「ガジンさん、あした1日、オレの仕事に付き合ってくれませんか。場所は福井です」「オレいま仕事で福島にいるんだよ」と言い返しているのを無視して「詳細はメールします」で切れた。
 夏の常磐線、湯本駅。
 駅前喫茶に逃げ込み、頼んだナポリタンが運ばれたとき、スマホが震えた。
 他人の大事なナポリタン時間を邪魔する後輩編集マンの電話だった。「まったく…」と呆れつつ、フォークをクルクルとやり、スマホでいわき→福井という行程を調べる、アホがひとり…。

いわき→上野 スーパーひたち


 夜のにぎわいが去ったいわき駅。
 東京を通り過ぎ、日本の半分を横断するきっぷを駅員に求め、歌舞伎顔の特急スーパーひたち14号へ。
「きょうもJR常磐線をご利用いただきまして、ありがとうございます」
 肉声の朝一発目のアナウンスは、列車名ではなく、路線名だった。
 たしか、東海道新幹線は、「きょうも、新幹線をご利用いただき、ありがとうございます」と自動音声が響くはず。地域や会社によって、言い方が違うあたりも、長距離レール旅の面白さ。
 福島と茨城の県境、勿来の関を軽々と越えると、車窓左手に太平洋が映り始める。朝食のサンドとコーヒーが、昨晩の酒が残る身に、浸みる。
 霞ヶ浦が織り成す平野を駆け抜け、2時間ほどで朝一番列車は上野へ。

東京→米原 ひかり


 お盆の東京は帰省客で大混雑。
 N700系「ひかり507号」は、Japan Rail Passを手にした外国人旅行客と帰省客、そして弾丸出張中年を乗せて乗車率9割で駆け出した。
 グレーの空、富士山も見えない、パソコン開けて仕事ってワケで、大忙しのJR東海パッセンジャーズ女史に「僕もビールを」。禁断の朝ビール……。
 4分うしろを走る「のぞみ」にせかされるように、この「ひかり」は名古屋まで豪速でぶっ飛ばす。
 新幹線の俊足と心地よい揺れ、そしてビールのおかげで、朝のメールも書類の整理も片付いた。

米原→福井 しらさぎ


 東海道線と北陸線が交わる、古くからの鉄道の要衝――米原。いまも盆暮れ正月のころは、芋を洗うような混雑。
 ボーッという船の汽笛にも似た、列車接近音が、JR西日本エリアにいることを教えてくれる。遠くに来た。
 683系「しらさぎ53号」、金沢ゆき。
 琵琶湖を左に見ながら、稲田の緑のじゅうたんの上を駆けていく。
「お弁当にビール、いかがですか」
 JR東日本やJR東海の系列とはまた違う、北陸トラベルサービスのお姉様が、接近。このあと仕事があるのを忘れ、ビールを求めれば……。
「あたしたち、9月でこの車内販売を終えちゃうのよ。もうどうしようっ」
 まるでスナックのママ。揺れているので、間違いなく列車のなかだ。
「売れなくなってきちゃったのよね。来年には北陸新幹線が走るでしょ」
 特急街道の北陸線は、かつての東海道線と同じように、新幹線にその役目を譲り、凋落の一途をたどる。
 敦賀のループを越えるころ、あのお姉様がそっと笑って、再び、接近。
「お兄さん、もう一本どう?」
 太平洋から日本海へ、3社の鉄道を乗り継ぐ旅は終わる。が、仕事はこれから……!? すでにできあがってる。
 昼過ぎの福井駅に立ち、酔いが覚めた。新幹線用の橋脚が、もう、あった。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2014年10月号に掲載された第26回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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