May J.が目指す、“自分だけの”音楽表現「いろんな冒険をしながらJ-POPを崩していくことがテーマ」

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 May J.が約3年ぶりとなるオリジナルアルバム『Futuristic』をリリースした。「ふたりのまほう」(アニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』オープニングソング)や、作詞・つんく♂と作曲・小室哲哉のコラボによる「Have Dreams!」、八代亜紀とのデュエットソング「母と娘の10,000日〜未来の扉〜」など話題の既発曲がたっぷりと収録される本作だが、その目玉となるのはMay J.自身が作詞・作曲を手掛けた新曲群だろう。自らでゼロから生み出した6編の楽曲には彼女が今表現したい歌とメッセージがリアルに注ぎ込まれている。そして、それらすべてをL.A.でレコーディングすることで、世界基準ともいえるMay J.なりのJ-POPへと昇華しているところが大きな聴きどころだ。シンガーからアーティストへの本格的な脱皮を実感させる本作は果たしてどんな思いで作り上げられたのか? 本人にじっくりと話を聞いた。(もりひでゆき)

・今、あらためて自分が信じるものを表現していきたい

ーー前回のアルバム『Imperfection』から約3年。その期間でMay J.さんの中で何か気持ち的な変化はありましたか?

May J.:前作を出した頃も含め、ここ4年くらいはいろんなことを吸収する修行の時期だったと思っていて。様々な曲のカバーをさせてもらったことで自分の知らなかった世界をたくさん知ることができたし、それによって表現方法の幅も広がった実感があったんです。そんな期間を経たことで今は自分の中にやりたいことがすごく溜まってるんですよ。今まではシンガーとして歌うだけで満足と思っていたところもあったけど、気持ち的にそうじゃなくなってきた。だったら自分の中に溜まっているものを一度全部出そうと思い、今回のアルバムでは自分で6曲作り、それをL.A.でレコーディングすることにしたんです。自分で表現したいことを自分でコントロールしながら、ゼロから音楽を生み出したいなって思ったから。

ーー確かに今回のアルバムでMay J.さんのアーティスト性が覚醒した印象がありますもんね。ただ、そういった思考はデビュー当初からあったようにも思うんですよ。ご自身のルーツであるブラックミュージックをがっつり打ち出した音楽性をひっさげて、デビューをされていたわけなので。

May J.:確かにそうですね、うん。いろんなことを経験したことで、気持ちが一周したところがあるのかも(笑)。今思うと、デビュー当時のまんま、自分の好きなスタイルだけを自由にやっていたらここまで続かなかったなって思うんですよ。だからこそ私にはいろんなことをやる必要があったし、それを楽しんでこれたところがあって。その上で今、あらためて自分が信じるものを表現していきたいなって思うようになったんですよね。それはきっとデビューから10年を経たからこその感情。この10年は私にとっては必要な回り道だったし、そうやって歩んできてすごく良かったなって今は思いますね。

ーー本作に収録されている自作曲はどのように作っていったんですか?

May J.:基本的には私のツアーでずっとバンドマスターをやってくれているギタリスト、Sho Kamijoくんと一緒に作っていきました。「こんな雰囲気がいいかな」っていうテーマを私が持っていって、それを元にShoくんがコードを弾いてくれるんです。そうすると自然とメロディが出てくるので、「♪ラララ」で歌いながら曲にしていく流れで。

ーーあまり悩むことなくメロディは浮かんできますか。

May J.:そうですね。今回の制作はツアーと並行してやっていたので、ライブをする中で芽生えた「こんな曲があるといいよね」とか「こういうタイプの曲はやったことないよね」みたいなイメージがストックされていたところもあったので、すごくスムーズに進みました。1日1曲ペースで、どんどん新しい曲が生まれていきました。

ーーちなみに最初にできた曲は?

May J.:「HERO」でした。一番暗い曲なんですけど(笑)、こういうタイプの曲が私としては一番作りたかったものでもあって。マイナー調のサウンドに乗せて内に秘めている思いをさらけ出すような、ちょっと謎めいた曲に私はすごく惹かれるんです。ベートーベンの「月光」を暗い部屋でずっと聴いたりすることもあるくらいなので(笑)。ただ、「HERO」は曲としてマイナーすぎるし、最初から自分の好きなことを思い切りやってしまった感もあったから、きっとダメ出しされるだろうなと思ってたんですけどね。

