W杯開幕日の2年前イベントがSHIBUYA 109前で開催。この日からW杯の優勝カップが全国を回っている(写真:NOBUHIKO OTOMO)

「お前の国でワールドカップやるまであと2年だよな……。もう、ヨコハマに行くプランを立てているよ!」


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9月下旬のある日、ロンドン東部にある会社に行ったらいきなりそんな声をかけられた。そう、日本でラグビーW杯が開かれるまで、あと2年という節目をすでに超えている。

英国だけでなく、オーストラリアやニュージーランドなど、ラグビー強豪国に住む日本人のもとには、早くも「再来年の秋には日本に連れて行ってほしい」「ラグビーを見に一緒に行こう」といった誘いが聞こえてきているはずだ。

今から2年先のことを気にかける彼らの中は、「決勝トーナメントの約1カ月間、現地に滞在する」、あるいは「W杯の期間中、開催国でずっと応援する」といった驚異的なファンもいる。だから、少しでも早くから「休みの期間」を周りにネゴる必要があるわけだ。

ファンは日本でのラグビーの祭典に心を躍らせている

アジアで初めて開かれるラグビーW杯は、2019年9月20日に味の素スタジアムでの開幕戦で熱戦の火ぶたが切られる。決勝戦は11月2日に横浜の日産スタジアムで行われる運びだ。

2011年の東日本大震災で被災した岩手県釜石市も開催地のひとつで、津波で大きな被害を受けた三陸海岸沿いの鵜住居(うのすまい)では現在、スタジアムの建設が進められている。

ホスト国となる日本は、前回の2015年イングランド大会で優勝経験のある南アフリカに勝ち、「スポーツ史上最大の奇跡」「ありえないジャイアントキリング」などと世界を大いに驚かせた。そんな追い風もあり、海外のラグビーファンの間では、「ジャパンの活躍をこの目で見てみよう」「W杯を機に、遠くて行く機会がなかったニッポンへ行ってみよう」と日本でのラグビーの祭典に心躍らすのも無理はない。

改めて、ラグビーW杯とは何なのだろうか。ここで、日本大会の概要とともに復習しておこう。

・1987年から4年に1度開催
・出場20カ国が、4つに分けられたプールで5チーム総当たり戦を行う
・各プール上位2チームがベスト8となり、決勝トーナメントへ
・最多優勝は「オールブラックス」の愛称を持つニュージーランド(3回)
・オーストラリアと南アフリカが各2回、イングランドが1回それぞれ優勝
・ラグビー伝統国ではない国での実施は日本大会が初めて。アジアでも初となる

イングランド大会で日本代表は南アをたたきのめしたあと、次戦のスコットランドには苦杯をなめさせられたが、その後サモア、アメリカに勝ち、W杯初の1大会3勝という大きな成果を得た。得失点差で決勝トーナメントには進めなかったが、それまでW杯の本戦でわずか1勝しかしていなかったアジアの弱小チームが一気に世界のステージで脚光を浴びた意義は大きい。

ジャパン、強豪国に相手として認められる

そんな進化もあり、これまでまったく見向きもしなかった強豪国が次々と日本代表との試合日程を組むようになった。ティア1と呼ばれるラグビー伝統国が、「ジャパンとの代表戦は十分見応えがある」と価値を認めたこともあり、次々と対戦を組む動きが出てきたのである。これは、イングランド大会以前にはほとんどなかったことだ。

ラグビーの世界では、テストマッチと呼ばれる国際試合は毎年6月と11月のわずかな期間に組まれるのみで、「2〜3年先まで予定が組まれ、割って入るのはほぼ困難」(日本大会開催自治体の関係者)であるにもかかわらず、である。

日本代表は、これまでにスコットランド、アルゼンチン、ウェールズ、アイルランドと対戦したほか、この秋にはホームでオーストラリア戦、アウェーでフランスと戦う。来年には、W杯2連覇で「オールブラックス」の愛称を持つニュージーランドにホームで挑んだあと、イングランドとラグビーの聖地・トゥイッケナムスタジアムで戦うことが決まっている。

残念な話だが、日本でテストマッチを組んでも観客の入りはいま一つで、「はたしてこのような状況で、W杯はどうなるのだろうか」との懸念は拭い去れない。ラグビートップリーグ(社会人ラグビーの全国リーグ)の観客数もイングランド大会直後と比べて低落傾向にあるのが現状だ。

