自民党の衆院選での大勝は、米国でも大々的に報じられた。

 その報道を見ていると、米側のメディアや日本専門家の最大の関心は、安倍首相がこの大勝を踏まえて憲法改正をどう進めるかに向けられているようである。この点、自民党が改憲を公約に掲げながら選挙戦ではあまり前面に出さなかった姿勢とは、面白いコントラストを描いているといえるだろう。

 米国では、安倍氏の勝利は米国のトランプ政権にとっても力強い支えとなり、対北朝鮮政策に反映されていくという見方も生まれている。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

安倍首相の政治手腕を評価

「安倍首相は総選挙で圧倒的多数を確保し、憲法の改正を進めることになる」――。

 ワシントン・ポスト(10月23日付)はこんな見出しの記事を大きく掲載した。この記事は、まず今回の選挙結果の意義をこう記す。「与党は圧倒的多数(スーパーマジョリティー)を獲得して、平和主義的な憲法の改正に前進することが可能になった」

 同記事はまた、「この結果は安倍氏の政治的に巧みな技量を明示し、スキャンダルや支持率のブレにもかかわらず、日本の政治では持続的に強い存在であることを証明した」と安倍首相の政治手腕を評価し、大手研究機関「外交評議会」の日本研究者シーラ・スミス氏の「この圧倒的多数派獲得は安倍氏のリーダーシップへの本当の承認だ」というコメントを紹介していた。

 そして同記事は、今回の選挙の結果、安倍首相にとって念願の憲法改正を実際に推進できる態勢が固まったと強調し、次のように述べていた。

「安倍氏は戦争を放棄する憲法9条を改正し、日本の軍事力に関する曖昧さを取り除くことを長い年月、求めてきた」

「保守派の多くは、憲法改正の早期実現を求める一方、有権者の多くはなお懐疑的のままである。日本の隣国の韓国と中国も、改憲は日本を再び軍国主義的にするかもしれないとして神経をとがらせている」

日本国民の“恐怖感”が安倍首相の主張に合致?

「ワシントン・タイムズ」も10月23日付の長文の記事で、憲法問題を提起していた。記事の冒頭には次のような記述があった。

「安倍晋三首相の率いる与党は歴史的な勝利を収め、日本を平和主義的憲法の改正へと近づけることとなった」

 ここで注釈をつけるべきは、ワシントン・ポスト、ワシントン・タイムズの両紙が日本の現憲法の描写として使った「平和主義的(パシフィスト:Pacifist)」という言葉である。この言葉は平和(Peace)とは異なる。パシフィストは「不戦」とも訳され、消極的、無抵抗という意味でもある。つまり、「自国が攻められても戦わない」という意味も込められており、米国では決して褒め言葉ではない。日本側の一部で使われる「平和憲法」というスローガンとはニュアンスも意味も違う言葉なのだ。

 上記のワシントン・タイムズの記事は、以下のように日本国憲法の由来についても説明しながら、安倍首相にとって今回の総選挙が念願の改憲を成し遂げる絶好の機会となったと論評する。

「安倍氏の勝利は、核兵器の開発を進め日本を海底に沈めるという脅しをかける北朝鮮の深刻な脅威にも原因があった。日本国民の恐怖感は、憲法9条の改定を長年求めてきた安倍氏の主張にぴったりと合致したようである」

「終戦直後に米国占領軍によって与えられた憲法9条は、戦争の完全な放棄と、日本の軍事力を防衛のみに厳しく制約することをうたってきた」

「安倍首相の党とそのナショナリスト的な支持者たちは、日本の現憲法を第2次大戦での敗北の遺産であり、日本の近代工業国家としての完全な復活への障害とみなして、長い間、改正を求めてきた」

 こうした記述からは、ワシントン・タイムズが日本の憲法改正は望ましいと見ている様子が感じられる。いずれにしても、今回の総選挙が日本の憲法改正につながりうるという点を重視する論評となっている。

トランプ政権にとっても大きな支えに

 米国の報道では、日本の今回の総選挙がトランプ政権にとっても大きなプラスだとする見解も目立った。その典型が前述のワシントン・タイムズの記事である。見出しには、以下のような記述があった。

「『信頼されるトランプの同盟者』安倍晋三が、北朝鮮問題などを議題にする日米首脳会談の前に国民の信託を得る」

 トランプ氏にとっての今回の衆院選の意味は、以下のように説明されていた。

「ホワイトハウスは、安倍氏の勝利を歓迎している。安倍氏はトランプ氏との間で個人的な絆を築き、北朝鮮に対するトランプ氏の、ときには攻撃的なスタンスを一貫して支持する『信頼されるトランプ大統領の同盟者』として知られるからだ」

 同記事はその論拠の1つとして、ブッシュ元政権のアジア上級部長を務め、日本でも広く知られるマイケル・グリーン氏の次のようなコメントを紹介していた。

「安倍首相の総選挙での決定的な勝利は、まもなく開かれるトランプ・安倍会談をスムーズに進めさせるだろう。2021年まで政権を担当する可能性のある安倍首相の強固な政治的基盤が、トランプ大統領の対北朝鮮政策の誇示に説得力を与え、トランプ外交全般に寄与することも考えられる」

 以上のように米国側、とくにトランプ政権では、日本の総選挙結果を大歓迎しているようである。

筆者:古森 義久