川崎フロンターレの選手たちの技術を向上させ、現在は名古屋グランパスを率いている風間八宏監督【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

ポゼッションと得点に関する間違った期待

 川崎フロンターレでも、名古屋グランパスでも選手の技術を向上させ、圧倒的な攻撃力を発揮してきた風間理論。そこに日本サッカーの得点力を上げるヒントが隠されている。このほど風間八宏監督との共著書『技術解体新書』(カンゼン)を上梓した著者が独特の言葉を用いる風間理論の中でも「外す」に着目し、「決定力」「得点力」の正体を解き明かす。(取材・文:西部謙司)

----------

 風間八宏監督のサッカーは「ポゼッション・サッカー」と呼ばれる。確かによくパスはつながっているし、ポゼッション率も非常に高い。率いた川崎フロンターレ、名古屋グランパスで変わらない特徴だ。しかし風間監督本人は、「ポゼッションなんて、あんまり言ったこともない」という。

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「ポゼッションはそれだけでは何の意味もない」と話していたが、ポゼッション率はボールをどれだけ保持していたかの数値にすぎず、それが勝敗に直結しないのはコアなサッカーファンなら実感しているに違いない。

 ポゼッションが高いと自然に守備が崩れてゴールを奪えるわけではないのだ。得点するにはチャンスを作る、チャンスを決めるというポゼッションとは別の能力が必要で、パスワークでボールを運んでいくのはその前段階にすぎない。

 日本サッカーにある種のポゼッション信仰があるのは、バルセロナの影響が無視できないと思う。ペップ・グァルディオラ監督が率いたバルサは70%のポゼッションでゴールを量産したモンスター・チームだった。

 バルサの影響は日本にかぎらず、欧州トップクラブでも模倣したところは少なくない。だいたいポゼッション自体はすぐに上がる。しかし、それが思ったほど得点には結びつかない。

 パスの本数が増えればミスの確率も上がるので、そのうちにカウンターを食らって負けてしまう。自分のチームにメッシがいないと気づいた時点で、バルサになれないと悟りポゼッションを捨てることになる。

 ポゼッションして点が入らないのはポゼッションが悪い、そう勘違いしてしまったわけだ。ポゼッションすれば半ば自動的に点が入るという間違った期待をしていたのだろう。

得点率の高いエリアでシュートを打つ。そこからの逆算

「川崎でも名古屋でも『外す』から始めました」(風間監督)

 風間監督の言う「外す」は、ゴール近くでマークを外してパスを受けるプレーを指す。つまりシュートへ直結するプレーだ。最後の仕上げのところからトレーニングを始めていて、そこまで持っていくポゼッションより優先していたわけだ。

「最後の答えを持たないまま、ポゼッションなんて怖くてできないですよね」(風間監督)

 答えの出ない式を作り続けても袋小路に迷い込むだけ。しかし、ゴールを奪うための答えを持っていれば、ポゼッションは強力な意味を持つ。より多くのチャンスメークにつながるからだ。ポゼッションには相手のチャンスを減らす効果もあるが、それに意味を持たせるのは主にゴールするための答えがあるかどうかにかかってくる。

「外す」から始めたという風間監督のサッカーは、いわば逆算方式になっている。

 シュートが決まるエリアは実は決まっていて、そのエリアでシュートを打つことが得点力を上げる決め手になる。ペナルティーエリアの中、そしてゴールラインの幅。このエリアはゴールデンエリアとも呼ばれていて、他の場所からのシュートに比べて格段に得点率が高いことは各種の統計でもはっきりしている。このエリアでシュートを打つためのアプローチを確立するのが得点への近道といえる。

 ゴールデンエリアへの進入路は3つ。両サイドと中央だ。急がば回れではないが、サイド攻撃は有効な攻め手として知られている。クロスボールはDFにとって“ボールウォッチャー”になりやすく、つまりゴールデンエリアでフリーな選手を作りやすい。そしてシュートはダイレクトシュートになるのでGKにとっては防ぎにくい。

 しかし、風間監督のチームは中央突破が主要ルートになっている。サイド攻撃もあるが、まず狙っているのは中央である。なぜならペナルティーエリアの三辺で一番長いのが横方向へ引かれた中央のラインだからだ。横幅は44.8メートルある。一方、サイドの縦のラインはそれぞれ18.5メートル。ゴールデンエリアに人とボールを送り込むには、正面の進入路が最も広い。

人体の弱点をつく。「攻撃では敵を見ろ」

 ただ、そこを守る人数も多い。サイドの18.5メートルの門番はたいがい1人だが、正面の44.8メートルは4〜5人で固められている。単純に4分割しても1人が11.2メートルを守っているわけで、これだけなら正面の間口がサイドより広いとはいえない。

 だが、もしそこを通過できるのなら、ペナルティーエリア内のゴールエリア幅に人とボールを送り込むには最短距離になる。正面のラインを通過してしまえば、ほぼゴールデンエリアに入れている。風間監督は、そのためのスペースも十分あるという。

 この場合のスペースとは、何メートルという単純な長さや広さではなく、1個のボールと1人の選手を通過させる空間があるかないか。「外す」技術があれば、場合によって1、2メートルの幅でも通過できないことはないという。だから44.8メートルなら十分な間口の広さと捉えているのだ。

