いよいよドラフトが目前に迫ってきた。連日、「どこのチームは○○を1位指名」という報道を目にするが、それと同じく「隠し玉発見」という記事も見かける。

 隠し玉というと、”下位指名”と決めつけられがちだが、今年のドラフトは全国区の選手が例年ほど多くない。3位指名あたりから「誰だ……!?」と言われるような、隠し玉的存在が早々に指名されることも大いに考えられる。

 こういう年こそ、あとになって振り返ると「ああ、あのときね」と、無名の逸材が発掘されるものだ。


左腕から150キロのストレートを投げ込む亜細亜大の高橋遥人

 まず注目しているのは、とんでもなく速い足を持つ滝川二高(兵庫)の遊撃手・高松渡(176センチ63キロ/右投左打)だ。たとえば、一昨年の廣岡大志(智弁学園→ヤクルト2位)のような将来の主軸が期待できる大型遊撃手ではないが、足の速さだけは強烈な個性として輝いている。

 特に高校生の場合、走攻守三拍子揃った選手より、ひとつ秀でたものがある方が魅力的に映るという話を、あるスカウトから聞いたことがある。そういった意味で、高松はまさにピッタリの選手。その異次元の足に興味をそそられているスカウトは多いだろう。

 同じく遊撃手で、高校生離れした守備を披露しているのが大分商の広澤伸哉(175センチ72キロ、右投右打)。最大の特長は、相手が放った打球が、彼の体のなかに吸い込まれていくように見えるフィールディングにある。無駄に急がず、ちょうどいいタイミングで打球との接点をつくれるリズム感は天性のものだ。

 捕ったボールをすぐ送球できるメカニズムも、今の時代では貴重。特に最近は、捕球したあと両手を広げるような動作で間をつくってから投げる内野手が増えている。その点、広澤は捕球してからワンステップで投げる。さらにスローイングも、今の高校生ではなかなか見かけないスナップスロー。これができるだけでも、かなりの”守備名人”と見た。

 フィールディングのうまさなら、健大高崎(群馬)の遊撃手・湯浅大(170センチ68キロ/右投右打)も忘れてならない存在だ。

 どんな打球に対しても自分のタイミングで捕球できる感覚のよさ。一塁への送球も、カットプレーでのロングスローでもストライクしか見たことがない。素早い身のこなし、プレーの確実性、おまけにチームをまとめられる統率力も頼もしい。

 確かに体は小さいし、バッティングも課題は山積みだ。しかし、突き抜けたセンスを持った天才肌であるのは間違いない。

 この”フィールディング名人”は、本来なら隠し玉ではなく、バリバリのドラフト候補だった。それが今年2月、練習中に右手首を骨折。春のセンバツには出場できず。なんとか夏は間に合ったが、持ち前のプレーを発揮できぬまま終わってしまい、すっかり”隠れた存在”になっていた。春から夏にかけてのブランクが長かったので、進学か就職か、いずれにしてもワンクッション置くだろうと思っていた。それが「プロ志望届」を提出したものだから驚いた。

「しめしめ」と思っている球団はあるはずだ。それほどに、湯浅の野球人としての能力は素晴らしい。

 隠れているといえば、こんなところにいたのか……と驚いたのが、BCリーグの石川ミリオンスターズでプレーする投手・寺岡寛治(180センチ85キロ/右投右打・24歳)だ。

 昨年、社会人野球の九州三菱自動車でライトを守っていたときに見た、三塁と本塁への返球は凄まじかった。定位置よりもうしろから、ダイレクトにライナー軌道の送球がそのままバックネットに突き刺さることもあった。

「どんな肩をしてるんだ!」

 精度はもうひとつだが、地肩の強さは間違いなくアマチュア球界でナンバーワン。それが今年、BCリーグのマウンドに上がり、セットアッパーとして立て続けに150キロ台のストレートを投げ込んだときも、半分驚きながらも「彼ならありそうだわ……」と妙に納得したものだ。

 元々、強烈な投手志向があり、マウンドから全力投球したくて独立リーグに入団したという。なるほど、嬉々として腕を振っている。積もり積もった”投手への思い”を発散させながら投げている。150キロというスピードより、これだけ投げることに飢えていたことに大きな魅力を感じている。

 相手がストレートとわかっていても、簡単に当てられるような球ではない。特にベルトより上のボールゾーン付近のストレートは、全盛期の藤川球児(阪神)を彷彿とさせる。

 最後にもうひとり、亜細亜大の高橋遥人(179センチ85キロ/左投左打)も、トップクラスの潜在能力を隠し持ったサウスポーだ。常葉菊川高(静岡)時代からのしなやかさに、大学で強さが加わり、軽く腕を振っているように見えて、150キロ台をさりげなくマークする。こんな快速サウスポーはプロにもそうはないない。

 能力だけならもっと注目されてもいいはずなのに、なかなか結果が伴わない。3学年上の先輩である薮田和樹(現・広島)ではないが、とんでもない才能を持ちながら、それを学生時代に生かせない選手は少なくない。彼らは環境が変わった途端、別人のように活躍することがある。私には、高橋がそうした選手になるような気がしてならない。

 隠し玉といえども、秘めている才能は間違いない。それを生かすもの、眠らせるもの大切なのは環境と本人の努力。そんな彼らを指名する球団はどこなのか。

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