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<ニューズウィーク日本版10月24日発売号(2017年10月31日号)は「役に立たない?経済学」特集。経済学者の予測はなぜ当たらないのか。経済学の構造的欠陥を検証し、スティグリッツからイエレン、クルーグマンまでエコノミストらに"成績"を付け、今年のノーベル経済学賞を受賞したセイラーの行動経済学も扱ったこの特集から、数学者デイヴィッド・オレルの寄稿を一部抜粋して掲載する>

量子物理学者のニールス・ボーアは、「予測は難しい。とりわけ未来の予測は難しい」と言ったとされる。だが、未来の予測に一番苦労しているのは、経済学者かもしれない。

07年に始まった世界金融危機も、主だった経済学者は予測できなかった。それどころか、危機が始まっても察知できなかった。IMFのエコノミストが同年まとめた経済予測によると、08年に景気後退に入ると予測された国は調査対象77カ国のうちゼロ。実際には49カ国が不況に見舞われた。これでは猛烈な風雨が吹き荒れているのに、嵐ではないと、気象予報士が言っているようなものだ。

日銀総裁の黒田東彦は14年、日本の消費者物価の上昇は、「14年度の終わり頃から15年度にかけて『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高い」と予測した。だが、実際には1%を下回る水準で推移した。

イギリスの経済学者たちは16年、ブレグジット(イギリスのEU離脱)が決まれば、英経済はたちまち大混乱に陥ると自信たっぷりに予測したが、これも現実にはならなかった。このためイングランド銀行(英中央銀行)のチーフエコノミスト、アンディ・ホールデン理事は、天気予報並みの正確な経済予測を示す必要性を訴えた。

実際、経済学と気象学には共通点が多い。ベン・バーナンキ前FRB議長は09年、「天気予報と同じで、経済を予測するには、著しく複雑なシステムを相手にしなくてはならない。それについて私たちが持つデータと理解は常に不完全だ」と語っている。

予測に当たって工学的な手法を使うことも、経済学と気象学は似ている。その一方で、大きな違いもいくつかある。気象予報モデルは、3D格子とニュートンの運動の法則を駆使して、大気の流れを追跡する。そこに雲の生成と消滅(数式処理では近似値が得られるにすぎない複雑な現象だ)などの事象が加わるから、予報プロセスは複雑になる。とりわけ雲(と水の蒸発全般)は、気象学で最も重要な要素の1つ。だから予測は非常に難しくなる。

経済学のモデルも、まず経済をいくつかのグループやセクターに分ける。それぞれのグループには代表的な消費者や生産者がいて、需要と供給といった経済の「法則」によって、その行動を刺激する。ただし常に変動する気象と違って、経済学ではこれら経済の法則によって物価は均衡点で安定すると考えられている。

金融機関はただの仲介人?

また、経済学のモデルでは、経済は巨大な物々交換システムと考えられており、貨幣や債務は主たる役割を果たさない。だが世界金融危機は、まさにこれらの要素によってもたらされた。多くの中央銀行が金融危機を予測できなかった理由の1つは、そのモデルに銀行が含まれていなかったからだ。

たとえ経済モデルで貨幣が考慮されていたとしても、あくまで「金融摩擦」というマイナーな問題として考慮されるにすぎない。現代の世界の金融システムは、極めて複雑に絡み合っていて、ある場所で危機が起きれば、たちまち世界中に波及する恐れがあるが、そうした実態は適切に考慮されていない。伝統的な経済モデルを使って未来を予測することは、水を考慮に入れずに天気を予測するようなものだ。

デイヴィッド・オレル(数学者、科学ライター)