『今日も一日、楽しかった』(あべけん太/朝日新聞出版)

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 近年、晩婚化、晩産化が進む中で、高齢出産のリスクが盛んに取り沙汰されるようになった。それに伴い、「生まれてくる子に障害があったらどうしよう」と悩むプレママが増えている。2013年には、母親から血液を採取するだけで赤ちゃんのDNAを検査することができる「新型出生前診断(NIPT)」が国内の病院で導入され始め、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症)などの染色体異常の有無が高い確率でわかるようになった。検査を受けることで、目に見えない不安が解消されるプレママもいるだろう。でも、この検査により子に障害があるとわかった時、妊娠を継続するのか否か、という選択を迫られることになるのもまた事実だ。

 では、障害を持って生まれてきた子供は不幸なのだろうか? その問いに思い切り「NO」を突きつける一冊が、『今日も一日、楽しかった』(あべけん太/朝日新聞出版)だ。著者のあべけん太氏は、ダウン症児としてこの世に生を受けた。自らを「ダウン症のイケメン」と呼び、IT企業の総務部で働く傍ら、NHK Eテレの障害者情報バラエティ番組『バリバラ』などでタレントとして活躍している。障害を持っていても、自分は毎日ハッピー。それを知ってほしくて、今回本を出すことにしたという。

 本書では、著者の趣味についてのことや、これまでの人生でうれしかったことや悲しかったことがランダムに語られていく。「お酒が好きだけど、健康のために休肝日を作るようにしている」「巨乳好きで、壇蜜をモデルにヌードの絵を描いた」こうしたエピソードからは障害の重さは一切感じられない。私たちの周りにいる健康な30歳男子の日常そのものだ。「運転免許を取得するために、学科試験を55回受けた」など、障害を持ったことでぶつかる壁も、著者が語ればどことなくほんわかしたポジティブなエピソードに変わる。

 そんな底抜けに明るいダウン症のイケメンも、「出生前診断」や「相模原障害者施設殺傷事件」については怒りと疑問の声をあげる。障害者情報バラエティ番組『バリバラ』の中で、出生前検査について医師や妊娠中の母親に街角インタビューをする旅に出たこともある著者。自分はこんなに生まれてきて幸せなのに、検査で異常があったら妊娠継続を希望しないことについて、どうしても解せないという。

「障害者がこの世からいなくなればいいという考えには反対です。(中略)障害者だって、仕事もできるし、ビールも飲めるし、みんな元気で頑張ってるんですよ。本当に腹が立ちます」

 出生前診断を受けるか否か。検査で生まれてくる子に障害があるとわかった時、妊娠の継続をするか否か。選択は人それぞれで、きっと正解はないのだろう。でも、障害を抱えながらも心から人生を楽しみ、自分は幸せだと断言する「ダウン症のイケメン」の存在を知れば、とても「障害を持っているから不幸」などとは言い切れないはずだ。障害の有無にかかわらず、ハッピーな人生にするかどうかは自分次第だと著者は教えてくれる。

「もし障害がなくなる『禁断の実』があったとしても、僕はまったく食べたくないですね。食べたら『ダウン症のイケメン』じゃなくなりますから」

 きっと著者の本音であろうこの言葉が、力強く胸に響いた。

文=佐藤結衣