相手の都合を最優先するのは気を使っているように見えて…(写真:xiangtao / PIXTA)

労働政策研究・研修機構の『ユースフル労働統計2016』によれば、100人以上の規模の会社で「課長」は5.8%、「部長」は2.8%。「役員クラス」へのぼりつめるにはもっと狭き門になります。
「課長どまりの男」と「役員までのぼりつめる男」との違いはいったい何なのか。仕事ができる、できないを印象づけている行動習慣とは何なのか。『カリスマヘッドハンターが教える のぼりつめる男課長どまりの男』の著者・森本千賀子氏が、女性ならではの視点で2つの結論を導き出します。

「のぼりつめていく人と、課長になれても、部長や役員クラスになれない人」。そこにはどんな違いがあるのでしょうか。のぼりつめる男は、「仕事のセンスがいい」「人として気持ちがいい」という2つの言葉に集約されます。

課長どまりの男に見えていない「死角」

仕事の進め方、時間のかけ方、相手との距離感の作り方、心の配り方。仕事ができる人は、数字としての成果はもちろんですが、それを導いた「仕事の進め方」であったり、「周囲とのやり取り」や「信頼関係づくり」に、その「違い」が如実にあらわれているものです。

たとえば、「アポイントを取る」という、ビジネスシーンでは日常的な場面も、早速、「おっ」と思わせるか、「あれれ?」と感じさせてしまうか。1つの分かれ道といえます。

メールでも、時には電話のときもあるかもしれませんが、アポを取ろうとするとき、あなたはどう伝えているでしょうか?

A:「希望の日時をお知らせください」
B:「〇月〇日〇時、×月×日×時、△月△日△時のいずれかではいかがですか」

A、B、どちらが「のぼりつめる男」の答えでしょうか?

この答えは……アポ取りのメールのやり取りで、最も非効率なNGパターンは、

A:「希望の日時をお知らせください」

です。これは、その後のやり取りを想像すれば、すぐに納得いただけるでしょう。

A:「希望の日時をお知らせください」
B:「では〇月〇日〇時、×月×日×時、△月△日△時のいずれかではいかがですか」
A:「申し訳ありません。いずれも埋まっておりました。その次の週ではいかがでしょうか」
B:「では、〇月〇日〇時、×月×日×時はいかがでしょうか」
A:「〇月〇日〇時でお願いいたします」

きっと、このようになることでしょう。しかしながら、この5回のやり取りは、本来、2回で終わらせることができるものなのです。

A:「当方の希望候補日は以下のとおりですが、ご都合はいかがでしょうか。〇月〇日〇時、×月×日×時、△月△日△時」
B:「では、×月×日×時でお願いいたします」

前者の「希望日を聞く」アポの取り方では、「ご希望をお知らせください」と、相手を尊重したつもりでいて、結果的には相手に余分な手間をかけさせていることになります。

これはたとえるなら、自分の「カード」は出さないままに、相手の「カード」を出させている状態。相手に手帳をめくらせて複数案出させ、自分がすぐに返事をしないかぎり、そこに予定を入れたくても入れられない「保留」という状況をつくってしまうのです。

さらにその都合が合わないとなると、その同じ手間を2度取らせることになります。

「お願いする立場」だからこそ、「手間」を想像する

とはいえ、「希望の日時をお知らせください」と書きたくなってしまう気持ちも理解できます。相手が目上の方や、これから営業をかけたい相手などであれば、こちらは面談を「お願い」する立場。自分から候補日を指定するのは失礼と考えるからでしょう。

そんなときは「いったん、私のほうから候補日を出させていただきますが、ご都合が悪いようでしたら、ご希望日時をご指示ください」とひと言入れておくといいでしょう。

「のぼりつめる男」は、アポイントを取るときにも、「相手の手間を最小限にする」という狙いがちゃんとあるのです。

細かいことのようですが、面談の時間の示し方にも、相手への配慮ができるか否かはあらわれています。

たとえば、ある日の面談候補日をもらい、「13〜15時でお願いしたい」と返信するとき。こんなふうに書いてしまうことって、ありませんか?

「●月×日、13時から15時でよろしくお願いいたします!」

実は、これももう一歩、相手への心配りが足りない文面といわざるをえません。

というのも、これだけでは、「13時にスタートして15時までの2時間」なのか「13〜15時のうち1時間」なのか、事前に情報がないかぎり、相手は判断がつきません。再度「2時間ということですか? 1時間という意味ですか?」と、問い合わせをする必要が出てくるのです。

「この書き方は、相手は一読しただけでわかるものなのか。この文面だけを秘書や部下が一読したときに、違った解釈を招いてしまわないか?」

仕事ができるのぼりつめる男というのは、ここでも想像力を働かせて、相手の手間を最小限にすることを徹底しているのです。

課長どまりの男ほど、やりがちな「資料の再チェック」

ようやく取りつけたアポイント。初めての訪問先に、約束の時間よりも少し早く到着したとき。実はここにも、課長どまりの男とのぼりつめる男との違いがあらわれています。

高い業績を上げているビジネスパーソンは、初めて訪れたオフィスで、実に入念に、その会社の隅々を観察します。会社の「顔」となる受付の内装や、そこに置かれた調度品、出入りしている社員の身なりや表情に注目して、会社の社風や価値観、こだわりなどを感じようとします。面談相手とのコミュニケーションに生かす人も多いでしょう。

受付で、「かならずチェックすべき」という場所があります。それは、受付にある「内線番号表」です。

「受付○番におかけください」としか案内がないケースがありますが、企業によっては、すべての部署や、さらには各部署のメンバーの名前まで掲示されていることもあります。

その、内線番号表を必ずチェックするのです。

これは、私がリクルートに入社して以来、新人時代から身にしみ付いている行動習慣ですが、この組織図は、「その会社のバリューチェーン」を教えてくれる、貴重な情報源なのです。

バリューチェーンとは、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーターが提唱する概念で、企業活動は、購買物流、オペレーション(物流)、出荷物流、マーケティング・販売、サービスなどの「主活動」と、企業インフラ、人材資源管理、技術開発、調達などの「支援活動」で構成されるというもの。

内線番号表でわかること

内線番号に描かれている部署名は、多くの場合、その会社のコア事業の部門がトップに、次いでコア事業に近い部署順に並んでいるものです。

それを見ると、会社の組織づくりへの考え方や、その会社が力を入れている領域、手薄な領域を知ることができ、商談のなかで相手の課題やニーズをつかみやすくなるのです。


たとえば、管理部門やコーポレート部門が上位に配置されていて、さらに企業規模の割には細かく人事部、総務部、経理部、財務部などまで分けて表示している場合は、管理系などの基盤が充実している企業だなと感じたりします。

のぼりつめる男は、顧客や提携先とお付き合いするにあたり、自分がかかわっている担当部署だけを見るのではなく、相手の会社組織全体を広く俯瞰(ふかん)しています。「いま直面している課題を解決するには、この部署とも協力する必要がある」「営業をかけるなら、この部署よりもあちらの部署のほうがよさそう」と、他の部署へも取引を広げたりするのです。

「隠しているわけではないけれども、表には出ていない情報」は、どの企業にもあるでしょう。それは現場でつかむべきもの。のぼりつめる男は、それを「受付」という、誰もがあたりまえに通る場所で、逃さずつかんでいます。