一方で、アウェーとなった昨年秋のウェールズ戦では7万3000人の大観衆の中、あとわずかで日本代表が金星というシーソーゲームを繰り広げ、現地のファンたちを大いに驚かせた。国際試合として十分に見応えあるもので、興行としてもスポーツ番組のコンテンツとしても申し分のない結果となった。

では、ラグビーW杯日本大会に向けた「現在地」はどこなのか探ってみることにしたい。

去る9月19日には開幕2年前を記念し、Shibuya109でW杯優勝国に与えられるトロフィー「ウェブ・エリス・カップ」がお披露目されるイベントが華やかに行われた。ラグビーの国際統括団体であるワールドラグビーのラグビーワールドカップの統括責任者、アラン・ギルピン氏が登壇し、華を添えた。

また、同時期に来日したワールドラグビーのトップ、ビル・ボーモント会長も、「開幕2年前の節目は、ホスト国と世界中のラグビーファンにとってエキサイティングなマイルストーンとなる」とメッセージを寄せ、開催各都市をカップが巡回することについて「全国的に行われる特別な行事は、ホスト国である日本の人々に対し活気を与えるきっかけになることを喜ばしく思う」とコメントしている。


2年後はこんな日本びいきの外国人観戦客が大挙して押し寄せるのだろうか?(2015年9月、イングランド・グロースターにて)

ちなみにカップは現在、トップリーグの試合会場を巡回中で、11月4日に日本代表がオーストラリアと戦う試合会場となる日産スタジアムで披露されるのがフィナーレとなる。

気になる対戦の組み合わせだが、全48試合の具体的な開催会場と試合日程は11月2日に改めて発表される運びだ。すでにグループリーグのプール組み分けは決まっており、日本代表はアイルランド、スコットランドほか2チーム(今後のプレーオフの経過によって決まる)と当たることになっている。

ただ、開催会場や試合日程は本来、9月中に発表される予定だった。日程の変更について、W杯組織委は「2年前イベントが9月下旬から各地で行われるが、その最後を飾る行事として決勝戦の2年前となる11月2日に試合日程と会場の発表を行うことにした」と説明している。この日には、チケットの価格をはじめとする販売概要が明らかになる運びだ。

これまでにチケット申し込みの公式サイトが開設され、購入希望者は事前登録ができる。「試合開催の自治体に住むファン向けの先行抽選販売」をうたっており、地元での盛り上がりを期待する格好となっている。

雲行きが怪しくなってきた

「日本のみなさんは準備がずいぶん早いですね!」

イングランド大会で盛り上がる開催自治体でヒヤリングをすると、どの都市でも担当者らの間から判で押したように驚きの声が上がった。英国の某自治体でW杯実行委員会の責任者を務めた女性幹部は「まだ日本大会まで4年もあるのに、運営の詳細に関することにまで質問されて……。熱心さに心打たれました」と語っていたことを思い出す。

ところがここへ来て、雲行きが怪しくなってきた。日本がお祭り気分で2年前イベントを迎えていた頃、各国のメディアでは厳しい論評が伝えられていた。

「ラグビーW杯準備のスケジュールに遅れ」(米スポーツチャンネルESPN)

「ワールドラグビー、日本の運営側に『準備を軌道に戻すよう』伝える」(英紙テレグラフ)

「日本、2019年W杯準備の速度を上げるよう勧告受ける」(南アのSport24)

このように外国メディアには、日本大会の準備状況に黄信号を点す記事が目立った。そこで、筆者が開催2年前を機に、関係者に改めて話を聞いたところ、「ワールドラグビー側から準備状況に関し、かなり厳しい指摘を受けているのは事実」との回答が返ってきた。どこにどんな問題があるのだろうか。

W杯の統括責任者であるワールドラグビーのアラン・ギルピン・トーナメントディレクターは、「開幕2年前の状況として、われわれが期待するレベルに達していない部分がある」と準備の遅れについて懸念。特に各チームが調整のために使う公認キャンプ地について「選手がベストの成果を出すための施設として世界的水準にあるべき」としたうえで、「組織委はキャンプ地の選定作業を急がなければならない状況にあることを認識してほしい」と促している。

