独立問題に揺れるカタルーニャ自治州。今後の展開も読みにくい(写真:Susana Vera/ロイター)

カタルーニャ自治州の独立問題が複雑化している。10月21日には、スペイン政府が臨時の閣僚会議を開き、憲法155条を適用してカタルーニャ州の自治権停止とプチデモン州首相らの解任を決定。155条はスペインが1978年に民主化の道を歩み始め、民主憲法を発布した際に、ドイツ憲法をまねたもので、国家の統一を乱す自治州に対してその機能を停止する権利がスペイン政府に付与されているという内容である。

ただし、その適用には上院での承認が必要で、まず24日から上院でその諮問委員会が開かれ、上院での審議を経て27日に採決をするという日程になっている。政府与党は上院で過半数の議席を確保しており、しかも穏健左派の社会労働党と、カタルーニャで誕生した政党シウダダノスも賛成票を投じることになっているので承認には問題はない。このため、28日から155条の発動は可能になる見込みであるとされている。

155条発動は「国家によるクーデター」

だが、事態はそう簡単に進みそうにない。まず、社会労働党は155条の適用を支持しているものの、同党はカタルーニャではカタルーニャ社会党と連携している。そして、このカタルーニャ社会党内部では、155条の適用については意見が分しているのである。それは次のような理由からだ。

フランコ独裁政治で弾圧されたカタルーニャでは、多くがフランスに亡命し、フランスでカタルーニャ自治議会を創設した。その後、1977年に、この自治議会の最後の首相を務めたジュセップ・タラデーリャス氏がバルセロナに帰還。この時、自治機能回復に彼と共に努力したのが、当時のカタルーニャ社会党のメンバーであった。彼らからしてみれば、155条の適用は、当時の努力を否定されていることにも等しいのである。

一方、同党内には、現在の州政府は憲法を蹂躙(じゅうりん)して国家の統一を阻害しており、現在の州政府を廃止せねばならないという考えもある。こうした中、カタルーニャ社会党内部では、州政府との対話をもとに問題の解決を図っていくべきだという意見が主流になってきている。

カタルーニャ州議会も、155条発動は「カタルーニャの尊厳を冒瀆する」と、猛反発。カルメ・フォルカデル議長は、「国家によるクーデターだ。カタルーニャ州議会を無能化させて、マリアーノ・ラホイ首相はそれを自分のものにしようとしている」「投票によって選出されてできた州政府と州議会を打倒しようとしている」と、怒りをあらわにしている。

また、州政府を構成している主要政党の1つ、カタルーニャ民主集中のジュセップ・ルイス・クレリエス上院代表も同様に、155条の適用を「国家クーデター」と位置づけ、「ラホイ首相がやろうとしていることは正に155条に規定されていない内容だ」「首相の都合に合ったように理解を下したまでだ」と述べている。

こうした中、スペインのテロ組織「エタ」の撲滅に活躍したバルタサル・ガルソン判事は、155条の適用は正当であるとしながらも、「最初から州政府の機能を停止させるようには規定されていない」と指摘。「少しずつ適用されて行くべきだ」と発言している。

強硬手段に出るラホイ首相の言い分

一部報道によると、スペイン政府と州政府は秘密裏に接触しているもよう。しかし、双方で合意には至っていない。これは、スペイン政府が州政府による独立という姿勢を批判し、これまでの行為を違憲だと認めることを交渉条件に掲げていることが理由とみられている。

そもそも、現在のカタルーニャ州政府は2党の連立政権に加え、左派過激派が必要時に票を貸して過半数を確保している状態で、この3党の意見が「違憲」という方向にまとまるのはそう簡単なことではない。これが、スペイン政府との交渉にも影響しているとみていいだろう。

こうした中、スペイン政府は自治州機能停止という強硬手段に出るわけだ。計画では、まずプチデモン州知事とジュンケラス副州知事を解任し、それから閣僚全員を解任する。また州政府に癒着していることが判明している自治警察のトゥラペロ警視総監も解任。さらに、州政府寄りの報道が目立つTV3テレビとラジオにも介入するとしている。州政府の通信および情報テクノロジーセンターも、治安警察管轄下に置かれるという。

