蓋を開ければ自民党の圧勝に終わった衆院総選挙。公約にも掲げた安倍首相の悲願でもある憲法改正にまた一歩近づいたと見る向きもあるようですが、「むしろ遠のいた」とするのはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の著者でジャーナリストの高野孟さん。今回の記事中で高野さんは、安倍首相に改憲に必要な国民投票に打って出る力はないとの見方を示すとともに、そもそも今回の総選挙は迷惑千万で無駄なものだったと一刀両断、さらに今後の政界の流れについても分析・予測しています。

やらなくてもよかった無駄な総選挙の無残な結果──立憲民主党の誕生と躍進で「対抗軸」が出来たのが成果

改めて言うまでもないが、国民から見ればやらなくてもよい、何を選択すればいいのかも不明なまま投票所へ足を運ばなければならない、迷惑千万な総選挙だった。それで終わってみれば、自公合わせてほぼ改選前と同じ3分の2超確保で安倍首相続投という、骨折り損のくたびれ儲けのような空しい結果である。

とはいえ、モリ・カケ疑惑で失墜寸前だった「安倍一強」がこれで蘇ったのかと言えばそうではなく、むしろ、政権が下り坂で何かが起きればたちまち転げ落ちかねないという傾向は深まったのではないか。

モリ・カケ疑惑隠しは成功しない

とにかく安倍首相の言うことなすことすべてが、ますます支離滅裂になってきた。

今年の通常国会後半はモリ・カケ疑惑が焦点となり、前川旋風で追い込まれると6月18日、早々に閉会して、以後、口では「国民に丁寧に説明する」と言いながら、野党からの臨時国会開会要求を拒み続け、それへの非難が高まると、「ええい、面倒だ、解散だ」とばかり、全くの自己都合による解散のためだけの臨時国会を召集し、冒頭解散。総選挙を挟んで11月1日に特別国会を召集して首班指名を受け組閣(といってもたぶん全閣僚留任)をしなければならないが、恐らく実質審議はしないまま11月4〜6日のトランプ来日、10〜11日のAPEC首脳会議、14日の東アジアサミットなどの外交日程に逃げ込んで、年内には臨時国会を開かない方針と言われる。ということは、今年の6月中旬以降、来年1月中下旬の通常国会開会までの何と7カ月間も、国会は審議機能を停止したままになるのである。首相が自分と妻の不祥事を隠すために国会を長期閉鎖するという、前代未聞の事態である。

それほどまでに安倍首相はモリ・カケについて「国民に丁寧に説明する」のがイヤなのであり、しかも、そうやって国会が仮死状態にある中で加計学園への認可をこっそりと下ろして、来年4月の開学に間に合わせようという魂胆なのだろう。しかし、こんなことをしても国民も野党も忘れるわけがなく、来年の通常国会は冒頭からこれをめぐって大荒れとなることは避けられない。

改憲発動には簡単には辿り着けない

安倍首相にとって残された使命は改憲しかない。そうであれば、改選前に自公で3分の2を確保し、維新などの協力も見込めた状態であった時に改憲発議に踏み出せばよかったわけで、その3分の2を失うリスクを賭けて解散に踏み切るのは、理屈の上では、改憲断念を宣言するのと同じだった。ところが安倍首相は「憲法に自衛隊の存在を明記する」ことを公約の1つに掲げ、選挙演説の中でも「日夜、北朝鮮の危機に対処し、災害救助でも活躍してくれている自衛隊が、『違憲』だと言われるような状態をきっぱりとなくさなければならない」というようなことを繰り返した。

ところが、その改憲の中身が、彼が5月に突如提起したように「9条1項・2項はそのままで3項付加」の加憲論なのかと問われると、安倍首相はそれは私(と言うけれども実は日本会議の伊藤哲夫氏)の案で自民党内でも公明党との間でも合意が成っているわけではないことを認め、さらに仮に自公すべてがまとまったとしても発議は与党だけでできるものではないことも認めざるを得ない。

しかも、自民党内にも「改憲発議を野党の少なくとも第一党との協力なしに運ぶわけには行かない」という当然の良識論がある中で、安倍首相と同工異曲の9条加憲論を持論とする前原誠司氏や改憲タカ派の小池百合子氏が相手なら与しやすしと思っていたところがその2人は自爆し、代わってまさに瓢箪から駒(瓢箪の細い口から馬が飛び出してくる)の例えそのままに立憲民主党が現れて改憲反対の野党第一党になってしまった。

それでも安倍首相としては、

年内に日本会議案を自民党案としてまとめさせるそれを来年通常国会で両院憲法審査会での議論に委ね、与野党合意(なんて可能なのか?)による成案を得て来年前半の通常国会会期中に3分の2を以て発議し発議から60〜120日以内に国民投票を実施することになっているので、早ければ8月、遅くとも秋までに、(失敗を避けるためには)出来れば衆議院解散と抱き合わせで行いたい

──と考えているのだろう。

ところがこの国民投票ばかりは、失敗すればお終いで、少なくとも数十年、一世代か二世代を経るまで改憲はできなくなる。最後は、安倍首相が自民党を打って一丸、結束させ、それこそ清水の舞台から飛び降りる覚悟で踏み切るかどうかだが、私は安倍首相にその力はないと見る。

だから、この総選挙で安倍首相の望む改憲は近づいたのではなく遠のいたのではないか。改憲がまとめきれない安倍首相は自民党にとって無用の存在でしかないから、この総選挙で来年9月の安倍総裁3選は近づいたのではなく遠のいたのではないか。

立憲民主党を軸とした野党協力の可能性

いずれそのような分析が出て来るだろうが、野党がバラバラでなければ落ちたはずの自民党候補は相当な数に上るものと推察される。次の総選挙、それとどちらが後先になるか19年夏の参院選を遠望すれば、その時までにたぶん希望の党は分解して存在せず、維新も衰退しているに違いない。

民進党はすでにほとんど破裂してしまっていて、残った参院民進党と今回無所属で立った人たちの中の良質な部分は立憲民主党に合流して、同党は路線を曖昧化することなく存在感ある野党第一党となっているはずなので、そこが軸となって社民、自由、共産の各党との選挙協力を改めて基礎から組み上げれば、自公vs立憲主導の野党統一戦線というはっきりした対抗軸が出来上がるだろう。

改めて思い起こすのは、94年12月に214議員を擁する巨大野党として新進党が結成されてマスコミが「保守2大政党制の時代来たる」と囃し立てたのに反発して、鳩山由紀夫・横路孝弘・菅直人・海江田万里各氏らが「リベラル」の旗を立てて96年9月に旧民主党を立ち上げた時のことである。翌10月の初めての総選挙で得た議席は52。それに対して新進党は156、自民党は239で、旧民主党は2大政党の谷間に埋没してしまうだろうとの見通しが盛んに語られた。

それに対して私は当時、「違う」と主張した。小沢一郎氏の「保守2大政党制で政権交代」というストーリーは筋が悪すぎる。旧保守か新保守のどちらかを選べなんて言われても国民は胸躍らないし、そもそもその座標軸では日本が抱えている問題は何も解決の道が見えてこない。最初は小なりといえども「リベラル」の旗を掲げて民主党が打って出ることで、必ず新進党は分解を始めるのだ、と。実際、同党は1年で崩れ始め、2年で分解してその良質な部分が民主党に合流し、最後にはとうとう小沢氏も流れ込んでくることになった。

立憲民主党は今回54、出来た途端に第2保守になるはずだった希望の党はガタガタになった。20年前より流れは速く、次の衆院選挙では同党が政権交代の受け皿となっている可能性が大きい。

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