エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

そんな亮介が、日本に一時帰国している半年の間に、日本での婚活を決意する。

食事会で出会った読者モデル・瞳とのデートでは、その本性を見てしまい、付き合うには至らなかった。

亮介に、明るい未来は来るのだろうか・・・?




「会うの、久しぶりだな。」

土曜日の午後8時、亮介は、恵比寿にある高級マンションのラウンジにいた。

今日は大学時代、起業家や起業家になりたい人向けに有志で行っている勉強会で知り合った片瀬が開く、ホームパーティに呼ばれていた。

「片瀬さん、お久しぶりです。この度は、おめでとうございます。」

片瀬と会うのは、3年ぶりだろうか?相変わらず目力が強く、今年40歳とは思えないほど、肌艶が良い。

片瀬は出会った時から「お前、面白いやつだな。」と亮介を気に入って、可愛がってくれていた。

その当時片瀬は、食品宅配サービスの事業を立ち上げたばかりだった。事業が軌道に乗り、つい先日上場を果たし、今日は親しい仲間内でのカジュアルなお祝いだった。

しかし中に入ると、すでに40人ほどが集まっている。カジュアルな集まりだと言っていたが、さすが人望のある片瀬だ。

豪華な料理やシャンパンが並べられ、内装もそれに合わせて綺麗に飾りつけされていた。

男性は片瀬と同い年くらいの人が多く、学生時代の友人や起業家仲間が集まった。一方女性達は、どういったつながりなのか、若くて美しい女性達で賑わっている。

「どうだ、亮介。美人ばかり集まっているだろう。良い子がいたら紹介するから言えよ?」

わはは、と豪快に笑う片瀬だが、これまで苦労も沢山していたことを知っているだけに、今回の上場は亮介にとっても感慨深い。

しばらくの間、片瀬と、片瀬の起業仲間である原田と話していた。すると急に、片瀬が大きな声で女性達を呼んだ。

「 綾乃ちゃん、美樹ちゃん!」

片瀬に呼ばれて、女性二人がこちらに来た。二人とも20代前半くらいの、なかなかの美人である。特に綾乃と呼ばれた女性は、身につけているものの華やかさが際立っていた。

肩と背中の開いた質の良いワンピースに、豪華なダイヤがあしらわれたカルティエのネックレスと、タンクの腕時計。

日本に帰国して以来、亮介はブランド物を当たり前のように身につける女性に違和感を覚える場面が、何度かあった。


片瀬に呼ばれた女性達。綾乃の反応は?


綾乃の本音


「いい男性と出会えるかな♪」




綾乃は、都内のある大手メーカーで受付をしている24歳。黒目がちな猫目がチャームポイントだ。

今日はお食事会で知り合った片瀬に、「今度うちでホームパーティやるから、いい男紹介するよ」と誘われて来た。

年は離れているが、確かに羽振りの良さそうな男性達がちらほらと確認できる。

綾乃達が周りを物色していると、急に片瀬に呼ばれた。

「綾乃ちゃん、美樹ちゃん!」

見ると、フランク・ミュラーをつけて羽振りの良さを前面に出した男と、この中では珍しく若く、背の高いイケメンの男性がいた。

「お二人は何をされているんですかぁ?」

二人を紹介した片瀬が去ったあと、すかさず美樹が猫なで声で話しかけた。

「俺は一応、ゲーム会社の経営をしています。オフィスは渋谷にあって、従業員は今30人ほどいるかな。」

「へー、すごーい!なんていう会社ですか?」

自慢したがりな男性ほど、「一応」を枕詞に謙虚ぶる傾向にある。綾乃は、気になっていた亮介のほうにも話を振ってみた。

「亮介さんは、どんなお仕事をされてるんですか?」

しかし、その答えは期待外れだった。

「IT系の会社で働いています。」

―会社名を出さないあたり、大したことないのね。

綾乃は「そうなんですね」と適当に返事をして、原田の方に話を戻した。普通のサラリーマンに興味はない。

その時、片瀬が戻って来て、亮介と話し出した。

「亮介っていつまでこっちにいるの?」
「えっと、5ヶ月後には向こうにいる予定です。」

―向こう?遠くから来ているのかしら。

綾乃が亮介の方をチラリと見ると、片瀬と目が合った。

「亮介、カッコいいだろう?その上こいつ、世界的IT企業のアメリカ本社採用で、今一時帰国中なんだ。」

-ふーん・・・。そうは言っても、所詮サラリーマンでしょう?