ラホイ首相は、閣僚会議後記者団に対し、155条を発動することについて、カタルーニャ州政府によるスペイン憲法の蹂躙と、州議会の野党の存在を無視した議会制民主主義を正しい状態に戻すことが目的だと説明。スペイン国内での独立支持派と反対派の対立を防ぐと同時に、企業がカタルーニャ州から流出するのを防ぐことで経済を安定化させたいと語った。

同首相はまた、カタルーニャ州が「安定」した時点で、州議会選挙を早期に実施すると表明。一部メディアでは、スペイン政府が州政府の自治権を停止した後、暫定政府を2カ月ほどおき、その後選挙を開催するとも取りざたされている。

一方、スペイン上院で155条発動に向けた審議が行われている最中に、カタルーニャ州政府が議会を招集し、独立宣言をする可能性も浮上している。ただ、ジュンケラス副州知事率いる左派共和党が独立宣言を主張しているのに対し、プチデモン州知事のカタルーニャ民主集中の党内には、州議会を解散させて、州議会選挙に踏み切るべきだという意見もあるという。そうすれば、自治機能を停止させられるという屈辱を回避できるからだ。

スペインで最も古い企業も去った

スペイン政府とカタルーニャ州政府の葛藤が続く中で、カタルーニャに本拠を置いていた企業の流出が続いており、10月以降、1200社余りがその手続きをしている。州政府は、独立した暁には、カタルーニャ共和国の2大銀行カイシャバンクとサバデル銀行をメインバンクとする構想を練っていたが、この2行もバレンシア州に本社を移転させている。

カタルーニャが独立した場合、新国家が欧州連合(EU)に加盟するのは困難を極めるとみられる。となれば、ユーロは使えなくなるし、欧州中央銀行とも取引ができなくなる。こうした国家に本社を構えることは、銀行にとって致命傷になりかねない。このため、2行は本社移転に踏み切ったのである。

このほかにも、州外に移った有名企業は少なくない。たとえば、スパークリングワイン、カバの老舗メーカーであるCodorniu(コドルニウ)は本社をラ・リオハに移すことを決めた。1551年創業の同社は、スペインで最も古い企業として知られ、カタルーニャのシンボル企業といっても過言ではない。その同社が移転を発表した10月16日には、スペイン中のメディアがこれを報じた。

また、同じくシンボル的な企業で、セメント大手のセメント・モリンスもマドリードへの本社移転を決定。同社の元社長ホアキン・モリンス氏は議員経験もあり、現在のカタルーニャ州政府を支えている連立政党にも関係してきた。ゆえにカタルーニャ州政府とは関係が深い企業であるが、他社と同様、カタルーニャの先行きに不安を覚え、本社を移転させたようだ。

もっとも、カタルーニャからの企業流出は今に始まったことではない。同州で独立機運が高まり始めた2008年以降、カタルーニャ州外に本社を移転させた企業は7956社に上る。もちろん、この間カタルーニャに誕生した企業や、移転してきた企業もあるが、それを差し引いた場合、2624社がカタルーニャから姿を消したことになる。

州政府の財務・経済を担当しているジュンケラス副州知事は「企業の移転は心理的なインパクトが現実よりも強いだけである」と述べて、実質経済への波及はわずかだと指摘。カタルーニャの国民総生産(GDP)には影響ないと述べている。

州外に雇用の流出懸念も

しかし、この発言には隠されていることがある。たとえば、企業の法人税は国に納税されているが、そのおよそ1割は自治州の財源に還元される。つまり、本社を置く企業が減ることは、国から回ってくる税収が減ることを意味している。これは、州政府の財源に深刻な影響を与えかねない。

こうした中、カタルーニャの企業連合の1つ「Foment del Treball」は、州政府が「法にのっとった形」に戻ることを要求。同企業連合は、最悪の事態は数カ月、あるいは数年先に表面化しかねないと指摘している。このほか、カタルーニャへの投資が減ることや、雇用が州外に移ることも懸念事項として挙げている。

企業が利益を優先するのは当然ではあるが、これを理由に住んでいる人々の独立機運を鎮めるのは容易ではないだろう。だからこそ、スペイン政府と州政府は互いに強硬姿勢を貫くことなく、対話の機会を模索し続ける必要があるのではないか。