「楽天 LIFULL STAY」より

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 楽天と、住宅・不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」などの企画・運営を行うLIFULLは、共同で「楽天LIFULL STAY」を3月に設立し、民泊事業に本格参入した。

 その後同社は、旅行予約サイト「エクスペディア」などを手掛けるエクスペディアグループの民泊サイト「HomeAway」、台湾の民泊サイト「AsiaYo.com」、中国の民泊サイト「途家」と、短期間で次々に業務提携を発表している。また、9月4日にはマンスリーマンション紹介サイト「LIFULL HOME'S マンスリー」を公開した。

 6月には、民泊のルールを定める住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立し、今後は全国的に民泊が解禁される。そんな折に誕生した、楽天LIFULL STAYの狙いは何か。代表取締役社長の太田宗克氏に話を聞いた。

●無許可で営業する“ヤミ民泊”も続出

 近年、訪日外国人観光客が急増している。観光庁によると、今年はすでに2000万人を突破しており、中国、韓国、台湾などアジアからの観光客が伸びを牽引しているという。政府が掲げる「2020年に4000万人」という数字も現実味が増している。

 一方、人気観光地や首都圏などでは宿泊施設が不足しており、既存のホテルや旅館だけでは急増するニーズに対応できないという課題も浮上している。そこで注目されているのが民泊だ。

 しかし、民泊をめぐっては無許可で営業する“ヤミ民泊”が続出するなど、トラブルも増加している。民泊という新たな宿泊形態に対応するためには法規制が必要ということで、住宅における宿泊事業を規定する民泊新法が制定され、18年6月から施行される見込みだ。

「これまでは『特区民泊』がありましたが、地域は東京都大田区、大阪府の一部および大阪市、福岡県北九州市などに限定されていました。しかし、民泊新法は全国一斉に施行されることから、全国的に民泊ビジネスが本格始動すると受け止めています。我々としては、これを大きなチャンスととらえ、民泊新法に基づく民泊をターゲットにしたビジネスを進めていきます」(太田氏)

●民泊最大の“ネック”もフォローで大きな差別化

 気になるのは、楽天とLIFULLが共同で民泊事業に参入した背景だ。楽天はかねてから「民泊事業のポテンシャルは高い」と感じていたという。一方、LIFULL もまた、民泊事業の可能性を探っていた。もともと、楽天はLIFULLの株式を保有しており、「良い関係」だったという。

「そんなとき、両社で民泊事業についていろいろと話し合った結果、『楽天単体で行うよりも、一緒にやったほうがシナジー効果が高まる』という結論に至り、新会社を設立したのです」(同)

 楽天LIFULL STAYは、民泊施設を提供するオーナーと利用したいゲストをインターネットを通じて結びつけることで、新たなプラットフォームの構築を目指す。提供予定の宿泊仲介サービスでは、空き家や空き部屋といった遊休資産の所有者には資産活用の機会を、旅行者には宿泊施設の幅広い選択肢を、それぞれ提供する。

 しかし、これは民泊情報サイトではよくあるサービスだ。差別化をどう図るのだろうか。

「民泊は新しいビジネスなので、オーナーには運用についてプロの方もいれば素人の方もいます。今、民泊管理代行業者が運用を行うケースもありますが、当社では民泊管理代行業者と積極的に提携して、物件ごとに管理を委託します。

 それによって、オーナーは管理の手間を省くことができ、民泊管理代行業者にとっては新たなビジネスにつながる。ポイントは、単なるプラットフォームの構築だけではなく、管理業務のマッチングも行うという点にあります」(同)

 民泊の運用は簡単ではない。たとえ物件があったとしても、管理が容易ではないからだ。近隣からのクレーム対応、チェックイン・アウトの管理、清掃などの業務は尽きない。すべて自分で行うのは難しく、それが理由で民泊事業を断念する物件投資家も少なくない。楽天LIFULL STAYは、その管理業務も担うことで、大きな差別化を図ろうとしているわけだ。

 また、同社は全国各地で定期的にセミナーを開催している。民泊新法の波に乗り、“ヤミ民泊”ではなく、合法的に民泊で収益を上げる方法をオーナー向けに解説しているのだ。

 楽天LIFULL STAYは、約9200万にのぼる楽天会員数といった顧客基盤とブランド資産を持つ楽天と、不動産業界で強力なネットワークを持つLIFULLの両社のシナジー効果が何よりの強みだ。セミナー参加者は、まさにそのシナジー効果を期待するという。

