芯が1本しっかりと通っているチームは、戦い方にブレがないから、シーズン終盤になっても強い。というより、なってこそ強い。そんなことを感じさせる試合だった。

 J2第38節、大分トリニータは敵地で松本山雅FCを2-0で下した。この勝利で勝ち点を60に伸ばした大分は、順位でも9位から8位に上昇。J1昇格プレーオフ進出圏内となる6位との勝ち点差をわずか1に縮めている。


プレーオフ進出が見えてきた大分トリニータ

 大分に見る”芯”とは、ボールポゼッションを主体としたサッカーである。この試合でも、川西翔太、鈴木惇のダブルボランチを中心にピッチを広く使ったパスワークで主導権を握っていた。

 前半20〜30分あたりまで、松本が引いて構えるような消極的な戦い方に(意図的かどうかはともかく)出たこともあり、大分は立ち上がりからテンポよくボールを動かすことができた。必ずしも決定機を作れていたわけではなかったが、大分がこの時間帯で試合の流れを大きく引き寄せたことは間違いない。

 38分の先制点にしても、セットプレーからのゴール(鈴木惇のCKを相手GKがパンチングしたボールを、MF岸田翔平が拾ってミドルシュートを決めた)ではあったが、大分ペースの流れに沿って生まれたものだ。

 しかも、大分を貫く芯は、着実に熟成の度合いを強めている。

 この日の試合でも、ただパスをつないでボールを保持するだけではなく、長めの縦パスをDFラインの背後へ、あるいは前線の選手の足もとへと有効に使い分け、果敢に松本ゴールに迫った。

 2点目のゴールにしても、そんな流れから生まれたものだ。DF福森直也が前線へ送った縦パスが一度はカットされたものの、セカンドボールを川西が拾うと、左サイドに空いたスペースへ飛び出したMF松本怜へパス。縦パスを受けた松本が、そのままカットインから右足でシュートを叩き込んだ。

 セカンドボールを拾ったところから1本のパスでシンプルにゴールに結びつけたそのプレーは、まさに”ダイレクトプレー”のお手本だった。

 雨のなかでの試合とあって、濡れたピッチでボールコントロールが乱れることも多く、この試合に関しては、必ずしも縦パスから決定機につながることは多くなかった。だが、こうしたパスの狙いは、縦方向へのスピードアップのタイミングをチーム全体で共有できている様子をうかがわせる。パスワークの中心を担う、ボランチの鈴木惇が語る。

「選手同士が近いところで細かくやる(パスをつなぐ)だけでなく、1本のパスでゴールへ向かえるなら、そのほうが手間がかからないから常に狙え、と監督からも言われている」

 特に後半、松本がビハインドを挽回しようと前がかりになってからは、ダイレクトプレーがさらに威力を発揮した。スピードのあるFW伊佐耕平をセンターフォワードに置くことで、松本のベテランDF陣との”ミスマッチ”を突く狙いも有効だった。

 とはいえ、この日の大分が勝利できたのは、ボールポゼッションを軸にした攻撃だけが理由ではない。それ以上に大きかったのは、ともすればポゼッション主体のチームにありがちな”軽さ”がまったく見られなかったことだ。

「アウェーで、松本相手ということで、厳しい戦いを覚悟して臨んだ。球際や走るという部分で隙のない素晴らしいチームを相手に、我々が37試合で積み上げてきたものが通じるかどうかのチャレンジだった」

 雨中の激闘を制し、大分の片野坂知宏監督はやや上気した様子でそう話し始めると、誇らしげに、そして力強く続けた。

「選手は最後まで(集中力を)切らさず、一体感を持って自分たちの戦いをやってくれた。勝ち点3に値するプレーで、松本を上回ることができた」

 指揮官が語るように、大分は自らの特徴であるボールを保持して攻撃を組み立てるという点はもちろん、ルーズボールの競り合いや、ゴール前での最終局面で相手選手よりも先にシュートコースやパスコースに体を入れるといったハードワークでも、松本を凌駕していた。

 もちろん、スコアのうえでは2点差にすぎないゲームは、「(勝敗を分けたのは)ちょっとしたところの差。もしかしたら、逆に我々が勝ち点を落としていたかもしれない」(片野坂監督)。だが、客観的に内容を見れば、大分の勝利は極めて妥当な結果だった。

 今季開幕当初から、一貫して芯の通ったサッカーを続ける大分は、J3からJ2へ再昇格して1年目ながら、ここまで常に上位から大きく引き離されることなく、昇格争いに食らいついてきた。

 そして、シーズン最終盤の現在、ジワジワと順位を上げ、プレーオフ進出圏内にあとわずかというところまで迫っている。

 鈴木惇は「自分たちはJ3から上がってきたばかりなのに、こういう時期までプレーオフを狙えるのはラッキーなこと」と謙虚に語り、こう続ける。

「だからといって、今までやってきたサッカーを変えてでも、何が何でも勝とうというのではなく、自分たちのサッカーを貫いて成長していくなかで、プレーオフに出られたらいい。次の試合では今日の試合よりも(プレーの)精度を上げ、その次の試合ではさらに上げ、その結果としてプレーオフとか、昇格とかがついてくればいいと思う」

 かつて大分は、2008年にナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を制するなど、J1の舞台でまぶしいほどのスポットライトを浴びながら、その後、J2降格の憂き目に遭い、ついにはJ3にまで転落した。J1経験を持つクラブのJ3降格は、大分が初めてにして唯一である。

 だが、屈辱的な思いを味わった大分は、だからこそ目先の結果にばかりこだわることなく、まずは強固な土台を築こうとしている。そうでなければ、同じことの繰り返し。そのことを痛いほど理解しているからだ。

 なるほどピッチ上で繰り広げられる芯の通ったサッカーには、そんな矜持(きょうじ)が見て取れる。J3時代から指揮を執る、片野坂監督は語る。

「残り4試合、集中力を切らさず、タフに戦うゲームをやっていくことが大事。全員で最後に喜び合えるようにやっていきたい」

 大分が今季、すでに内容的に見て充実のシーズンを送っていることは間違いない。だが、内容に納得するばかりでなく、J2復帰1年目にして、早くも結果を手にする可能性も十分に残されている。

 芯が通っていればこその強さである。

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