公認キャンプ地はどこになるのか


前回大会で南アを破った日本代表。日本人サポーターへの現地メディアの注目度がとても高かった(2015年9月、イングランド・グロースターにて)

組織委は公認キャンプ地の選定に際してグラウンド(ピッチ)に関する基準などを盛り込んだ100ページに及ぶ募集要項を作成。キャンプを誘致したい自治体はこのガイドラインに沿って準備を進め、手を挙げた。これまでに37都道府県にわたる90自治体が76カ所で立候補し、決定を心待ちにしている。

しかし、多くのキャンプ地でピッチやホテルなどの施設は「ワールドラグビーが考える水準にマッチしていないのが現状のようだ」(ある自治体の誘致担当者)という。これについて組織委は、「自治体が提案してきた構成施設の中身について現在調整を行っている状況」と説明している。

では、肝心の試合会場についてはどうなのだろうか。

イングランド大会では、試合が行われた13会場中9会場で天然芝と人工繊維を組み合わせた「ハイブリッド芝」が使われた。これを使ったフィールドは、多くの雨が降っても激しいプレーでも崩れることがないという特徴がある。一方、日本では天然芝を使うのが一般的で、時期によっては土がむき出しになってしまうところも少なくない。これについて組織委は「欧州と日本では張ってある芝が違うので、比較するにも基準が違う」と話している。

目下、国内ではノエビアスタジアム神戸を皮切りに、日産スタジアムなどでハイブリッド芝への張り替えが決まっており、W杯本番に向けて徐々に「芝が剝げたピッチ」からの脱却が図られることだろう。

ピッチのコンディションよりもさらに大きな懸念として持ち上がっているのは、観客のスタジアムへの足の確保だ。ワールドラグビーや組織委は、試合そのものをはじめとするスタジアム内部に関するオーガナイズを管轄しているが、観衆のロジスティクスや交通整理などスタジアムの外で起こることは開催地の自治体が管理するという住み分けとなっている。

組織委の嶋津昭事務総長が目指すように、幸いにも「W杯全試合で満席」となった場合、どの会場にも数万人の観客が短時間に押し寄せるうえ、地理不案内な外国人へのケアも考える必要があり、どんな状況が生じるか未知数だ。

ある外国メディアによる「関係者は2002年サッカーW杯を無難に終えた経験を当てにしているようだ」という辛口論評も見掛けるが、確かに多くの会場でシャトルバスによるピストン輸送に頼らざるをえない。関連の各自治体では今後、観戦に来るファン層の拡大だけでなく、当日の運営について頭を悩ますことだろう。

伝統国からのサポーターが満足できるか

筆者の予想では、目下ラグビーの国際試合などで空席が目立つものの、W杯では席が意外と埋まるどころか、試合によっては抽選がかなりの高倍率になる可能性さえもあると見ている。現状で「W杯をスタジアムで見たい」人の割合は、ランダム調査で8%、開催自治体で9%にも上っているからだ。

仮にラグビーを見る層の対象人口を4000万人としても8%なら320万人となり、前回のイングランド大会で販売された247万枚を上回ることになる。これに海外からの観戦客が入手する分もあるので、チケット購入は想像以上の激戦になるかもしれない。

W杯の期間中に日本を訪れる外国からの観戦客について、組織委は「前回のイングランド大会の数字から判断すると延べ40万人ほど」と試算している。数週間にわたって応援を続ける、ラグビー伝統国からのサポーターたちが日本での滞在中に満足できるように対策を打つことも、課題のひとつとなるだろう。

ラグビー日本代表はこのあと、10月28日に福岡のレベルファイブスタジアムで世界選抜と、そして11月4日には前述のように横浜の日産スタジアムでオーストラリアと戦うことが決まっている。世界選抜チームには約2年ぶりに日本でプレーしている「キック前のポーズ」で有名となった五郎丸歩選手が加わった。

また、11月2日にはいよいよW杯本戦の試合スケジュールが発表となるなど、しばらくの間はラグビーにかかわる報道が続くことだろう。「この数カ月間は、大会を成功に導くために厳しい時期となる」(統括責任者のギルピン氏)。大会期間は44日間。開会から閉会まで17日間で終わる東京五輪よりも圧倒的に長く、試合会場も北海道から九州までの広範囲にわたる。はたして、大会の準備はしっかりと進むだろうか。