制約のある人もそうでない人も、みんなが働きやすい環境を作るには?(写真:Elnur / PIXTA)

ダイバーシティが叫ばれるようになり、実際、育児や介護など「制約のある人」がさまざまな職場で増えています。そこで問題になっているのが現場に充満する「不公平感」。「自分は長時間労働をしているのに、あの人だけズルい」などと、頑張っている人の不満が大爆発することも。
いったいどうしたらいいのか。『「残業だらけ職場」の劇的改善術』の著者であり、自らも多くの「制約のある社員」たちと仕事をしてきた清水久三子氏が、多様な人たちと働く際の考え方についてご紹介します。

「制約社員」が普通の世の中になる


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日本のさまざまな職場で「ダイバーシティ」が叫ばれるようになりました。さまざまな事情を抱える人が当然のようにいる中で、チームとして高い成果を出していく――。言うのは簡単ですが、「そんなきれい事」と抵抗を感じる人が多いのも実情でしょう。

しかし、そうも言っていられない状況もあります。少しマクロの話になりますが、日本が今「人口オーナス期」に入っているからです。

人口オーナスとは、人口構成が経済発展にとって重荷となった状態を指します。少子高齢化が進み、働くことのできる生産年齢人口が急減すると同時に、高齢人口が急増する事態のことを言います。こうなると経済や国力をどのように維持していくかが大きな課題となります。

人口オーナス期に入った国や地域が、経済成長を維持するための重要課題は大きく3つ。1:社会保障を整備し、2:女性や高齢者の雇用を促進して労働力を高め、3:労働投入が減少しても生産性向上により成長を維持していく。この3つです。こうした背景から、生産性の向上や女性活躍など、働く人の多様化が必然となってきているのです。

こうした流れから、今後さまざまな制約条件を持つ人が働くことが普通になっていくわけですが、日本はこれまで単一民族、終身雇用と流動性の少ない社会でもあり、多様な人材が働くには環境も意識も準備万端とは到底言えない状況です。

私は長年外資系企業でコンサルタントとして働いてきましたが、2008年に育休を終えて復職したとき、私が任された人材開発部門はまさに多様性あふれる状況に置かれていました。

十数名のメンバーは全員、小さい子どもがいたり、メンタル疾患を抱えていたり、介護負担を抱えているなど、仕事をするうえでの制約がありました。長時間の残業をさせるなどもってのほかです。さらに言えばリーマンショックの余波を受け予算が減らされ、人員は以前の半分以下。

このチームを率いて、いかにハイパフォーマンスを達成し、部門として価値を出していくか。著書でも紹介している時短と効率化の技術の何割かは、このときの苦闘の中で身に付けたものです。

程度の差はあっても、現在はあらゆる職場で人手は不足しているでしょう。育児や介護、本人の健康状態といった事情を抱え、これまでどおりの働き方ができない制約社員もますます増えていくでしょう。だからといって、一部の制約のないメンバーが長時間労働を続けてチームを支える、というやり方は通用しません。故障者がいっそう増える悪循環に陥るだけです。

制約のある人も、そうでない人も、全員ができることで力を発揮してチームとして成果を出す。そのために、メンバーが働きやすい環境をつくらなくてはいけません。そしてそれは、長時間労働の問題を解決できる環境でもあるはずです。

では、さまざまな事情や能力を持つ多様性のある人たちと働くためにどんなことを考えたらよいのか。実際に私がやってみたことも含めてご紹介していきます。

意外と知らないダイバーシティの2類型

その前にそもそも多様性とは何かを考えてみましょう。今よく言われているダイバーシティ経営は女性活躍推進という意味で使われることが多いようですが、実は多様性には2種類があるということを理解しておく必要があります。

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生によれば、「タスク型のダイバーシティ」と「デモグラフィー型のダイバーシティ」があるということがわかってきたそうです。

タスク型は、能力や経験や知見など、目に見えない価値が多様化すること。デモグラフィー型は、性別、国籍、年齢など目に見える属性が多様化すること。

一言でいってしまうと、「能力の多様性」と「事情の多様性」ということになるでしょう。

経営学の研究によれば、タスク型ダイバーシティを持つ組織はそれが成果にプラスに働きますが、デモグラフィー型ダイバーシティはマイナスの効果をもたらす可能性が高いということがわかってきました。

