歌舞伎町ホストクラブのラスベガス進出案

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新宿・歌舞伎町のホストクラブに外国人女性客の姿が増え始めている。アジアや欧米の観光客などがジャパニーズカルチャーとしてのホストクラブに興味を持ち気軽に訪ねているのだ。外国人にニーズがあると判断したある老舗店は来年、なんとラスベガスへ乗り込む計画を立てた。グローバル化するホストクラブが描く未来とは――。

■歌舞伎町のホストクラブに外国人観光客が訪れる理由

歌舞伎町の新たなランドマークとなった新宿東宝ビルのゴジラ像。ビルの上層階から顔を出している巨大な怪獣の前で立ち止まり、記念写真を撮る外国人観光客も多い。そのビルの裏手に回ると、焼き肉屋やラブホテルなどが並ぶ歌舞伎町ならではの歓楽的な光景が現れ、あちこちに設置された看板からはイケメン達が超然とほほ笑む姿が目に飛び込んでくる。ホストクラブの広告だ。近頃、このホストクラブにも外国人女性観光客が訪れているという。

ホストクラブで外国人観光客を目にするようになったのは、ここ2、3年のことだと、老舗「愛」本店などを展開するグループダンディの広報を務める岳野めぐみさんは言う。

「以前は外国人のお客さまはまれでしたが、今では『愛』本店の1店だけでも月に数組もの外国人女性がいらっしゃいます。地域は中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパだとフランスやドイツや北欧からの方が目立ちますね。みなさん海外メディアのニュースや日本観光ガイドサイトなどでホストクラブの存在を知るそうですよ」

客全体に占める割合はまだ小さいが、確実に増えている。そんな感触もあり、今年の春には、歌舞伎町の繁華街に「愛」本店の多言語広告を出した。愛本店の人気ホスト4人の姿と「ようこそ歌舞伎町」という日本語が金色に輝く。彼らはそれぞれ真っ赤なプレートを掲げており、その中には英語、中国語、フランス語、タイ語で書かれた「ようこそ」が躍る。

▼実は海外には「ホストクラブはない」

実は海外にはホストクラブという業態はほとんどない。タイには男の子と一緒に飲める店はあるが、日本のシャンデリアがキラキラ輝くようなゴージャスな雰囲気とは違い、ショーパブのような感じが多いという。韓国や中国には日本のホストクラブと同じような店ができたが、どこも高額で、富裕層専用の場所となっているそうだ。

日本のホストクラブのほとんどの店には、初回料金というものが存在する。初回数千円程度で2時間ほどを過ごすことができるのだ。なぜこのようなものがあるかというと、その時間で気に入ったホストを見つけてもらうためである。話が合う、ルックスが好み、など、女性がホストの中の誰かに運命を感じたら、次回からは指名客となる。

つまり初回は顔見せ代なのである。このリーズナブルな設定が、外国人女性客にもウケている。観光気分でふらりと立ち寄ることが可能な額だからだ。

女性をだましてホストがお金を巻き上げるというホストクラブのイメージは、いまだに根強いかもしれない。しかし、実際にはそんなところではないことは、何度も通っている私は断言できる。

夜に女性が一人で飲んでくつろぐことができる、数少ない場所なのだ。前述の岳野さんも「男性並みに働いて稼いでいる女性のいこいの場や社交の場になっています」と語る。ホストクラブを接待の場として使う女性社長も年々増えているという。

■外国人女性客にとってホストクラブは「カルチャー&観光地」

私がホストクラブに通う理由は、「最先端のカルチャー」がそこにあるからだ。例えば、今や街のお兄さんも着るサテン風の浴衣は、彼らが真っ先に七夕イベントで使い始めたと記憶している。私は『男おいらん』という舞台の脚本を書いたが、それも元々はホストクラブのバースデーイベントでナンバーワンホストが花魁の格好で登場したのを見て、ピンときたからだった。ホストクラブはカルチャーの発信源にもなっているのである。

ホストクラブに来店する外国人女性客の中でも、フランス人はカルチャー目当てであり、彼らのファッションチェックに忙しいという。あちらでも日本のホスト風ファッション誌『メンズナックル』が話題で、ホストはおしゃれで流行に敏感な存在だということが知られているのだ。

「海外のお客さまはホストクラブをひとつのエンターテインメントの場だと感じている方が多いですね。例えばメイド喫茶は外国でもウケがいいんですが、ホストクラブもそうしたジャンルの店だと考えられているのかもしれません。一部の中国の富裕層のかたには大盤振る舞いをいただくこともありますが、多くのお客さまは観光が目当て。日本のマンガに出てくるホストのようなスイートな振る舞いを期待されているようです」(岳野さん)。

▼なぜ世界の女性はホストクラブに癒やされるのか?

