いきなり大きな成果が出せるワケではありません(写真:kikuo / PIXTA)

「このまま営業という仕事を続けていていいのかわからない」

若手の営業マンからよく受ける相談の1つです。夢や目標に向けて日々努力しているなかで、誰しもが「同じ場所をぐるぐる回っていて、まったく前に進んでいない」と感じることがあるのではないでしょうか。自分の成果や進化が感じられないときに落ち込んでしまうのは、人間として当然です。

でも、本当に前に進んでいないのでしょうか? 私はそうは思いません。拙著『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』でも述べていますが、それは「螺旋階段」を上っているだけなのです。

確立されたメソッドを堅実な方法で実践し続けていれば、自分自身に必ず変化が生じるはずです。しかし、それを実践している日々を切り取ってみれば、地味な1日の繰り返しでしかありません。いきなりこれまでの10倍、100倍の成果が出せるわけではなく、1%、2%の調整を行い続けることで、結果的に大きな結果が伴うのです。

「景色が似ているので気づかない」かもしれませんが、努力を続けているうちは1段ずつ確実に螺旋階段を上っています。そして久々に下を見たときに、「自分はこんなに高いところまで来たんだな」と気づくはずです。

成長は「2乗」で起きる

一見地味な仮説と検証を繰り返すことによって、人は加速度的な成長を手に入れることができます。

それは営業でいえば、技術やノウハウの改善の積み重ねの結果、1つの案件の成功率が飛躍的に高まることを指します。しかし、その積み重ねはさらにもう1つ、別の角度での成長の加速も引き起こすのです。

努力の結果、少しずついい成果が表れるようになると、ときおりいままでの自分では出合わなかったような、1ランク上の仕事を紹介されたり、任されたりするようになってきます。身近な例でいえば、「社内でも上の役職の人しか担当してこなかったような大口の案件を任される」であるとか、「英語を話せないのに、海外の営業所に出向しないかという相談を受ける」といったことです。

惰性で仕事を行ってしまっていると、こうした転機に対して、「いやいや、私みたいな者がそんなお仕事なんて」と、ついひるんでしまうでしょう。しかし、努力と改善を積み重ねた人間であれば、自分の成長を信じて難易度の高い仕事を引き受けることができます。これはとても大きな分岐点なのです。

というのも、実際に1段階上の仕事を受けると、これまで見えてなかったような、新たな自分の短所や長所、そして課題が見えてくるようになります。すると相対的に、以前よりも量も質も高い努力を重ねることになるわけです。

私はといえば、野村證券での入社1、2年目の頃と3年目以降とでは、担当する顧客が大幅に変わりました。それまで気づかなった証券・金融の知識の甘さや、経営・ビジネスに関する自分の視野の狭さに愕然とさせられました。

だからこそ、そうした勉強に対して人一倍まじめに取り組むことができたのです。それが普通になる頃には、自分自身のレベルも上がり、また上のレベルの仕事が紹介されるようになります。継続した努力は、こうして「2乗」の意味での加速をもたらしてくれるのです。

「魔の2年目」を乗り越えるには

ご存じの方も多いかと思いますが、営業の世界には「魔の2年目」という言葉があります。1年目は順調に新規開拓ができていたのに、2年目に急ブレーキがかかる現象のことです。

野村證券時代、私と仲のよかった同期の営業は、初年度は全国の同期のなかで3位の好成績を残しましたが、2年目で急に契約が取れなくなり、それを重く抱え込みすぎて本格的なスランプに陥り、3年目で退職してしまいました。

なぜ彼は2年目で急ブレーキがかかったのでしょうか? その理由は、量と質の関係で説明できます。

野村證券では、初年度の新人に求められるのは新規開拓と預かり資産の増加の2点だけです。それゆえ、質が多少悪くても、気合いと体力で誰よりも量をこなせば、ある程度の結果は残すことができます。

そこで出した結果に比例して、2年目からは既存顧客の対応に追われるようになります。すると喫緊の課題は既存顧客の要望を満たすことになるので、新規開拓が後回しになり、訪問件数が減り、見込み顧客の管理も煩雑になります。その結果として、1年目に新規開拓件数が多かった者ほど、営業成績ランキングの上位から消えてしまうのです。

少し考えれば当たり前の話なのですが、これが売れる営業がよく直面するジレンマなのです。

こうした事態を避けるために、量だけで結果を出せていたとしても、1年目のうちから質の改善を意識的に行う必要があります。それは自分の時間を効率的に使うためのPDCAかもしれないし、リストの質を上げることかもしれません。

このように量と質の両軸の改善をしていかないと、既存顧客が増えたり、もしくは部下を持ったりして、いままでどおりの量をこなせなくなったときに仕事がオーバーフローしやすくなってしまうのです。

講演などをすると、若手の営業マンからたまに「どうやったら短期間で成長できますか?」と聞かれることがあります。この質問にはいつも「インプットとアウトプットを繰り返すこと」と返しています。

業界の知識を学んだり、コミュニケーションテクニックを本で読んだりする定期的なインプットは多くの人がすでに実践していることでしょう。一方、定期的にアウトプットしている人には滅多に会いません。たとえば、本で学んだ知識や先輩に教わったことを現場ですぐに使ってみるのも立派なアウトプットです。たまに思い出せなくてしどろもどろになったとしても、定着したか検証しているだけなので気にすることはありません。