理由の1つは性別、国籍、年齢など見た目だけに多様性があっても、必ずしも能力や知見や経験が多様化するわけではないこと。2つ目は、人間はどうしても心理的に見た目で判断することは避けられず、相手の能力の前に性別や国籍や年齢といった目に見えるもので無意識のうちに区別をしてしまうためです。

この違いを理解しておかないと、多様性を活かすどころか、まったく混じりあわずに組織やチームが分解しかねません。事情の多様性は個人の制約につながっていることも多いため、注意が必要ですし、能力の多様性は価値観が共有されていなければシナジーを生むことがないからです。

日本企業は単一民族で終身雇用という長い歴史もあり、デモグラフィー型ダイバーシティは世界に比べてかなり遅れをとっているのは皆さんご存じのとおりです。ではさまざまな事情の違いを乗り越えていくにはどうしたらいいでしょうか。施策の例をいくつかご紹介します。

事情がある人との働き方 「私のトリセツ」

「制約社員」が多いチームでは、メンバーの事情に合わせて配慮をする必要があります。その一方で、限られたリソースで仕事を回していくためにやるべきことはやらなくてはいけません。無理をさせないようにしつつ、生産性を上げなくてはいけないのです。

これは、制約社員が多いかどうかにかかわらず、限られた人数で長時間労働を脱却しようとしているチームは、この課題を解決する必要があります。

そこで、まず必要なことは、チームのメンバーについてよく知ること、メンバーがお互いを知ることです。

そのために導入したのが、「私の取説(トリセツ)」という方法でした。これは、自分がどんな事情を抱えていて、どんな配慮をしてほしいのかを、チームのみんなの前で明らかにするというものです。

たとえば、Aさんは、お母さんの介護をしているので基本的には○時までに帰宅しなくてはいけない。

Bさんは、通院があるので月に1回どうしても出勤できない日がある。

Cさんは、子どもが小さいので、急病で休むことがある。

ポイントは、配慮してほしい事情を明らかにしてもらうと同時に、どういう貢献ができるかも表明してもらうことです。たとえば、「ケアワーカーさんが来てくれる水曜日は遅くまで仕事ができる」「1週間前に言ってもらえば終業後の勤務も可」といったことです。

「こういう事情があるから配慮してほしい」というだけだと、カバーに回るメンバーの不公平感が強くなってしまいます。だから「これならできます」ということもセットにする必要があるのです。

「私のトリセツ」を実施して、それまで職場にあったギスギス感はかなり解消されました。

事情がよくわからないままに「Aさんの仕事なんだけど代わりに頼む」と仕事を振られるのと、Aさんの置かれている状況を知ったうえでカバーするのとでは、納得感がまるで違います。

みんなが一斉に自分の事情を明らかにし、共有することで、「みんな大変なんだね」「お互いに助けあおう」という雰囲気も生まれました。

貢献を共有する

お互いに制約をカバーしあう、とはいっても、実際には制約のない人、制約の小さい人の仕事量と貢献度が大きくなることは避けられません。遅くまで仕事ができる一部の社員に仕事が集中すると当然ながら不満も出てきます。不公平感を評価で解決する方法は、評価の権限を持っていなければできない、と思われるかもしれません。しかし、たとえ権限がなくてもできることはあります。

たとえば、チームメンバーの仕事量、貢献度を数値化して共有するという方法です。

私の部門では、社員1人ひとりのイベント担当数や研修の満足度などを定例会議で共有していました。また、定例会議の報告フォーマットに「サンキュー欄」という項目を設けて「今週のPM研修ではAさんに受講促進を手伝っていただきました。ありがとうございます」など、その週に誰に助けられたかを記入するようにしたのです。こうすると、誰が頑張っているか、誰に助けられているかが可視化されます。貢献度が高い人は、チームの中でしかるべき評価を得ることができるわけです。


自分の貢献をほかの人が知ってくれ、認めてくれているとわかっているだけでも、不公平感はかなり和らぎますが、四半期に1度は表彰などでより目に見える形にしてもよいでしょう。その場合も単に売り上げなどの結果指標だけで表彰者を決めるのではなく、業務の効率化など生産性の指標も加えると、制約のある人でも貢献意欲が高まります。

今後、どの職場でも制約を抱える社員は増えていきます。それぞれに事情がある以上、貢献度に差が出るのは仕方がありませんが、不公平感を取り除く必要があります。「私の取説」と貢献度の数値化・共有をうまく活用して、全員が自分なりのハイパフォーマンスを発揮できるチームをつくりましょう。それは、人手不足を言い訳にせず、全員が定時で帰れるチームをつくることにもつながるはずです。