意味する内容が微妙に違う「がん」と「癌」。 その正しい意味

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執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


医学や医療の分野では、字も読み方も難解な用語が多くあります。

たとえば、腫瘤(しゅりゅう;はれもの)、悪心(おしん;吐き気や胸がむかむかすること)、増悪(ぞうあく;症状が悪化すること)などなど。

そんななか、例外的ともいえるのが死亡原因第1位の「がん」です。

医学の専門用語として「ひらがな」で「がん」と表記されます。

しかし漢字で「癌」と表記されたものを目にする方も多いでしょう。

なにがどう違うのでしょうか?ご一緒に詳しく見ていきましょう。

「がん」の特徴

身体の一部の細胞が突然変異を起こし、無秩序に増殖を始め、かたまりとなったものが「腫瘍(しゅよう)」です。

このうち、周囲の臓器を圧迫して害を及ぼしたり、正常組織や隣接する臓器をおかしていったり(浸潤)する、悪性の腫瘍を「がん」と呼んでいます。

「がん」には次のような特徴があります。

初期症状がハッキリしない

がん細胞は増殖し続ける

がん細胞は周囲の組織を弱らせる

がんは転移する

がんの環境要因はさまざま

「がん」と「癌」のちがい

ひらがなの「がん」と漢字の「癌」とはどのように使い分けられているのでしょうか?

大阪大学微生物学研究所の野島博教授によると、「本来の役割を果たさないで、ひたすらに増殖をはじめてしまった細胞」を「悪性腫瘍(あくせいしゅよう)、あるいは悪性新生物」と呼び、これを「がん」とひらがなで表記するとされています。

正常細胞や良性腫瘍でないものが「がん」ということですね。

これに対し、漢字表記の「癌」は、「上皮組織が悪性化(がん化)したもの」とされています。

上皮とは外界と接している身体の表面組織のことを意味し、主に空洞部分に接し、他の器官との区切りや外界からの保護の役割を果たしています。

皮膚、食道、胃、腸、乳腺、肝臓、すい臓、膀胱、子宮などがこれにあたります。

つまり、上皮組織の悪性腫瘍が「癌」ということになります。

がん全体の8〜9割を占めるとされています。

「がん」は「癌」の上位概念

改めて整理しましょう。

人間の身体を構成する約60兆の細胞のうち、正常細胞と良性腫瘍をのぞく「悪性腫瘍=悪性新生物」が「がん」です。

その中で、上皮組織の悪性腫瘍を「癌」と呼びます。

舌癌、乳癌、肺癌、胃癌、卵巣癌などです。

脳、筋肉、骨、血液細胞、リンパ球など上皮性ではない悪性腫瘍の場合、これらは、脳腫瘍、骨肉腫、悪性リンパ腫、白血病などと呼ばれます。

「がん」とは言わず、別の病名がついているのです。

表記のルールからすると、これらは、「がん」であり「癌」ではないことになります。

つまり、癌、骨肉腫、リンパ腫、白血病の総称(=上位概念)が「がん」ということになります。

ちなみに、カタカナの「ガン」は、ひらがなと同義だそうです。

使い分けの意味1:治療法の違い

北海道大学の田中伸哉教授(医学博士;腫瘍病理学)によると、「新聞記事では、特殊な場合を除いて漢字は使わず、すべてひらがな」と前置きしながら、医療関係者の間では、正しい治療を行うために、コトバの使い分けをしているとのこと。

細胞と細胞の結合が強い上皮系では、手術で患部を切除することが多く、これに対して、非上皮系は、抗がん剤、分子標的薬、放射線治療がまず試されるとのこと。

非上皮系の悪性腫瘍は身体の奥の方に位置し、切除しにくいためでもあるとのことです。

使い分けの意味2:病理と臨床と疫学

医師によっては、「がん」と「癌」との使い分けを、「がん」が良性か悪性かを調べる病理学の分野では「腫瘍」、患者さんと接する、病院など臨床分野では「がん」、統計学的な分野では「悪性新生物」と表現されることが多い、という指摘もあります。

たとえば、国立がん研究センター(国立研究開発法人)では、正式名称にひらがなの「がん」が使われています。一方、日本癌学会(JCA)は漢字が用いられています。


【参考】
・野島博『絵でわかる がんと遺伝子』(2012年 講談社サイエンティフィク)


<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供