文化勲章受章が決まった藤嶋昭・東京理科大学長は、光触媒技術が様々な分野で活用され、衣服、ビル・家屋、道路などの汚れ除去、大気汚染の浄化に効果があると指摘した。写真は米中首脳会談で江沢民国家主席がブッシュ大統領に贈った光触媒ネクタイ。

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文化勲章受章が決まった藤嶋昭・東京理科大学長は、豊富な研究実績や教え子の留学生との交流から、自然界の驚異、教育・大学問題まで幅広く語った。この中で、学長がリードした光触媒技術が様々な分野で活用され、衣服、ビル・家屋、道路などの汚れ除去、大気汚染の浄化に効果がある、と指摘。この技術を応用した「汚れないネクタイ」が米中首脳会談を繋いだこと光栄だったと話した。(聞き手=八牧浩行Record China主筆)

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――藤嶋先生がリードした光触媒技術は様々な分野で活用されていますね。

光触媒の技術を応用して繊維の表面を加工し、江雷君が汚れないネクタイを作りました。このネクタイをブッシュ米国大統領の訪中時に江沢民主席が大統領に贈りました。これがその写真(注=写真参照)です。米中首脳会談で話題になったのは光栄なことです。

――技術が米中首脳会談を繋いだというわけですね。

技術は全部繋がっています。とても拡がりがあります。

――先生の研究の延長線上で次々に実用化されているんですね。

酸化チタン光触媒技術は洋服、マフラーなど衣服のほか、ビルや家、道路にも応用できます。大気汚染物質の除去にも効果があります。

――モノづくりや医療・環境など広範な分野で科学技術の発展が大切ですね。ところが日本では理科離れが進んでいるようです。

文部科学省の調査によると、理科の好きな割合は小学5年生が7割であるのに対し、中学生2年生では5割、高校2年生では3割と減っています。こうした傾向に何とか歯止めをかけたいと思います。自然界には興味深いことがいっぱいあります。理科離れ現象は改善できると思います。
このように日本では若い世代の「理科離れ」が深刻です。これを食い止めようと、今小学生新聞に自然界や科学の面白い現象を分かりやすく連載しています。自然界は本当に面白いですよ。

――先生は児童向けの童話とか学生向けの書籍も多く執筆されています。文学少年だったのでしょうね。有名人の箴言(しんげん)集にも詳しいですね。

若い中国人たちを日本政府の資金で毎年数十人、東北師範大学で日本語を徹底的に教育してから来日させて留学させることもやっています。皆優秀な人たちですよ。

――中国のトウ小平氏が1978年の日中平和友好条約締結時に東京の日本記者クラブに来て「中国は日本や欧米に比べ相当遅れている。若い世代の教育が重要で、毎年3千人ぐらいの留学生を日本に送り込みたい」と発言しています。その留学生たちが藤嶋研究室のような研究室に入って学び大きく巣立ったのですね。特に最近のこのようなご時勢、益々若い世代の相互の交流が必要だと思います。

私が東大を退官した時の最終講義に、中国人の教え子全員が来てくれました。その後、2012年3月に古希の70歳になった際、北京の郊外に全員集まり、お祝いの会を開いてくれました。日本は還暦の60歳でお祝いしますが、中国は70歳を盛大に祝うのが習慣のようで、とてもうれしく思いました。

――やっぱり「人間」「人の繋がり」なんですよね。ご著書のタイトルとなった「天寿を全うするための科学技術」という目標はとても含蓄のある言葉ですね。

政治経済でもスポーツでも文化でも何でも、「人間第一主義」が先に来れば平和になります。すべての人の希望することは何かと言えば、健康で、快適に、天寿を全うすることではないかと思っています。科学者は何のために研究するのか、最終目的は何かというと、これに尽きるのではないでしょうか。

――「天寿を全うするための科学技術」という言葉には、光触媒をはじめとする技術や医療の進歩による長寿と、事故や戦争で死んではならないという願いが込められているように思います。

「天寿を全うするための科学技術」もそうでしたが、私が本を出すと中国人の教え子たちが中国語に訳してくれます。

――中国は活字分野が凄いですね。新聞や雑誌、書籍も多く、WEB人口は世界一の7億人に達しています。多くの若者が活字から知識を吸収しようとしています。

姚建年君が私の難しい専門書を翻訳してくれました。さらに私が書いた童話の中国版も顧忠沢君が翻訳し、最近中国・南京で出版されました。

――この間南京に行きました。多くの王朝や中華民国の首都だったところで落ち着いた街ですね。

南京にある東南大学の元学長で教育副大臣だった中国科学院院士の韋[金玉](フエ)さんとも親しくしています。

――中国語でも出版すると地球規模で反響呼ぶでしょうね。小学生に自ら授業をするなど教育に力を入れておられますね。

小さい児童を対象とした「出前授業」を今も続けています。旅行を兼ね大学の2〜3年生の時から始めました。その時の仲間が一番親しいですよ。

――よくお暇がありますね

昨日も小学生新聞向けなど原稿を3つも書きました。書くのは好きです。

――理科を好きになる子どもたちを増やすために教育現場にも足を運んでいるようですね。

先日、愛知県西尾市で午前と午後に100人以上の小学生たちに教えました。よかったのは多くが親子で来てくれたこと。それが一番です。理科教育はお母さんの関心がないとだめです。「キューリー夫人の玉手箱―科学は素敵がいっぱい」(吉祥 瑞枝著)という本は興味深い実験を再現しており、お薦めです。

もっとすごいのは英国の科学者ファラディーの実験ノートが今1巻から7巻まで全部残っています。全生涯におけるすべての実験ノートについて読むことができます。いつどのように考えついたかも分かります。電気分解や電池で使う陰極や陽極を命名し、イオンと言う言葉も作っています。この人の膨大な記録は一番参考になりますよ。

【<文化勲章受章インタビュー(3/3)>最先端の人材が集まれば水準上がる=発明には身近な事象への好奇心必要―藤嶋昭・東京理科大学長】に続く

<藤嶋昭(ふじしま・あきら)氏プロフィール>
東京大学特別栄誉教授。上海交通大学など中国10大学の名誉教授。66年横浜国立大学工学部卒業、71年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学工学部講師、同大学工学部助教授、同大学工学部教授、同大学大学院工学系研究科教授。03年4月より財団法人 神奈川科学技術アカデミー理事長、08年科学技術振興機構・中国総合研究センター長。2010年1月より東京理科大学学長(現在に至る)。日本化学会賞、紫綬褒章、日本国際賞、日本学士院賞を受賞。2010年文化功労者。2017年文化勲章。