そう思ったものの、片瀬の手前、一応質問してみる。

「日本でのお住まいも、会社の近くですか?」

それを聞いて、なぜか片瀬が答える。

「そうそうこいつ、六本木の高級マンションに居るらしいんだ。生意気だろう?」

-え!?六本木!?

片瀬がペラペラと話すのに対し、亮介の表情は読めず、少し迷惑そうにも恥ずかしそうにも見えた。何にせよ、亮介もなかなか稼いでそうだ。

-いい物件かも!

片瀬がいなくなった後、綾乃は何とか亮介と二人きりになった。

「綾乃さんはどこに住まれているんですか?」
「私は、恵比寿です。」

恵比寿に住んでいることが、綾乃の心の支えである。三重の田舎で普通のサラリーマン家庭で育った綾乃にとって、東京は目がくらむほど眩しかった。

―私も東京でキラキラした生活を送るんだ。

そうやってここ何年か、金払いのいい人とばかり遊んでいた。身につけているブランドものは、彼らからのプレゼントである。

「私、こう見えて結構料理得意なんですよ?男性の一人暮らしって栄養偏りません?」
「私、意外と安いお店とかでも大丈夫なんです。」

男性がギャップに弱いことは、百も承知だ。派手な見た目の綾乃が料理上手だったり、安いお店でも良い、というアピールは結構効き目がある。

しかし亮介は特に表情を変えることなく、何となく話を合わせてくれているだけ、という感じがした。

23時を回り、片瀬に挨拶をしている亮介を見つけた。

―帰る前に連絡先を聞かなきゃ。

しかし、普通に聞くのはただの田舎者と思われるかもしれない。

綾乃は亮介の腕に手を絡め、上目遣いをしながら言った。

「私、あまり連絡先って交換しないんですけど、でも、亮介君なら教えてあげてもいいかな。」


上から目線な発言に、亮介はどう思ってる?


亮介が綾乃にとった行動は?


亮介は、さっきまで媚びていたかと思えば、今度は上から目線な綾乃の物言いに、東京で必死に生き抜こうと装っている幼さを感じ、逆に少しいじらしく思えた。




しかし、真剣に付き合いたいとはやはり思えない。

恵比寿に住んでいることや身につけていた高級ブランドは、きっと自分の給料では不可能だ。それに亮介の住む場所を聞いて態度が変わった時点で、スペック重視なのは明らかである。

「ありがとう、光栄だけど、僕は君にふさわしくないよ。」

絡まれた手をほどき、ぽんと頭に触れ、にこりと笑ってその場を後にした。

残された綾乃は、目を点にしていた。



―あぁ、疲れたな。

今日は特に出会いを求めて行ったわけではないが、亮介はいつもより疲れていた。

―いい子ってなかなかいないものだな。僕は、高望みし過ぎているのだろうか…?

そう思っていた矢先、同じように部屋から出て来た女性がいた。

「あれ、さっきラウンジにいましたよね?片瀬さんの?」

そう言って話しかけて来た女性は、大きな瞳と高い鼻筋の、整った顔が印象的だった。

「そうです、片瀬さんに呼ばれて。お帰りですか?」
「えぇ、慣れない豪華な雰囲気に飲み込まれて、少し疲れちゃって。」

その後、「酔いを醒ましたい」と言う彼女と一緒に、少し外を歩くことにした。彼女の名前は香奈と言い、外資の製薬会社に勤めているらしい。

「私、 煌びやかなパーティって、長く居られないんですよね。男性が仕事自慢して、女性が持ち上げてすごーいって言う感じ。」

大げさなジェスチャーと表情でその様子を語る彼女が可愛らしかった。

もっと話してみたい、と思った亮介は、早速別れ際に連絡先を交換し、LINEを送った。

―先ほどはありがとうございました。もし良かったら、来週あたり、食事に行きませんか?

短時間しか話せなかったので、どういう返事が来るのかドキドキする。

しばらくして「是非。」と返って来たLINEを見て、亮介の疲れた顔から笑みがこぼれた。

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