ーーアルバムの中でもいいアクセントになっていると思います。歌詞のメッセージも胸に響くものになっていますし。

May J.:「HERO」を作っていた時期はいろんなところでテロが起こったり、悲しいニュースがすごく多かったんですよ。だから、そこで感じたことをメッセージとして書いてみたんです。私たちは世界を変えるような大きなことはできないけど、一人ひとりが身近な人への愛を大切にしていれば、それが広がっていって世界はいい方向に進むんじゃないかなって。そういったユニバーサルな視点のラブをテーマにしたんですよね。自分で書いた6曲に関しては、どれも私が今伝えたいことを詰め込んだ歌詞になっています。

ーー今回のアルバムでは、どの曲にも伝えたい対象が見えてくる印象がありますよね。

May J.:そうですね。もちろん聴く方それぞれの対象が当てはめられるように、あまり限定した書き方はしないようにはしているんですけど、私の中にはどの曲の中にも伝えたい人が明確に存在はしています。例えば「My Star〜メッセージ〜」という曲は、メロディを作っているときに学生時代の恩師が亡くなってしまったので、その先生に捧げる曲として歌詞は書きました。人生の中で別れてきた大切な人にもう一度会いたいという気持ちを歌っていますね。

ーー人との繋がりや絆こそがMay J.さんの表現の源であり、歌い続ける意味になっているところがあるんでしょうね。

May J.:はい。そういう繋がりこそが自分のインスピレーションになっていくというか。「SIDE BY SIDE」という曲は、ファンの方との絆をテーマに書いたものでもあるんですよ。ファンレターを読ませていただいていると私の音楽がみなさんの生活の支えになっていることに気づかせてもらうことも多いですし、逆にみんながいるからこそ私は安心して歌を歌うことができてもいる。だからこそ、その繋がりへの感謝をあらためて曲にしたいなと思ったんですよね。その曲をアルバムの1曲目に持ってきたのも私の中にはすごく大きな意味があります。

・あえてJ-POPとして勝負したい気持ちもあった

ーー自作曲はトラックも歌もL.A.で録音されたそうですが、意外にも海外レコーディングは初なんですよね。

May J.:そうなんですよ。ずっとやってみたかったんですけど、なかなか機会がなくて。今回はShoくんと一緒にアレンジまできっちり固めた上でL.A.レコーディングに臨んだんですけど、現場でミュージシャンの方々がセッションを始めたりして雰囲気がどんどん変わっていくところもありましたね。それがまたすごくかっこよくて、より良いものになっていくのを実感しながらの制作になりました。

ーー日本でレコーディングされたものと比べ、音像やグルーヴは確実に違っていますよね。May J.さんのルーツである洋楽やブラックミュージックのフレイバーも随所ににじみ出ている印象もあるし。

May J.:確かにそうかもしれないですね。ゼロから自分のイメージで作った楽曲たちではあるので、自然とルーツがにじみ出たところはもちろんあったとは思います。ただ、今回に関してはヒップホップやR&B色を強く打ち出すのではなく、あえてJ-POPとして勝負したい気持ちもあったんですよ。日本語を乗せた日本の曲として、海外のミュージシャンやエンジニアさんと勝負がしたかったというか。もちろん本格的なR&Bを作ることもできたとは思うんですけど、そうしてしまうとこれまでの楽曲との雰囲気がかけ離れてしまうし、デビュー当時のMay J.に完全に戻ってしまうじゃないですか。それはちょっと違うなと思ったので。

ーーなるほど。そこが今のMay J.さんが大切にしているバランス感覚なんでしょうね。

May J.:そうそう。自分がやりたいことと、求められていることのバランス。そこを意識できるようになったところが、10年やってきて一番大きく変わったところだと思いますよ。昔だったらね、海外レコーディングってなればゴリゴリのR&Bをやってたと思う(笑)。

ーー歌は3日で6曲を録ったそうですね。

May J.:かなり詰め詰めなスケジュールでしたね(笑)。日本だと1日1曲でベストな歌声を残す感じなんですけど、今回は1曲目でちょっと声が涸れてしまっても、あえてそのまま2曲目を録ったりもして。それが逆にいい味になったりすることもあったんですよ。それは新しい発見でしたね。

ーー単純にうまくキレイに歌うだけがいいことではないと。

May J.:そうそう。私は歌の語尾をファルセットでキレイの伸ばして切る、みたいなことをする癖があったんですけど、そういう部分をあえて崩してみたりもして。そういう挑戦をいろいろできたのは楽しかったですね。

ーーフェイクやロングトーンで自由に遊んでいるところも多いですよね。

May J.:かなり遊びました(笑)。自分でメロディを作っているからこそ、思い切り遊べたんだと思います。メインの歌以外のフェイクなどに関しても日本できっちり作りこんでからL.A.に行ったんですけど、向こうでは現場で出たアイデアを生かして、さらに崩したりもしましたね。エンジニアさんは日本語のまったくわからないイタリアの方だったんですけど、ところどころで歌のディレクションもしてくださって。それがすごく的確な指摘で、試してみるとより良くなってビックリ! なんてこともありましたね。

・新しくてワクワクできることをどんどんやっていけたら

ーーMay J.さんにとって非常に大きな意味を持つ仕上がりとなった本作。それをリリースする今の気持ちをあらためて聞かせていただけますか?