「思った以上にセミナー参加者は多いです。そのため、申し込みも一定のところで締め切らせていただいています。みなさんの興味・関心が高く、大きな手応えを感じています。

 参加者は、すでに物件を保有している個人投資家と法人の半々です。なかには、『こういう物件を持っているのですが、民泊でどのくらいの収益が見込めるか、シミュレーションしてほしい』という問い合わせもいただいています」(同)

●民泊新法では営業日数「上限180日」

 ただ、当然のことながら民泊新法には規制がある。前述した特区民泊以外の地域では施設の貸主が自治体に届け出ることが必要で、年間の営業日数は180日が上限となる。この上限について、民泊業者からは「厳しい」という声も上がっている。

「場所や条件によって異なりますが、残りの日数をどう運用していくかがカギです。都心部であれば、短期賃貸との併用ということも考えられます。オーナーは、場所と物件を間違わなければリスクは少ない。場所によっては、旅館業法に定められている『簡易宿所』の許可を得るのもいいでしょう。これについては、ある提案を行ったところです」(同)

 その提案とは、前述したマンスリーマンション紹介サイト「LIFULL HOME'S マンスリー」だ。同サイトでは、1カ月以上の短期賃貸物件を1万件以上紹介している。長期出張のビジネスパーソンや受験生などの需要に応えるほか、「上限180日」に備えて民泊以外の活用法を促すのが狙いだ。

 所有物件を民泊とマンスリーの両方で運用して、安定的に収益を上げる。オーナーにとっては、確かに魅力的な提案ではないだろうか。

●楽天LIFULL STAYが狙う、地方の空き家再生計画

 楽天LIFULL STAYは設立から短期間で欧米、中国、台湾の民泊事業会社との提携に成功している。また、太田氏の前職は楽天トラベルチャイナ最高経営責任者(CEO)だ。グローバルな視野を培っていることが、上々の滑り出しに結びついているのだろうか。

「相手企業との話し合いはスムーズに進みました。今後は各国企業との関係をより深化させていきます。各国とも、日本の民泊マーケットを大変重視しています。欧米は民泊が文化としてすでに受け入れられており、心理的障壁がありません。

 政府は、20年の東京オリンピック・パラリンピックの時点で訪日外国人観光客4000万人を目標にしていますが、この増加に寄与するのが民泊です。民泊は、決して既存のホテルなどの宿泊施設と競合するものではありません。訪日外国人観光客をより多く受け入れるためのツールなのです」(同)

 今、民泊は東京や大阪などの都心部や観光地が中心だが、今後は地方にも普及することが予想される。近年、人口減少および既存住宅流通シェアの低さによる空き家の増加が大きな社会問題となっている。不動産は首都圏などの価格が下がらない地域であれば問題ないが、地方の場合は“不良債権”になることもある。そのため「田舎の家を相続したくない」という声が続出しており、不良債権化した不動産は“負動産”とも呼ばれる。

 地方公共団体は「空き家バンク」などで空き家活用を図っているが、要望が少ないのが現実だ。このままいけば、地方公共団体はさらなる人口減少に見舞われる可能性がある。その救世主となり得るのが民泊事業だ。

「日本の自然というのは良い観光コンテンツであり、農業・漁業体験のできる民泊は、それほど多くの投資をせずに人を呼ぶことができます。キャンプ場の需要も多く、建築基準法などを満たすホテルのような立派な施設でなくても、空き家を民泊のツールとして活用することで、より多くの人を招くことができないかと考えています。その結果、雇用も生まれて町おこしにもつながります。

 そうなれば空き家は再生し、“負動産”から集客資産になる可能性を秘めています。行政を巻き込むことも必要なので、社内に地域創生担当を置いて、さまざまな地域の行政やオーナーと話し合っています。

 最終的には、民泊事業の物件を都心部と地方で半々にする。そして、民泊は地方創生に関しても計り知れないポテンシャルを秘めているということを、みなさんに知っていただき、日本の活性化におおいに役立てたいと考えています」(同)

 民泊は訪日外国人向けの観光ビジネスのみならず、新たな事業創出や町おこしなど、実に多くの可能性を秘めている事業だ。そのトップランナーである楽天LIFULL STAYの動向に、今後も注目したい。
(文=長井雄一朗/ライター)