【コラム】土居聖真は猛獣になったのか。洗練された理想と覚悟

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 ずっと気になっていた。彼は猛獣になったのだろうか。

 鹿島アントラーズ、土居聖真のことだ。

「もう、猛獣使いになるのはやめた。俺が猛獣になるよ」

 そんな覚悟を聞いたのは、夏の中断期間が明ける前だった。我を貫くのか、組織を回す潤滑油に徹するのか。このさじ加減、FWにとって古今東西に共通のジレンマでもある。万能型の25歳なら、なお悩みは深い。あの時、出番に恵まれずにいた土居は、優しいパスを配る「猛獣使い」から、強引にでも自ら突き進む「猛獣」への変身こそが必要だと感じていた。

 先発の座を奪い返し、秋は深まりつつある。迎えた21日の明治安田生命J1リーグ、横浜F・マリノス戦。ペドロ・ジュニオールの負傷が癒え、金崎夢生の出場停止が解けた。土居は8試合ぶりにベンチでキックオフの笛の音を聞いた。

 立場は盤石ではなかったということか。1−2と劣勢の56分、途中出場の機会が巡ってきた。

 アディショナルタイムを含めて40分間ほどのプレーは「運がなかったかな」。果敢に仕掛け、実を結びかけた局面は確かにあった。瞬時に加速し、ペナルティーエリア内で背後から倒されたかに思えたドリブルはPKならず。左を抜け出してスルーパスを導き、ゴールネットを揺らしたシュートはオフサイドと判定された。

 ただ全体を見渡せば、比重は猛獣使いに傾いていた印象だった。無理もない。猛獣タイプのペドロと金崎が2トップに並ぶと、攻め手は単発で単調に陥る嫌いがある。途中出場の土居が果たすべきは、組み立てとリズムに変化をもたらす動きだった。1タッチパスで展開に抑揚をつける、外に開いて起点になる。つなぎ役を渋くこなし、厚みのある攻撃をお膳立てした。

 つまり、機能してはいた。けれど、夏の覚悟から考えると察してしまう。もっと自分で勝負したかったのではないか。やっぱり、どこかジレンマを抱えたままピッチに立っていたのではないか。試合後、率直に疑問を投げかけた。土居はさばさばと答えた。

「求められている役割は多い。そういうことなんだと思う」

 もちろん、ゴールは取りたい。でも、決して逃げのプレーは選択していない自負がある。「ああいう流れで試合に入れば、ああいう仕事をしなきゃいけない。どうすれば点が入るのか。具体的に考え、頭を使い、周りを見て、相手の逆を突く。絶対、その方が可能性は広がるはず」。苦笑しながらつけ加えた。「時には強引さも必要だけど」

 猛獣か、猛獣使いか。二者択一ではなく、両方とも担えるように。期待値が高いからこそ、そびえる壁。突き抜けてこそ、FWとして次の高みにたどり着ける。

 試合に敗れ、2位の川崎フロンターレが勝ち点2差と迫る。「他のチームの結果に委ねることはしちゃいけない。勝ち続けなければ連覇できないって、最初からわかっているから。個人的にも危機感を持って、やり続けるだけだから」

 シーズン最終盤の冬は間近。理想は研ぎ澄まされていた。あらゆる意味で、土居は腹をくくっている。

文=中川文如