河屋製麺にオーダーしており、「焦がし醤油らーめん」にはノド越しがよくプリっとした細麺を使う。トッピングも大きな特徴で、チャーシューは贅沢にもイベリコ豚のバラ肉によるものだ。また、埼玉名産の「草加せんべい」をイメージしたせんべいなどものる。

↑「焦がし醤油らーめん」780円。ベースとなるスープを豚か鶏から選ぶことができ、今回は鶏をセレクト

 

「ラーメンのビジュアルやパフォーマンスも確かにスゴいですが、やはり魅力はこのウマさ! ひと口食べれば、見掛け倒しじゃないことがよくわかります。あとは醤油やせんべいなど、地元産の食材を積極的に使って埼玉をアピールしている点や、贅沢な素材をたっぷり使っているのに価格が高くないというのも見逃せません。丼からみさえちゃんの人情味があふれ出てますね〜」(田中さん)

↑「単品(5枚)チャーシュー」400円。実はこちら、取材時にあいさつするや否や「まずはこれ食べてっ!」といって出してくれた一品。今年の7月に国産豚からスペイン産イベリコ豚にグレードアップさせたもので、身と脂の甘みが最高!

 

同店のもうひとつの看板メニューといえば、ドロドロの超濃厚スープが魅力の「特濃(ハード)」。もともと人気だったこのメニューに、焦がしの要素を加えたのが「焦がし特濃らーめん」だ。数年前、定期開催される「Yahoo! JAPAN」のラーメン特集に新メニューで挑もうと考えていた時、常連客から「特濃を焦がしてみたら?」と提案。その際は「そんなのできないよ!」と一度は言ったものの、やってもいないのにできないというのは性に合わないと思い、結果実現したという逸話がある。

↑「焦がし特濃らーめん」850円。焦がし用オイルにバターを加え、香ばしさとマイルドさを調和させる。スープは、豚骨ベースの清湯(チンタン)に、ドロっと乳化した動物系スープを合わせたポタージュ感あふれるテクスチャーだ。ちなみに(ハード)と呼ばれるこの「特濃」。「焦がし醤油」が「Rock」なら、こちらは「Hard Rock」といえよう

 

「さっきの『焦がし醤油らーめん』よりも濃厚なぶん、細かなチューニングを加えている点が秀逸ですね! こっちは太麺を採用しているし、肉はチャーシューではなくベーコン。魚介のダシをプラスしたりスライスオニオンをのせたりして、メリハリを付けているのも見逃せないですよ。やっぱみさえちゃん、只者じゃないな〜」(田中さん)

 

療養中に思い付いた新生ラーメンの発想は家族愛が源泉だった

そしてこの日は特別に、月曜日だけ限定で提供している「のどぐろ拉麺」も作ってくれた。なんでも、以前田中さんが訪れた際にこの話が出たものの、提供ができなかったため、わざわざ用意してくれたのだ。なんともありがたい!

↑「のどぐろ拉麺」1300円。島根からノドグロの鮮魚、丸干し、煮干しの3種を取り寄せてダシを作り、薩摩シャモと地鶏の混合スープに合わせる。麺は北海道産の小麦「春よ恋」を石臼で挽き、九州産の「はるゆたか」をブレンドした自家製。注文ごとにそば切り包丁でカットし、手もみして提供するという手の込みようだ

 

「ひと口目で思わず声が漏れるほどノドグロの旨味と香りが押し寄せてきます。さらに、新たに挑戦したという手打ち手切りの麺の食感も素晴らしい! 高級魚を惜しげもなく使うという振り切り方もみさえちゃんならではだけど、豪華なラーメンだけあってチャーシューはよりデカく、またメンマではなくタケノコを炙って提供するなど、細部にまで手を抜かない姿勢は流石です。いや〜大満足!」(田中さん)

 

「のどぐろ拉麺」の誕生秘話を聞くと、これまた驚きのストーリーがあった。なんと、みさえさんは「東京ラーメンショー2015」で無理がたたり骨折。といっても、すぐ医者に行かなかったので、骨折と知ったのは後日だったという。しかも、すでに予定を入れていたTV番組の海外ロケでスコットランドへ。そこで得意技の麺のジャンプ湯切りパフォーマンスをして、さらに2本目がポキっと。それでもめげずに夜中の仕込みをして3本目、と深手を負ってついにドクターストップが。とはいえ「入院は絶対にしない!」と拒み、自宅療養していたときに、「治ったら絶対新しいことをやってやる!」と考えついたのが、以前息子さんと旅行に行っておいしさに感動した、ノドグロを使ったラーメンだった。

↑ダシを取ったあとのノドグロ。生臭さが出ないように鮮魚は焼いてから煮込む。さらにエグミが出ないよう、丸干しははらわたを取るという

 

ちなみに、イベリコ豚も息子さんとのスペイン旅行におけるインスパイア。さらには、現在限定20食で提供している「尾の道らーめん」(800円)も同じく家族旅行からの発想だ。どれもインパクト大でありながら、優しさを感じる「麺家うえだ」の味わい。それを生み出す”人ガラ”は、家族愛から生み出されているのだろう。

 

「飲食の道に進んで四十年以上。豊富な知識と経験を生かし、自分が作り上げたラーメンの完成度を究極まで高めていく道もある。しかし、みさえちゃんは新しい味、まだ誰もやっていないことをやるという道を選び、独りで突き進む。実績としてはラーメン界を牽引するリーダーたる存在なんだけど、みさえちゃんは74歳の今でも、既存の概念をぶち壊すパンクロッカーなんです」(田中さん)

 

【店舗情報】

麺家うえだ

・住所:埼玉県新座市東北2-12-7

・電話番号:048-471-8808

・営業時間:11:00〜16:00
・定休日:月(祝日の場合は営業し翌日休み/ただし「麺家うえだ」の定休日は「麺家うえだ プレミアムDAY」として営業し、「のどぐろ拉麺」のみを限定60食で提供)

・アクセス:東武東上線「志木駅」南口徒歩8分

 

撮影/三木匡宏