 風間監督の言う「外す」は、人体の弱点をつくことで成立している。

 例えば、右方向へ動いている選手は左方向へは動けない。バカバカしいぐらい当たり前の話だが、DFが右方向へ動いた瞬間にFWが逆の左へ動き出していれば、そしてその瞬間にボールがFWに届いていれば、DFはFWの突破を阻止できない。DFが動き直して守備に入る前に、FWはペナルティーエリア正面のラインを通過している。

 マークを外したその瞬間にボールが届いてさえいれば、FWとDFの間隔は1メートルでもペナルティーエリア正面のラインを通過できることになる。外した瞬間にパスを受け、44.8メートルのどこかを通過してしまえば、もうそこはゴールデンエリアだ。最もシュートの決まる確率の高い場所に人とボールを送り込んだことになる。

「外す」を成立させるためには、パスのタイミングが重要だ。受け手がDFの守れない場所に移動した瞬間、ボールが届いていること。早すぎても遅すぎても成立しない。

 ボールの移動時間があるので、パスの出し手はむしろ受け手が外しきるより早く、つまり外しにかかっているタイミングでボールをリリースする必要も出てくる。

「攻撃では敵を見ろ」(風間監督)

 味方の動きを見てからでは、パスのタイミングが遅れるからだ。DFが動いた瞬間こそがパスのタイミングで、DFを外した味方が移動する場所を予測してそこへ蹴る。DFは動いていれば守れない場所ができている。人体はそうなっているからだが、その守れない場所をパスの出し手と受け手が共有していることが第一。第二にタイミングを逃さないこと。場所とタイミングの一致に「外す」の成功はかかっているわけだ。

タイミングを合わせるためのツール。キャッチボールへの接近

「崩すときに組織全体を見てしまうと、かえってわからなくなる」(風間監督)

 4バックを攻略したいなら、4人すべてを見る必要はない。1人を外して攻略するか、2人の間をつけばいい。つまり個の勝負。組織で見てしまうと袋小路に入ってしまうが、個対個に還元すれば単純な答えが見えてくる。

 ただ、単純だから簡単というわけではない。パスの受け手と出し手のタイミングを合わせるのは、1秒かそれ以下の世界の話になり、そこを合わせるのは決して簡単ではない。風間監督はタイミングを合わせるツールとして「ボールを静止させること」を要求している。

 ボールコントロール=ボールの静止。そう定義することで、はじめてコンマ数秒の場所合わせのタイミングを共有できるからだ。

「キャッチボールができなければ野球になりませんよね。サッカーではなかなかキャッチボールができないのですが、それに近づけることはできる」(風間監督)

 ボールを足でつかむことは不可能だから、サッカーではキャッチボールはできない。ただ、それに近づけることはできる。ワンタッチで最適の場所にボールを静止させれば、もうボールを見る必要がない。

 最短時間で次のプレーへ移行できる。ボールをつかんでいるのに近い状態になり、受け手にパスのタイミングがわかる。風間監督は「今が出来る」と表現している。

 さて、「外す」ができれば正面突破も可能になり、もちろんサイドからの侵入やクロスボールにも同じ原理を適用できるわけだが、「外す」ができるなら相手が人類であるかぎり同じく使えるというところは最大のメリットかもしれない。

「決定力不足」よりも「決定機不足」? 日本に向いている攻撃の方法

 日本サッカーの弱点の1つとして、よく「決定力不足」があげられる。シュート技術については風間監督に別の持論があるわけだが、それはともかく、実は決定力よりも決定機不足なのかもしれない。チャンスの数というよりチャンスの質だ。

 前記のゴールデンエリアでのシュート技術に関して、日本選手がとくに低いとは思わないのだ。世界トップクラスのクラブや代表チームのシュート練習を何度も見たことがあるが、実は意外なほど入らない。Jリーグや日本代表の練習との比較でいうと、そんなに大差はないのだ。

 もちろん特定の選手には抜群のシュート技術があり、そこの差はある。メッシやロナウドは日本にはいない。ただ、そこを除けばそんなに大差はない。決定機の質と数が増えれば、日本は決定力不足ではないかもしれないのだ。

 ただし、それはフリーでシュートする場合の話。空中戦を競りながら、あるいは競走して体をぶつけながらのシュートということでは、依然として差はある。つまり身体能力が決め手になるゴール前のデュエルにおいて、世界のトップと比べれば日本は明らかに劣勢であるということ。ここは確かにレベルアップしなければならない。

 しかし、フリーであればそんなに差がないとすれば、「外す」ができれば決定機の質が上がるので決定力も上がると考えられる。「外す」はシュートの瞬間にフリーになれるアプローチであり身体能力の差は関係がないからだ。

 日本にメッシやロナウドが生まれれば、決定力不足は解決できるかもしれない。天才の登場を待つのではなくシュート技術を高める、デュエルにも強いストライカーを育成する、これも大事なことだ。

 しかし、それなしでも得点への道はある。「外す」は、その意味で現状の日本におあつらえ向きの、身体能力に左右されないでゴールを奪う方法といえる。また、人体が同じであるかぎり通用する普遍的な攻め方でもある。

(取材・文:西部謙司)

text by 西部謙司