WLゴアの創業者であり、ゴアテックスの発明者、ウィルバート・ゴアとヴィーヴ・ゴア

本記事は『アイコン的組織論』(フィルムアート社)からの抜粋。同書に掲載された「アイコン化した強い組織」の知られざる秘密について説明されている箇所を5日連続で紹介する。第3回は防水ゴム「ゴアテックス」を生み出したWLゴア&アソシエイツの強さの秘密について解説する。

ゴアテックスの革新的な民主主義

ゴアテックスは広く知られているが、それを製造している会社がWLゴア&アソシエイツだというのは知らない人がほとんどだろう。だが、例の防水性と透湿性を両立した素材と同じくらい、それを生み出した会社もすばらしい。ゴアは30億ドルの収益を上げ、1万人以上の従業員がいる会社だ。つくっている製品は数千種類に及ぶ。たとえば、デンタルフロスや燃料電池の成分、グラスファイバー・ケーブル、さまざまな特殊素材などだ。

医療用品も製造していて、1300万人以上の心臓病患者が、ゴアのインプラントを使用している。

これだけ多様な製品を扱っていれば、包括的な支配構造を持つ会社がほとんどではないだろうか。だがゴアは違う。管理職が指名されることは、皆無だ。

ウィルバート(ビル)・L・ゴアは、妻ジェヴィーブ(ヴィーヴ)とともに1958年に、ゴア社を立ち上げた。それ以前は巨大化学企業、デュポンで17年間忠実に働いていたが、不満があった。彼はポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロンという名のほうがよく知られている)に可能性を見い出したのだが、上司にはそれが見えなかったようなのだ。

そこで、自分でやってみよう、と思い立った。PTFEの新たな利用法を開発しようとしたのみならず、本当に革新的な組織、従業員が官僚主義やルールに縛られない組織をつくろうと考えた。指名されたマネジャーに従うのではなく、従業員は信頼、同僚からのプレッシャー、そしてよい製品をつくりたいという自らの欲求で仕事をする。


WLゴアは革新的な大動脈用の移植皮片を開発した

結果が生み出す利益を共有する立場

ビル・ゴアは1986年に亡くなったが、目標は達成されたようだ。創業から50年以上が経っているが、同社にはいまだに官僚主義や支配層は見られない。たとえばリーダーは指名されるのではなく、ついていく人がある程度いれば、自然と立ち上がる。CEOであっても、例外ではない。「候補者のリストさえなかったわ。会社のなかで、誰でも好きな人を選んでよかったの」。同社のCEO、テリー・ケリーは言う。「まさか、自分が選ばれるとは思わなかった」。

このシステムは、非常にうまく機能しているようだ。組織が革新的かつ選択的であることにも役立っている。「何かをしようとするのに、一定の人たちを説得できないようなら、そもそも、そんなにいいアイデアではないのかもしれない」と、被膜の専門職のジョン・バチーノは言う。こうして同社には、一種の革新的な民主主義ができあがっている。ただし投票するのは専門知識を持つ人たちで、結果が生み出す利益を共有する立場にもある。

同社のもうひとつの特徴は、どの支社にも、200人以上は従業員がいないことだ。これ以上の人数になると、分割していく。ビル・ゴアはこういう言い方をしていた。「増殖するためには、分かれなければならない」。少人数でいることが、「彼らが決めた」という感覚を避け、「私たちが決めた」という感覚を保つ唯一の方法だと考えていたのだ。そうすれば、全員が責任感を持つ。

責任感の考え方は、財務管理にも適用され、従業員は同社の株を保有することになっている。数年が経つと全ての従業員――「アソシエイト」と呼ばれている――は給与の約10パーセントをゴアの株という形で受けとるようになるのだ。この制度は、はっきりと効果が現れているという。「計画について議論するとき、私たちはいつでも株主価値のことも話題にします」。従業員のジョン・ケネディは言う。

ゴアの経営理念の例を、もうひとつ挙げておく。それは10パーセント・ルールだ。研究者は業務時間のうち、10パーセントを新しいアイデアのために使っていいことになっている。ほとんどの飛躍的な成功は、このプロジェクトから出てきたものだという。ゴアのギターの弦がいい例だ。

弦はPFTE(テフロン)でコーティングされていて、皮膚の油が弦につきにくいため、音質がよい。このアイデアは、あるエンジニアが10パーセントの持ち時間で自分のマウンテン・バイクのケーブルにPFTEコーティングをしてみたことから誕生したという。

ゴアは10パーセント・ルールの先駆けの1社だったが、いまでは同様のシステムを取り入れている会社が増えている。おそらくいちばんよく知られているのはグーグルで、プログラマーに与えられているのは、自分の時間の20パーセントだ。

声の大きい人の意見が通るわけではない


このような組織では、声の大きい人の意見が通るようになるのではないか、と思われがちだ。「実際には、そういうことは起こりません」。人事のアソシエイト、アン・ギリスは言う。「ある工場の技術専門家は、非常に聡明なのですが、口が重いんです。でも同僚たちは、自分たちのためになるのがわかっているので、彼の協力を取り付けるのには時間がかかることを受け入れています」。

確かに、こういうシステムのなかで全員が自分に合う場所を見つけるとは限らない。新入社員の多くは、最初の1年が終わるころに、たとえばあまり指導を受けていないことに悩むという。だが、そこを過ぎると、その後は長年ゴア社で働く人が多い。同社は多くの従業員アワードも受賞していて、毎年『フォーチュン』誌が掲載する、最も働きやすい企業100社の常連でもある。

このように従業員満足度が高く、しかも財務結果を犠牲にしていないところもすばらしい。それどころかゴアは創業以来、毎年利益を上げていて、直近の20年間では収益は3倍になっている。年間5パーセント以上の堅調な成長率だ。ほとんどの同じ規模の上場企業にとって、このように長期にわたっていい結果を出すのは、夢のような話だろう。