この点、テレアポや飛び込み営業はアプローチ件数が多いので、アウトプットの絶好の機会といえます。アウトプットした結果を深掘りすることで、それまで気づかなかった課題が見え、その解決策を見つけ出すことができるようになるのです。

人のモチベーションが著しく下がるタイミングとは、課題がわからないときか、課題がわかっても打ち手がわからないときと相場が決まっています。契約が取れなくて一瞬凹むこともありますが、それは大した問題ではありません。

五里霧中に陥ったときこそ、本当につらいのです。それを防ぐためには、絶えず問い続けることが必要です。インプットとアウトプットを繰り返し、定期的に思考を言語化することがその有効な手段になります。

苦手な分野も「好きではないけどなんとかなるレベル」に

当たり前のことですが、人は誰しも苦手な分野を持っています。そこから逃げるのも1つの手ですが、苦手なら意識的に理論武装をして「好きではないけど、なんとかなるレベルにしておく」という姿勢のほうがより生産的です。

たとえば、「初対面のときにいつも緊張するので飛び込み営業がつらい」というなら、初対面でもなんとかなるレベルにするため、何かしら鉄板トークのネタを持つと効果的でしょう。

私は27歳のときにウェルスマネジメント(資産管理)を学ぶため、シンガポールのビジネススクールに留学しました。ただ、半分は仕事も兼ねていて、東南アジア諸国の金融機関の幹部、現役プライベートバンカー、そして富裕層とのネットワーク構築という重要な使命も担っていました。

とはいえ、英語を流暢にしゃべれなかった私は初対面で自己紹介をすることが大の苦手でした。しかし、自己紹介ができなければネットワーク構築など到底望めません。そこで私は留学して間もないある週末、自分のあらゆることについて一方的に説明できる自己紹介文を書いたのです。いまふうに言えば、起業家が30秒間でビジネスモデルをプレゼンできるようにするという、「エレベーターピッチ」を考えるようなものでしょうか。

ただし、私の書いた「台本」は、最初から最後までしゃべれば15分かかる長文でした。仕事のことやプライベートのこと、自分の過去や目指す夢。初対面のときに相手から聞かれることがあった質問をすべて網羅するくらいの気持ちで台本を書き、ネイティブチェックもしてもらい、それを丸暗記しました。結果、これをつくったおかげで名刺交換の心理的なハードルは劇的に下がりました。

さすがに15分間しゃべり続けることはありませんでしたが、想定問答集をつくったようなものなので、どんな質問にもすぐに答えることができました。

初対面の鉄板トークくらいなら、本やネット記事を本気で調べればいくらでも得られます。過去にうまくいった自己紹介のケースの振り返りもして、最適と思われるものを組み合わせれば、半日かせいぜい1日もあればできるはずです。

でも、多くの営業マンはそれすらやらないのが現状ではないでしょうか。「サザエさん」を観ながら「あぁ、明日からまたテレアポか」と憂鬱な気分になるか、もしくは「ストレス発散」と称して思いっきり遊びたおす。それでは根本的な課題解決になりません。

人の成長を決めるのは月日の流れではなく、インプットとアウトプットをどれだけ繰り返したか、この1点のみなのです。

モチベーションを高める「セルフトーク」とは?

ここまで継続することの重要性について述べてきましたが、そのモチベーションを維持するにはどうすればいいのでしょうか。この場合、「セルフトーク」が非常に有効な手段になります。

セルフトークとは、自分の目的・目標意識のレベルを高める仕組みです。

具体的な例でいえば、私は毎朝自分の目標を鏡の前で唱えていました。また、家に帰れば振り返りの時間を取り、自分と対話をしながらPDCAの回し方について考えました。また、毎月の数字目標を携帯電話の暗証番号に設定していたこともありますし、社会人2年目の頃はMBAの取得が目標だったので、1日の朝昼晩に「今年中に3年目までの全社員のなかでトップセールスとなり、2年後MBA留学に行くためのチケットを手に入れる」とリマインドされるようアラームを設定していました。

やや暑苦しく見えるかもしれませんが、これくらいの仕組みを用意すれば、モチベーション維持に大きく役立つものです。

営業は、頭も使えば身体も使い、数字も達成しなければならない大変な仕事です。なかには避けたい業務、面倒くさい業務もありますが、それもこなさなければなりません。そうした嫌なことはモチベーションを大きく下げてしまいます。だからこそ、「日々の業務が自分が本当に叶えたい目標につながっている」と絶えず意識することが、継続的な努力のコツなのです。


達成したい目標があるのなら、それを目的とセットで身体に染み込ませておくことが重要です。しかし、セルフトークは自分を「追い込む」ためのものではなく、あくまでも「モチベート」するためのものです。

人によっては、日々努力を続けるための原動力は家族の存在かもしれません。結婚していたり子どもがいたりする人が、スマホの待ち受けに家族写真を設定するのも、もちろん広義のセルフトークの一環です。あるいはその画像が自分の好きなアイドルや俳優であることもあるかもしれません。

他人への感謝や生きる目的などは、人は想像以上に簡単に忘れてしまうものです。だからこそ、目標を思い出させ、身体に染み込ませるための仕組みを用意することは、大きな効果を持つのです。