日野自動車の古河工場では、今年5月に刷新した大型トラック「日野プロフィア」が生産されていた。積載量8〜15トンに対応できる(記者撮影)

巨大なロボットアーム数本がせわしなく動き出す。火花が上がり、キャブ(運転席)部分の溶接作業が始まった。人の姿はほとんど見えない――。

大型・中型トラックで国内首位の日野自動車は、茨城県の古河工場をこのほど報道陣に公開した。5年越しで進めてきた、老朽化が進み拡張が難しい東京の日野工場からの生産移管が完了。海外攻略を進める最重要拠点だ。

日野自動車の海外販売は2007年度に国内販売を台数で抜くと、増加の一途をたどる。2016年度の販売台数は約10.7万台と全体の6割を占める。2017年度の年間販売台数は日本向けが6.7万台とわずか200台しか増えない一方、海外向けは11.6万台と8400台(約8%)の大幅増の見通しだ。

こうした中、同社は国内の生産体制も「海外シフト」を進める。2012年に完成した古河工場では最初、海外で組立を行うための部品を生産する「KD(ノックダウン)工場」が稼働。その後、アクスル(車軸)工場、フレーム工場、車両組立工場、キャブ工場が開設され、2017年9月に大型・中型トラックの全種類・全量の生産移管・集約が完了した。

モジュール化で多品種少量生産が可能に

古河工場の生産能力は年間約4万5000台(1日約180台)で、現在の稼働率は9割にまで高まっている。敷地面積は日野工場の2倍近い約85万平方メートルで、延べ床面積は約13万平方メートル。従業員約2200人が働く。

工場の主な特長は、.皀献紂璽訐源此↓▲蹈椒奪箸粒萢僉↓4超への配慮―の3つだ。中でも日野工場との大きな違いは、車両組み立て用の生産ラインが1本しかないことだ。日野工場では、大型、中型、トラクターの車種別に3本の専用ラインがあった。古河工場では、それを汎用ライン1本に集約。車種が異なっても同じライン上で生産する体制に変えている。

その体制を支えるのが、同社が数年前から取り組んでいる生産の「モジュール化」だ。これは、エンジンやサスペンション、燃料タンクなどをモジュール単位で開発し、できたモジュールを組み合わせて車両を生産する方法だ。この手法の採用により、1本のライン上で生産量が異なる複数の車種を効率的に造り上げることが可能になった。

数十の車型しかない乗用車に対して、トラックは約3800車型もある。その一方、1車型当たりの生産台数は少ない。「多品種少量生産」のトラックでは、モジュール化による生産ラインの一本化は当然の選択だった。


古河工場では、モジュール化により、従来車種別に3本あった生産ラインを汎用ライン1本に集約(記者撮影)

さらに、海外顧客のニーズに沿った製品を短い納期で届ける工夫として、モジュールを「コア」と「周辺」に分類。基幹・共通部品であるコア部品を古河工場で集中生産して、インドネシアやタイなどの「地域中核生産拠点」に輸出し、現地で周辺部品を調達、顧客の元に届ける体制にしている。

こうした改善により、組立工場の生産ラインにおけるリードタイム(所要時間)は従来よりも約3割短縮。モジュールをコアと周辺に分けたことで、供給リードタイムは実に約7割も短縮できたという。

キャブ溶接の自動化率は9割超え


古河工場では、キャブ溶接にロボットを積極的に導入し、自動化率を95%にまで高めた(記者撮影)

ロボット溶接技術も多品種少量生産に効果を発揮している。古河工場ではキャブを生産する際の溶接で、先端に治具(じぐ)を取り付けたロボットが活躍する。日野工場では64%だった自動化率が95%にまで引き上げられた。

常務役員の阿曽雅弘・古河工場長は「トラックでは大きく重いパネルを使うが、溶接のロボット化で、従業員の安全性も保たれる」と、効率面だけでなく、“従業員に優しい”工場であることも強調した。

最先端の技術を取り入れる一方、環境への配慮も欠かさない。古河工場ではキャブの塗装にロボットを採用しているが、塗料ミストの回収に水を使わず、炭酸カルシウムで回収することでセメントに再利用している。これにより節水や廃棄物減少の効果がある。

また、塗装を乾燥させる「ドライブース」からの排熱をリサイクルすることで、二酸化炭素(CO2)排出量を25%削減。さらに、工場の空調や照明などに自然エネルギーを積極的に活用するとともに、雨水・再生水をトイレの洗浄に利用するなどで、ここでもCO2を25%削減。トイレの洗浄に使う水は65%も削減できたという。


日野自動車の中型トラック「日野レンジャー」。海外販売を牽引する主力車種の一つだ(写真:日野自動車)

日野自動車の国内外でのトラック総販売台数は2001年度の約5万台から、古河工場が新設された2012年度には15万台へと3倍に拡大した。2017年度は18.3万台を見込む。海外での販売の伸びが堅調であることから、同社は海外に新工場を建設するなど、現地生産拠点の拡大を図っている。

今年9月には、日本、アジアに続く「第3の柱」と位置付ける米国において、キャブなどの現地生産が可能な工場を2019年に稼働させることを明らかにした。この新工場の稼働で米国では年1.2万台の生産能力が倍の2.4万台になる予定だ。さらにこの10月、ロシアに組立工場を新設することを発表。2019年から2020年にかけて順次稼働させる計画だ。ロシア経済はここ数年、原油価格の下落やルーブル安で低迷していたが、景気の底打ち感が高まっている。拡大する商機に手を打った格好だ。

海外展開のマザー工場に


日野自動車の小梶博副社長は古河工場の生産効率をさらに高め、海外工場にも展開する考えだ(記者撮影)

日野自動車は、古河工場を「マザー工場」と位置づける。構築した生産システムや生産技術を海外工場に展開する際のモデルの役割も担う。

生産を統括する小梶博副社長は「古河工場は、従来の工場よりも生産性が約2割上がっている。ロボット化など工場の特長をより生かすことで生産性はさらに上がるはず」と自信を示す。

今年9月に本格稼働した古河工場が、マザー工場として真の実力を発揮できるかどうかが、会社の成長をも左右することになる。