生薬原料である人参の収穫風景(写真:ツムラ)

医療用漢方薬の最大手、ツムラが中国で本場の「中国伝統医薬」(中薬)事業を加速させる。9月、中国の4大保険会社の一角、中国平安保険集団と資本業務提携した。これまでに日本の漢方薬で培ったノウハウを利用し、中国での中薬事業にチャレンジする。

業務提携と同時に、ツムラは平安グループの生命保険会社・中国平安人寿保険に新株と自己株計767.5万株を割り当て。10月13日に払い込みが完了した。これによって平安人寿は持株比率10%とツムラの筆頭株主になった。

中国の民間コングロマリットが筆頭株主に

平安グループは保険、ITを中心に成長してきた中国有数の民間企業グループだ。傘下にインターネット医療健康管理プラットフォーム企業や診療所標準化管理サービスプラットフォーム企業などを抱え、健康・医療分野の拡大に力を入れている。最近になって中薬産業にも参入、中国での事業実績が長く生薬から製剤化まで一貫した生産技術と品質管理技術を持つツムラに着目した。

ツムラは今回調達した273億円を使い、中薬の提供体制を整備する。ツムラの利益剰余金は1300億円超あり、単独で投資することも可能だったが、平安グループの医療ヘルスケア関連の事業基盤や顧客基盤との連携を狙った。ただ、平安グループから役員の派遣は受けない方針で、ツムラの事前の同意がなければ出資比率引き上げや売却はできない契約になっている。

中国伝統医療である中医では、薬(中薬)は刻み生薬として処方され、患者自身が煎じて服用するスタイルが主流。使われる生薬の種類は、漢方の約250種よりもはるかに多く、600種近くあるという説もある。

中薬の市場規模は10兆円を超えるといわれているが、輸出用製剤や健康食品が含まれている可能性もあるなど、正確な現地市場規模はわかっていない。それでも国内の漢方薬市場規模1500億円弱と比べれば中薬の市場規模が大きいことは明らか。さらに今後、経済成長に刻み生薬からエキスや顆粒など製剤へのシフトも進むと考えられる。

一方、漢方薬は中国起源であり使われる生薬も中国伝来だが、日本独自の発展を遂げてきた。民間療法と混同されることもあるが、現在では148処方が厚生労働省から承認されている医療用医薬品だ。有効成分を抽出、製剤化したものが普通だが、植物や動物、鉱物といった原料生薬の国内調達率は15%程度で、80%を中国からの輸入に依存している。

原料生薬の調達が中心だった

原料生薬には野生のものや栽培に時間がかかるものもあり、調達は不安定になりがちで調達価格も不安定。それゆえこれまでツムラの中国戦略は、原料生薬の調達が中心だった。


2001年に設立した上海津村製薬は中国で初の製造拠点。日本向けにエキス粉末を作っている(写真:ツムラ)

ツムラと中国の関係は、1978年にさかのぼる。国交回復のわずか6年後に、津村重舎会長(当時)が生薬原料貿易について当局と直接交渉したのが始まりだ。1981年には原料生薬調達の長期契約を締結、その後1994年までに合弁9社、1991年には100%子会社も設立している。2011年には漢方の7割に配合されている重要生薬、甘草の人工栽培技術を北京中医薬大学などと共同開発している。

そうした動きに合わせ、2016年5月には現地の中薬配合用の顆粒製造に向け上海の中薬メーカーと合弁会社、上海上薬津村製薬を設立。中薬事業参入の足掛かりを作った。2021年度の販売開始を目指し現在工場建設、製造品目選定などの準備を進めているところだ。


生薬の収穫後、地上部の除去作業を行う(写真:ツムラ)

今回の提携は、これまで中国事業で主体としてきた日本向け生薬などの調達ではなく、現地需要がターゲットとなっているのが大きな特徴だ。およそ150億円を投じ、中薬エキス製剤の製販体制を整備、ほかに栽培用地の確保や加工技術の開発、加工場の設置など生薬調達体制も強化する。具体的な製造品目や生産量などはこれから検討する方針という。

「飲水思源」を実現

ただし、製造・販売には規制当局の許可が必要なため、収益への貢献はさらにその先になりそうだ。昨年春に設立した合弁会社、上海上薬津村製薬では配合用顆粒の製造を目指しているが、規制や販路の違いもあり、現時点では連携は考えていない。

ツムラの加藤照和社長は「中国には『飲水思源』ということわざがある(水を飲むときは井戸を掘った人に感謝しなさいという意味)。われわれは日本の伝統医療である漢方のために中国から生薬を調達させていただいている。これまでに中国拠点で培った技術・ノウハウ・人材など当社の経営資源を活用し、中国の伝統医療と国民の健康に貢献することで恩に報いる」と説明する。

これから提携内容をどう具体化していくか。本場・中国でツムラの実力が試されることになる。