May J.:毎回アルバムを作るたびに「今の自分のベストなものができた!」という実感はあったんですけど、今回ほど制作に積極的にかかわったことは初めてだったので、達成感がほんとにすごくありますね。その上で、ここまで自分の意志を作品に反映させられることがわかったので、「もっとやりたい!」っていう欲望も出てきました(笑)。今回は6曲だけでしたけど、次はもっとたくさんの曲を自分で手掛けたいなって。もう次のことばかり考えてる感じです。

ーーその思いが「Futuristic」というアルバムタイトルにもつながっているんでしょうね。

May J.:そうですね。“Futuristic”は“未来的”という意味なんですけど、それは私がやりたい音楽とみんなが聴きたい音楽のバランスを見ながらMay J.として目指していく場所のことを指しています。このアルバムを通して、そんな私の思いを感じていただけたら嬉しいですね。

ーーここまでの活動の中でMay J.さんのパブリックイメージは確固たるものになっている部分もあると思うんです。でも、本作にはそれだけに収まらない魅力がめいっぱい詰まっていますよね。アーティストとしてのさらなる可能性も見えますし。

May J.:「May J.はこういう歌を歌うよね」っていうイメージは世間的にきっとあると思います。それはおそらくバラードだと思うんですけど。私としてはその期待に応えることはもちろんですけど、ここからはそれをあえて崩していきたいんですよね。いろんな冒険をしながら自分自身を、そしてJ-POPを崩していくことがテーマ。正統派な歌を歌うことも大事だけど、そこに今までにないスパイスを盛り込むことで今までにない、自分だけの音楽が作れるんじゃないかなって思っているので。

ーー今のMay J.さんは、すごくナチュラルに音楽を楽しめている状態なのかもしれないですね。

May J.:肩の力はすごく抜けたと思います。そのきっかけになったのは、今回のアルバムにも入っている「Have Dreams!」のレコーディングだったんですよ。そこで初めて歌を崩すことの大切さを知ったんです。

ーー作詞をつんく♂さん、作曲を小室哲哉さんが手がけて話題を呼んだ楽曲ですね。

May J.:はい。これは夢をテーマにした曲なんですけど、レコーディングで歌っているときにつんく♂さんが「何を考えて歌ってる?」って聞いてくださったので、私は「大きな夢を想像しながら歌っています」って答えたんです。そうしたら「そうじゃなくてもっと身近な夢、例えば“今日どこどこのラーメン食べたいな”くらいの夢を想像してみて」って言われたんですよ。で、その通りに歌ってみたら、自分の歌がキュッと近くなったような気がしたというか。

ーー聴き手がより共感しやすい歌声になったということですね。

May J.:そうなんです。つんく♂さんには「大きな歌ばかり歌うようにしていると親しみがなくなってしまうよ」とも言っていただけて。その経験は自分にとってすごく大きなものでしたね。「あ、等身大の歌でもいいんだな」って、ちょっと力が抜けた瞬間だったので。もちろん壮大な雰囲気の歌が求められるときもありますけど、曲によって歌い方を使い分けることも重要なんだなってことにも気づけたんですよね。それは今回のアルバムにおいてもいい形で生かせたと思います。

――今、未来に向けた新たな夢もどんどん湧き上がっている感じですか?

May J.:そうですね。私は普段、洋楽を聴くことが多いんですけど、そこで見つけたおもしろいことをJ-POPとうまく混ぜ合わせて自分にしかできないことをやっていきたいなとは思っています。で、それが海外でも受け入れてもらえるようになったら最高ですよね。

ーーMay J.さんは「母と娘の10,000日〜未来の扉〜」で八代亜紀さんとデュエットしたりとか、他のアーティストにはできないこともやっていますよね。

May J.:そういった大先輩との繋がりはこれからも大事にしつつ、もっと幅広い世代とかかわりながら、これからも新しくてワクワクできることをどんどんやっていけたらいいなって思いますね。で、みなさんに「May J.ってこんなこともやるんだ!」って感じていただけたらうれしいですね。(取材・文=もりひでゆき)