ホストクラブを「イケメンカフェ」と混同している人がいるかもしれない。イケメンカフェにはオプションで「壁ドン」サービスなどがあり、来客は少女漫画の主人公になったかのようなシチュエーションを楽しむことができる。しかしホストクラブの神髄は、イケメンがシャンパンコールなどの芸をすることではない。

女性の話をよく聞き、心の中の寂しさを癒やしたり、頑張った女性を褒めて認めたりすること、つまりディープなコミュニケーションに、客は対価を支払っているのだ。今やホストクラブのホストたちは「色恋営業」をあまりしない。

タバコを吸わず、お酒も全く飲まないホストが次々にナンバーワンになっている。女性を酔わせて甘い言葉で口説き、高額のボトルを入れさせるというような営業スタイルは、一昔前のこととなりつつあるのだ。

とはいえホストたちの収入は指名客が支払った金額によって決まる歩合制であることが多い。だから、彼らはまず女性客に気に入られ、指名を獲得する必要がある。しかし外国人客はほとんどが初回料金のみで帰国してしまう。誰を指名するわけでもないので、このままではホストとしてはあまり利益にはならない。ここが今後の課題のひとつとなっている。そしてもうひとつのネックは語学力だ。

■グローバル化するホストクラブ ラスベガス進出計画も

現在、ホストたちは外国人客とはスマートフォンに入れている翻訳アプリなどを使って日本語を英語に変換し、それを見せ合いながら会話をしているという。帰国子女のホストもわずかに在籍してはいるが、ほとんどのホストは英語が得意ではない。ホストクラブは会話を楽しむところなので、いちいち翻訳をしなくてはコミュニケーションが取れないのがお互いにもどかしいという。

実は、グループダンディでは、来年ラスベガスにホストクラブを出店する計画がある。聞けば、詳細はまだ非公表だが日本のホストクラブと同じく日本人ホストを在籍させるという。ターゲットは外国人女性で、日本のホストクラブよりもショーアップさせる予定だ。

海外進出を控え、昨年より、まずは幹部の英会話レッスンも始めている。

「彼らはだいぶ話せるようにはなりましたが、接客はあまりしていないので、今後は現場の若手ホストたちの英語力強化を検討しているところです。ホストクラブの料金やシステムが独特なので、説明を英語でするのはなかなか難しいのです」(岳野さん)。

▼アジア圏からのリピーターを狙う

もちろん、国内の既存店舗でも外国人客獲得作戦を展開していく。前出・岳野さんが今後期待しているのは、中国・韓国をはじめとしたアジア圏からのリピーターだ。欧米は遠いので再来店は難しいが、アジア圏なら、十分に飛行機で通える距離だという。それにアジア圏の女性のほうがホストクラブを自然に楽しめるそうだ。

欧米人男性は元々レディーファーストで男性に優しくされることが当然なので、ホストに尽くされてもそれほど感動はしない。男性が威張っている国の女性のほうが、ホストの優しさに感激するのだという。

■京都のホストクラブでも外国人客が来るようになった

ホストクラブの醍醐味は、本来、男女の機微の味わいであったはずだ。指名することで自分とホストの間には特別な関係性が生まれる。以前まではそれが恋愛感情に発展することも多かったが、近頃はそこまで深い仲を望んでいない女性客も多い。

仕事で忙しく彼氏もいない、そんな時に女子力を落とさないために利用するなど、合理的にホストクラブを使い、自分が行きたい時に訪れる人たちだ。まるで恋人であるかのような毎日のLINEのやり取りも、仕事が忙しいから不要というクールな客も少なくないという。

▼世界中の働く女性がホストクラブで遊ぶ時代

今までは、指名ホストの売り上げのためにと無理をして高額な支払いを抱える女性の姿が目立った。しかし最近は、お金は自分のために使うという女性客が出てきている。

仕事で成果が上がったからシャンパンを開けるというような、頑張った自分へのお祝いとしてプレミアムな時間を楽しみたがる人たちだ。バリバリ働く女性たちと会話を合わせるために、時事問題に関心を持つホストも増えている。今後、トップホストは銀座のホステスのような才色兼備タイプに変容していくのではないだろうか。

外国人女性客が見ているものは、まだまだホストクラブのほんの入り口部分のようだ。けれど、その魅力が彼女たちに知れ渡るのも時間の問題かもしれない。京都のホストクラブでも外国人客が来るようになったという話を聞いている。外国人女性が日本のホストクラブで遊ぶ楽しさを覚え、自分へのご褒美タイムのために再来日を目指す。そんな姿が見られる日は、そう遠くはないのかもしれない。

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内藤みか
作家・脚本家・イケメン評論家。脚本を担当したラジオドラマ『婚活バスは、ふるさとへ』(YBS)が文化庁芸術祭優秀賞&日本民間放送連盟賞優秀賞。『夢をかなえるtwitter』『男おいらん』『数学しかできない息子が早慶国立大学に合格した話。』など著書80冊以上。ケータイ小説時代から電子書籍を愛好し、電子での自著も多数。Twitter:@micanaitoh

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(作家・脚本家・イケメン評論家 内藤 みか 画像提供=groupdandy)